「大阪地方裁判所第21部(武宮英子裁判長)は、令和5年10月31日、原告が製作・販売していた商品(婦人服)について、被告がこれを模倣した商品を販売したと主張した事案において、被告商品は不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に当たらないと判示しました。

ポイント

骨子

  • 原告商品と被告商品の素材の違いからくる商品の「光沢及び質感」が商品全体に対して需要者の受ける印象に相当程度影響するとして、形態の実質的同一性を否定しました。
  • また、両商品の共通点に係る形態が「ありふれた形態」であるか否かにつき、両商品の共通点にかかる形態ごとに「ありふれた形態」であるかを検討し、先行商品から容易に着想し制作することができることを理由に、該当しないものと判断しています。

判決概要

裁判所 大阪地方裁判所第21部
判決言渡日 令和5年10月31日
事件番号 令和4年(ワ)第6582号
事件名 販売差止等請求事件
裁判官 裁判長裁判官 武宮 英子
裁判官    阿波野 右起
裁判官    島田 美喜子

解説

商品形態模倣

不正競争防止法2条1項3項は「他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為」を不正競争行為として定めています。これは、先行者が商品形態開発のために投下した費用・労力を保護する趣旨のものであるとされています。

商品形態模倣の該当性

商品形態模倣の該当性は、他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出したといえるか、という観点で判断されますが、不競法2条1項3号の趣旨は、先行する商品を開発した者が投下した資本や労力を保護する点にあることから、ありふれた形態は保護の対象になりません。詳細は、こちらをご参照ください。

「ありふれた形態」について

上記の記事でも述べている通り、不競法2条1項3号の趣旨は、先行する商品を開発した者が投下した資本や労力を保護する点にあることから、特段の資本や労力をかけることなく作り出すことが可能な「ありふれた形態」については、同号により保護される「商品の形態」には該当しないと考えられます。
この点について、知財高裁平成31年1月24日(平成30年(ネ)第10038号)は、下記のとおり、「ありふれた形態」にあたるか否かについて、商品を全体として観察して判断すべきであるとしています。

このような同号の趣旨に照らすと,同号によって保護される「商品の形態」とは,商品全体の形態をいい,その形態は必ずしも独創的なものであることを要しないが,他方で,商品全体の形態が同種の商品と比べて何の特徴もないありふれた形態である場合には,特段の資金や労力をかけることなく作り出すことができるものであるから,このようなありふれた形態は,同号により保護される「商品の形態」に該当しないと解すべきである。そして,商品の形態が,ありふれた形態であるか否かは,商品を全体として観察して判断すべきであり,全体としての形態を構成する個々の部分的形状を取出してそれぞれがありふれたものであるかどうかを判断することは相当ではない。

なお、本来的には、「他人の商品の形態」の該当性が「模倣」(実質的同一性)の該当性の前提問題となるはずですが、実際の判断では、実質的同一といえる部分を摘示したうえで、その部分がありふれているか、という手順で判断される場合も多く見受けられます。

事案の概要

この事案は、アパレル・ファッションブランド製品の企画、開発及び販売等を目的とする株式会社である原告が、婦人服、子供服、下着類の製造、販売、輸出入等を目的とする株式会社である被告に対し、被告の販売する各商品が、原告が販売していた婦人服の形態を模倣した商品であるとして、被告による被告各商品の販売は不正競争防止法2条1項3号の不正競争に該当すると主張して、法3条1項に基づき被告各商品の販売等の差止めを、法3条2項に基づき被告各商品の廃棄を、法4条に基づき、損害賠償を求めた事案です。
被告各商品の形態は、対応する原告各商品の形態と実質的に同一であるといえるかが主な争点となっています。

判旨

被告各商品の形態は、対応する原告各商品の形態と実質的に同一であるといえるか(実質的同一性)

本判決では、原告商品1~7と被告商品1~7が問題となっていますが、本稿では、例としてについてその判断過程を検討します。

(原告商品1)

画像1(画像は判決文より引用)

(被告商品1)

(画像は判決文より引用)

