商標の審査・審判における判断の傾向は時代により変化しますので、その傾向を把握するためには審決や異議の決定を継続的にチェックする必要があります。商標審決アップデートでは、定期的に注目すべき商標審決をピックアップし、情報提供していきます。

今回は、一音相違商標の類否の判断において参考になる審決を取り上げております。

不服2019-14288(ボイスタ!/一音相違商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標: (標準文字)

指定商品:第9類「音声認識機能又は音声応答機能を有する電子計算機,音声認識機能又は音声応答機能を有する電子計算機用プログラム」等

第42類「音声認識機能又は音声応答機能を有する電子計算機用プログラムの提供,電子計算機用プログラムの提供,電子計算機用プログラムの提供に関する助言・指導及び情報の提供,サーバの記憶領域の貸与,クラウドコンピューティング,オンラインによるアプリケーションソフトウェアの提供(SaaS),電子計算機用プログラムの設計・作成又は保守,ウェブサイトの作成又は保守,電子計算機又はそのプログラムの性能・操作方法等に関する紹介及び説明」

引用商標:

第9類「電子応用機械器具及びその部品,ダウンロード可能なコンピュータ用プログラム」

第42類「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,電子計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供」

結論

原査定を取り消す。 本願商標は、登録すべきものとする。

審決等の要点

本願商標は、「ボイスタ!」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字に相応して「ボイスタ」の称呼を生じ、また、当該文字は、既成の語として辞書等に載録されておらず、一般に親しまれた語でもないから、特定の観念を生じないものである。

引用商標は、「ポイスタ」の片仮名及び「POISTA」の欧文字を上下二段に横書きしてなるところ、一般に、片仮名と欧文字を併記した構成の商標において、その片仮名が欧文字の称呼を特定すべき役割を果たすものと無理なく認識できるときは、片仮名より生ずる称呼が、その商標より生ずる自然の称呼とみるのが相当である。そうすると、引用商標は、「ポイスタ」の称呼を生じ、また、「ポイスタ」の片仮名及び「POISTA」の欧文字は、既成の語として辞書等に載録されておらず、一般に親しまれた語でもないから、特定の観念を生じないものである。

本願商標と引用商標との類否について検討すると、外観において、両者は、欧文字及び感嘆符「!」の有無の差異、語頭の「ボ」と「ポ」の片仮名の相違を有するものであるから、外観上、明確に区別し得るものである。

次に、称呼においては、本願商標から生じる「ボイスタ」の称呼と引用商標から生じる「ポイスタ」の称呼とは、称呼の識別上、重要な要素を占める語頭音における「ボ」と「ポ」の音に差異があり、当該差異音が、共に4音という短い音構成において、称呼全体に及ぼす影響は大きく、それぞれを一連に称呼するときは語調、語感が異なることから、両者は、称呼上、明瞭に聴別し得るものである。

さらに、観念においては、本願商標と引用商標とは、ともに特定の観念を生じないものであるから、両者は、観念上、比較することはできない。

そうすると、本願商標と引用商標とは、観念において比較することができないとしても、外観上、明確に区別し得るものであり、また、称呼上、明瞭に聴別し得るものであるから、これらを総合して全体的に考察すれば、本願商標は、引用商標と商品及び役務の出所について混同を生じるおそれのない非類似の商標というのが相当である。

コメント

長い音構成からなる商標の場合、「ボ」と「ポ」の音の一音相違に関しては、類似と判断される傾向にありましたが、本件では、称呼の識別上、重要な要素を占める語頭音の差異であり、共に4音という短い音構成からなる商標であったため、それぞれを一連に称呼するときは語調、語感が異なり、両者は、称呼上、明瞭に聴別し得ると判断されております。少し古い審決例になりますが、「ボ」と「ポ」の一音相違の審決例として以下のものがあります(≒は類似を表す記号として使用しております)。

・不服2007-12483:

・不服2009-7398:

不服2019-14680(Drs’ Care/一音相違商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:

指定商品:第21類「歯ブラシ」

引用商標:

指定商品:第21類「化粧用具(「電気式歯ブラシ」を除く。),電気式歯ブラシ,ようじ,ようじ入れ(貴金属製のものを除く。),清掃用具及び洗濯用具」

結論

原査定を取り消す。 本願商標は、登録すべきものとする。

審決等の要点

本願商標は、上部に帯状図形とその帯状図形内に「Drs’ Care」の欧文字を白抜きで表し、中央に十字架と蛇を描いた盾と思しき図形、両脇に人物を描いた図形を配した構成からなるものである。そして、本願商標構成中の図形部分は、我が国において特定の事物又は意味合いを表すものとして認識され、親しまれているというべき事情は認められないことから、図形部分からは特定の称呼及び観念は生じないものである。一方、本願商標構成中の文字部分は、「医者、博士たち」を意味する「Drs」の文字(語)、所有格を表す符号である「’」、及び「世話をすること(ケア)」を意味する「Care」の文字(語)を結合してなるものと容易に看取されるものであるから、全体として「医者(博士)たちのケア」の如き意味合いを理解させ、該構成文字に相応して「ドクターズケア」の称呼を生じるものである。以上からすると、本願商標は、「Drs’ Care」の文字部分から「ドクターズケア」の称呼が生じ、「医者(博士)たちのケア」の観念が生じるものである。

引用商標は、「Dr. CARE」の欧文字と、当該欧文字の読みを特定したものと理解される「ドクターケア」の片仮名とを、二段に横書きした構成からなるものである。そして、「Dr.」の文字は、「医者(医師)、博士」の略語を、「CARE」の文字は、「世話をすること(ケア)」の意味をそれぞれ有する平易な英語であるところ、「Dr.」の語の後ろには、名前など、指称する対象を示す語がつづくことが一般的であるから、引用商標は、全体として「ケア医師(博士)」程の意味合いを認識させるものということができる。したがって、引用商標は、その構成文字に相応して「ドクターケア」の称呼が生じ、「ケア医師(博士)」の観念が生じるものである。

本願商標と引用商標との外観を比較すると、商標全体としては図形や片仮名の有無という顕著な差異があり、また、両者の欧文字部分のみを比較しても、「Dr」の文字につづく「s」の有無、中間に位置する符号が「’」であるか「.」であるかの差異があり、その他、これらに続く語について、2文字目以下が大文字か小文字かの差異も有するものである。そうすると、両者を見誤ることはなく、本願商標と引用商標とは、外観上、相紛れるおそれはないものである。

次に、両者の観念を比較すると、本願商標からは「医者(博士)たちのケア」の観念が生じ、引用商標からは「ケア医師(博士)」の観念が生じるものであるから、観念上、相紛れるおそれはないものである。

さらに、本願商標から生じる「ドクターズケア」の称呼と、引用商標から生じる「ドクターケア」の称呼とを比較すると、比較的短い称呼において、中間に摩擦音の「ズ」の音の有無という差異を有するものであるから、両者を一連に称呼するときは語感の異なるものとして聴別され、互いに紛れるおそれのないものというのが相当である。

したがって、本願商標と引用商標は、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれはないから、両商標は、非類似の商標というべきである。

コメント

本件と同じく「Doctor(ドクター)」の文字を含む商標に関する無効審判事件(無効2018-890071)がありますが、当該無効審判事件においては、「ドクターウォーター」の文字からなる商標が「Doctor’s water」と「ドクターズウォーター」を二段に横書きした商標に類似すると判断されております。

不服2020-1208(KodoMONO/一音相違商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:  (標準文字)

指定商品:第18類「かばん金具,愛玩動物用被服類,かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄,皮革」

第35類「かばん類及び袋物の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」

引用商標:

第18類「かばん類,袋物,ポーチ,携帯用化粧道具入れ,傘,かばん金具,がま口口金,蹄鉄,皮革」

結論

原査定を取り消す。 本願商標は、登録すべきものとする。

審決等の要点

本願商標は、「KodoMONO」の欧文字を標準文字で表してなるところ、当該文字は、既成の語として辞書等に載録されておらず、一般に親しまれた語でもないから、特定の観念を生じないものである。そして、本願商標のように特定の語義を有しない欧文字からなる商標を称呼するときは、我が国で広く親しまれているローマ字風又は英語風の発音をもって称呼されるのが一般的といえるから、本願商標からは、「コドモノ」の称呼を生じるものとみるのが相当である。

引用商標は、「Kotomono」の欧文字を筆記体で横書きしてなるところ、当該文字は、既成の語として辞書等に載録されておらず、一般に親しまれた語でもないから、特定の観念を生じないものである。そして、特定の語義を有しない欧文字からなる商標を称呼するときは、ローマ字風又は英語風の発音をもって称呼されるから、引用商標からは「コトモノ」の称呼を生じるものとみるのが相当である。