※なお、分かりやすいよう上記ではブラックの商品のみを引用しています。詳細は判決文をご確認下さい。

形態の特徴

本判決では、まず、別紙一覧表において、原告商品1と被告商品1の特徴をそれぞれ整理しています。

(原告商品1)
A オーバーオール(肩紐のあるつりスカート)であって、
B 光沢があり、なめらかでつるつるとした触り心地であり、
C 肩からウエストにかけて、正面と背面がVネックとなっており、肩紐の長さ は約30センチメートルとみられ、
D ウエストの中心部から端を発して左肩にかけて、生地の端部から直径約1センチメートルのパールの装飾が約2センチメートル間隔で16個縫われており、
E ウエストから脚にかけてはややフレア型のロングスカートである。
(被告商品1)
a オーバーオール(肩紐のあるつりスカート)であって、
b マットで光沢がなく、柔らかく、
c 肩からウエストにかけて、正面と背面がVネックとなっており、肩紐の長さは約35センチメートルであり、
d ウエストの中心部から数センチ離れた部分から端を発して左肩にかけて、生地の端部から直径約1センチメートルのパールの装飾が約2センチメートル間隔で16個縫われており、
e ウエストから脚にかけてはフレア型のロングスカートである。
相違点の評価

原告商品と被告商品については、以下の①~④のとおりの相違点があるとしました。

原告商品 被告商品
①  光沢や質感 光沢があり、なめらかでつるつるとして触り心地 マットで光沢がなく、柔らかい
②  肩紐の長さ 約30センチメートル 約35センチメートル
③  パールの装飾の端の位置 ウエストの中心部から端を発している ウエストの中心部から数センチ離れた部分から端を発している
④  スカートの形状 ややフレア型 フレア型

そのうえで、下記のとおり、②~④については需要者において判別が用意とは言えない程度の差異であるとしたのに対し、①の光沢及び質感については、商品全体に対して需要者の受ける印象に相当程度影響するとして、素材の違いから形態の実質的同一性を否定しました。

そこで検討すると、上記②ないし④の各相違点は、需要者において判別が容易とはいえない程度の差異であり、商品全体の形態の実質的同一性の判断に強く影響するようなものではなく、商品全体からみると些細な相違にとどまる。しかし、上記①の相違点については、衣服の形態模倣の検討にあたって商品の「光沢及び質感」(法2条4項)も比較対象となると解されるところ、原告商品1の本体には、「ポリエステル100%」の二重織サテン生地が用いられ(甲9)、これにより光沢及びつや感のある質感となっている(形態B)のに対し、被告商品1の本体には、上記素材とは大きく異なる「ポリエステル63%、レーヨン32%、ポリウレタン5%」のギャバジン生地が用いられ(甲21)、光沢及びつやのない質感となっており(形 態b)、この相違点は、商品全体に対して需要者の受ける印象に相当程度影響するというべきである。

ありふれた形態であるかについて

また、本判決は、原告商品1と被告商品1の形態が実質的に同一であると仮定して、「ありふれた形態」と言えるかについても判断を示しています。
判断の手法としては、両商品の共通点にかかる形態ごとに「ありふれた形態」であるかを検討し、以下のとおり、両商品の共通点にかかる形態は、それぞれいずれもありふれた形態であると判断しています。
また、下記②③においては、先行商品から容易に着想できるかを判断の基準としているものと思われます。

①オーバーオールのロングスカートである点

従前より多数存在する商品形態である(弁論の全趣旨)。

②「肩からウエストにかけて正面と背面がVネックとなっ」ている点

平成29年に「肩からウエストにかけて正面がVネックとなった」オーバーオールであって背面を除く形態の商品が販売されており、この形態は原告商品1の上記形態と同一であり、また、これを前提に、更に背面をVネックの形態とすることは容易に着想できるものと解される。

③ウエスト付近から左肩にかけて施されたパールの装飾

原告商品1の販売開始前である平成30年頃から、本件ブランドにおいてパール装飾を施した形態のワンピースが販売され、パール装飾が需要者において人気となっており、遅くとも同年1月から令和元年10月14日までの間に、本件ブランドや第三者において、左肩又は左肩下部付近から胸部中心部にかけて複数のパールが連なって施されたワンピースやカットソーが販売され、又は、ブログに掲載されていたことからすれば、パールの装飾を左肩からウエスト付近に配置する形態は容易に着想し制作することができるものといえる。

結論

以上より、裁判所は、被告商品の販売が法2条1項3号所定の不正競争に該当しないと判断しました。

コメント

本判決は、被服の商品形態模倣について、実質的同一性の判断にあたり、原告商品と被告商品の共通点と相違点を摘示し、相違点について、「需要者において判別が容易」か、「商品全体に対して需要者の受ける印象に影響するか」を検討しています。
また、「ありふれた形態」にあたるかどうかについては、共通点ごとに、従前より多数存在する商品形態であるか、先行商品から容易に着想して制作することができるかといった観点から判断したものと言えるように思われます。
本判決は、「ありふれた形態」の判断について、需要者ではなく後行開発者の立場からの基準を提示しているように思われ、今後の参考になるものと考えられます。

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(文責・秦野)