本願商標と引用商標との外観を比較すると、書体の違いや、5文字目以下が大文字か小文字かの差異を有するものであり、さらに、3字目において、「d」と「t」の文字の差異を有するものであるから、外観上、互いに見誤るおそれはない。

次に、本願商標から生じる「コドモノ」の称呼と、引用商標から生じる「コトモノ」の称呼とを比較すると、両称呼は、2音目において、「ド」( do )と「ト」( to )の音の差異を有するものであるところ、両者は、母音( o )を共通にするものの、子音において、前者が有声音( d )であるのに対して、後者が無声音(t)であるという差異を有するものであり、共に4音という比較的短い音構成の両称呼において、この差異が称呼全体に与える影響は決して小さいとはいえず、それぞれを一連に称呼するときは、上記音の差異が明瞭に聴取され、互いに聞き誤るおそれはない。

さらに、本願商標と引用商標は、いずれも特定の観念が生じるものではないから、両者は、観念において比較することができない。

そうすると、本願商標と引用商標とは、観念において比較することができないとしても、外観において判然と区別し得るものであり、称呼においても相紛れるおそれはないものであるから、これらを総合的に勘案すると、両商標は、相紛れるおそれのない非類似の商標と判断するのが相当である。

コメント

本件では、共に4音という比較的短い音構成の両称呼において、「ト」と「ド」の差異が称呼全体に与える影響は決して小さいとはいえず、非類似であると判断されておりますが、以下の審決例のように、末尾における「ト」と「ド」の一音相違に関しては、類似と判断された事例が散見されますので、注意が必要です(≒は類似を表す記号として使用しております)。

・不服2010-11275:
・不服2012-1736:
・不服2019-7284:

不服2020-8341(FIRSTPASS/一音相違商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:

指定商品:第10類「関節鏡器具,医療用機械器具(「歩行補助器・松葉づえ」を除く。)」

引用商標:

第10類「体内埋込万能型組織刺激用リード線,その他の医療用機械器具」

結論

原査定を取り消す。 本願商標は、登録すべきものとする。

審決等の要点

本願商標は、「FIRSTPASS」の文字を横書きしてなるところ、その構成中の「FIRST」の文字は、「第一の、最初の」等の意味を有する英語として、また、「PASS」の文字は、「乗車券、入場券」等の意味を有する英語として広く親しまれている語であることから、当該文字を結合した本願商標は、その構成文字に相応して「ファーストパス」の称呼を生じるものである。また、本願商標は、その構成中の「FIRST」の文字及び「PASS」の文字が、それぞれ、上記記載の意味を有する英語であるとしても、これらを結合した「FIRSTPASS」の文字が、特定の意味合いを有するものとして理解されるとはいい難いものである。よって、本願商標は、その構成文字から「ファーストパス」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。

引用商標は、「FAST-PASS」の文字を横書きしてなるところ、その構成中の「FAST」の文字は「速い、急速な」等の意味を有する英語として、また、「PASS」の文字は、上記(1)のとおりの意味を有する英語として広く親しまれている語であって、これらの文字を「-」(ハイフン)で結合してなるものであるから、引用商標は、その構成文字に相応して「ファストパス」又は「ファーストパス」の称呼を生じるものである。また、引用商標は、その構成中の「FAST」の文字及び「PASS」の文字が、それぞれ、上記記載の意味を有する英語であるから、これらの文字を「-」(ハイフン)で結合した引用商標からは、「速い乗車券、速い入場券」ほどの観念を生じるものである。よって、引用商標は、その構成文字から「ファストパス」又は「ファーストパス」の称呼を生じ、「速い乗車券、速い入場券」ほどの観念を生じるものである。

本願商標と引用商標の外観について検討すると、両商標は、いずれも9文字で構成され、両商標の語頭「F」の文字及びその後半部分の「PASS」の文字が共通するとしても、両商標の前半部分は、いずれも広く親しまれている語である「FIRST」の文字と「FAST」の文字であるから、その構成文字が相違し、さらに、本願商標と引用商標とは、「-」(ハイフン)の有無の差異を有しているから、両商標は、外観において、明らかに区別できるものである。

また、両商標から生じる称呼について検討すると、本願商標は、「ファーストパス」の称呼が生じ、引用商標は、「ファストパス」又は「ファーストパス」の称呼を生じるため、両商標は、「ファーストパス」の称呼を共通にする場合がある。

さらに、観念においては、本願商標からは、特定の観念を生じないが、引用商標からは、上記のとおり「速い乗車券、速い入場券」ほどの観念を生じるため、観念において、明らかに区別できるものである。

そうすると、本願商標と引用商標とは、称呼を共通にする場合があるとしても、外観及び観念において、明らかに区別できるものである。したがって、両商標が、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合し、外観、称呼及び観念を全体的に考察した場合、これらは、相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。

コメント

本件では、引用商標「FAST-PASS」からは「ファーストパス」の称呼も生じ、称呼を共通にする場合があると判断されておりますが、「ファストパス」の称呼も自然に生じるため、取り上げました。称呼上は極めて近似しており、音構成も短いとは言えませんが、「FIRST」「FAST」いずれも親しまれた英単語であり、異なる観念を生じるため、非類似と判断されております。

不服2020-8357(anana/一音相違商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:   (標準文字)

指定商品:第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊靴,運動用特殊衣服」

引用商標1:    (標準文字)

第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。),靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具,げた,草履類,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。),乗馬靴」

引用商標2:    (標準文字)

第35類「被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,履物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」

※引用商標3は省略。

結論

原査定を取り消す。 本願商標は、登録すべきものとする。

審決等の要点

本願商標は、「anana」の欧文字を標準文字で表してなるところ、当該欧文字は辞書等に成語として掲載されていないものであって、特定の意味合いを想起させることのない一種の造語として認識されるものであるから、我が国において広く親しまれているローマ字読み又は英語読みに倣って、「アナナ」の称呼が生じ、また、特定の観念は生じないものである。

引用商標1及び引用商標2は、「ANANAS」の欧文字を標準文字で表してなるところ、当該欧文字は、「パイナップル科アナナス属の植物の総称」の意味を有する英語であるとしても、当該語が我が国において一般的に親しまれ知られているとはいえず、特定の意味合いを想起させることのない一種の造語として認識されるものであるから、我が国において広く親しまれているローマ字読み又は英語読みに倣って、「アナナス」の称呼が生じ、また、特定の観念は生じないものである。

本願商標と引用商標1及び引用商標2の類否を検討すると、外観においては、語尾の「S」の有無及び小文字か大文字かの差異を有しており、これらの差異が、5文字と6文字という比較的短い文字構成からなる両商標の外観全体の視覚的印象に与える影響は小さいものとはいないから、両者は相紛れるおそれのないものとみるのが相当である。

次に、本願商標から生じる「アナナ」の称呼と引用商標1及び引用商標2から生じる「アナナス」の称呼を比較すると、両者は、語尾において「ス」の音の有無という差異を有し、前者は3音、後者は4音という短い音構成においては、「ス」の音の有無の相違が両称呼全体に与える影響は大きく、それぞれを一連に称呼しても、語調、語感が相違し、明瞭に聴別し得るものである。

さらに、観念においては、両者はいずれも特定の観念を生じないものであるから比較できないものである。

そうすると、本願商標と引用商標1及び引用商標2とは、観念において比較できないものの、外観及び称呼において相紛れるおそれのないものであるから、両者の外観、称呼及び観念等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は非類似の商標と判断するのが相当である。

コメント

語尾における「ス」の音の有無の差異を有する場合、一昔前は類似すると判断される傾向にありました。近年では非類似と判断される審決もみられるようになりましたが、以下の審決例に示すとおり、類似と判断される場合もありますので、注意が必要です(≒は類似を表す記号として使用し、≠は非類似を表す記号として使用しております)。

・不服2013-6882:
・不服2016-2673:
・不服2017-6583:
・不服2018-9996:

不服2020-650016(JD Cloud/一音相違商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:

指定商品:第42類「Research and development of new products for others; packaging design; design of interior decor; dress designing; computer software design; electronic data storage; cloud computing; creating and maintaining web sites for others; graphic arts design; weighting freight for others.」

引用商標:

指定商品:第42類「コンピュータハードウェア及び周辺機器の設計及び開発及びこれらに関するコンサルティング並びにこれらに関する情報の提供,情報システム機器の設計及び開発及びこれらに関するコンサルティング並びにこれらに関する情報の提供,通信ネットワークシステムのエンジニアリング及びこれらに関するコンサルティング並びにこれらに関する情報の提供,その他の機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計及びこれらに関するコンサルティング並びにこれらに関する情報の提供,デザインの考案」

結論

原査定を取り消す。 本願商標は、登録すべきものとする。

審決等の要点

本願商標は、「JD Cloud」の欧文字を横書きしてなるところ、その構成文字は、外観上まとまりよく一体的に表され、当該文字から生ずる「ジェイディークラウド」の称呼も、格別冗長というべきものでなく、無理なく一連に称呼し得るものである。そして、その構成中の「Cloud」の文字が、「雲、雲状のもの」(「ジーニアス英和大辞典」)の意味を有するとともに、「それを提供するサーバーなどについて意識することなく、ネットワークを通じて様々な場所から利用可能なコンピュータのリソース。」の意味を有する語(「広辞苑第七版」)として辞書に掲載されているとしても、「JD Cloud」の文字は、一般的な辞書等に採録された成語ではなく、特定の意味合いを想起させる語として知られているというような事情も見いだせないものであることから、特定の観念を生じることのない造語として認識されるというのが相当である。そうすると、本願商標は、その構成文字に相応して、「ジェイディークラウド」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。

引用商標は、「ジェイビークラウド」及び「JBクラウド」の文字を二段に横書きしてなるところ、上段の「ジェイビークラウド」の片仮名は、下段の「JBクラウド」の文字の読みを表したものと容易に認識されるものであるから、引用商標は、その構成文字に相応して「ジェイビークラウド」の称呼を生じるものである。また、「ジェイビークラウド」及び「JBクラウド」の文字は、その構成中の「クラウド」の文字が、前記と同じ意味を有する語として辞書に掲載されている(「広辞苑第七版」)としても、構成文字全体としては、いずれも、一般的な辞書等に採録された成語ではなく、特定の意味合いを想起させる語として知られているというような事情も見いだせないものであることから、特定の観念を生じることのない造語として認識されるというのが相当である。そうすると、引用商標は、その構成文字に相応して、「ジェイビークラウド」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。

本願商標と引用商標の類否について検討するに、本願商標と引用商標は、それぞれ前記構成よりなるところ、外観においては、その文字種、構成文字、構成態様が明らかに異なるものであるから、判然と区別できるものである。

次に、称呼においては、本願商標から生じる「ジェイディークラウド」の称呼と、引用商標から生じる「ジェイビークラウド」の称呼とは、第3音における「ディ」と「ビ」の差異を有するものであるところ、当該差異音は、いずれも強く響く破裂音であり、かつ、長音を伴って明瞭に発音されるものであるから、これらが称呼全体に及ぼす影響は決して小さいものとはいえず、両称呼をそれぞれ一連に称呼した場合、語調、語感を異にし、聴別し得るものである。

さらに、観念においては、本願商標と引用商標とは、いずれも観念を生じないものであるから、比較することができない。

そうすると、本願商標と引用商標とは、観念において比較できないとしても、外観及び称呼において相紛れるおそれのないものであるから、これらを総合して考察すれば、両者は、非類似の商標というのが相当である。

コメント

本件は、「D(ディー)」と「B(ビー)」の相違を有する商標に関する審判事件ですが、これらの文字(音)の相違を有する場合、長音を伴って明瞭に発音されることもあって、非類似と判断される傾向にあると思われます。過去の事例でも、「B-Squared」の文字からなる商標と「DSQUARED」の文字からなる商標が非類似と判断された異議の決定があります(異議2017-900210)。

不服2019-15967(FENTY/一音相違商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:   (標準文字)

指定商品: 第9類「双眼鏡を含む光学機械器具,未記録のUSBフラッシュドライブ,眼鏡,サングラス」等

第14類「貴金属製・貴金属合金製又は貴金属を被膜した装飾用ピン,貴金属製・貴金属合金製又は貴金属を被膜した装飾箱,貴金属製・貴金属合金製又は貴金属を被膜した宝石箱及び宝飾品用ケース,貴金属製・貴金属合金製又は貴金属を被膜した時計入れ,宝飾品類,指輪,イヤリング,カフスボタン,ブレスレット,宝飾品用チャーム,ブローチ,ネックレス,ネクタイピン,ロケット(宝飾品),貴金属製のキーホルダー」等

第18類「かばん類,袋物,傘,動物運搬用かばん,携帯用化粧道具入れ,小切手入れ,革製又は擬革製包装用袋,皮革製包装用容器,愛玩動物用被服類,皮革」

第24類「被服及びかばん用織物,布地,織物,布製身の回り品」

第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊靴,運動用特殊衣服,ヘッドバンド」

第35類「織物の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,被服の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,運動用特殊衣服の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,履物の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,運動用特殊靴の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,かばん類及び袋物の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,身の回り品の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」等

引用商標1:

指定商品:第18類「傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄」

第25類「履物」

※引用商標2~12は省略。

結論

原査定を取り消す。 本願商標は、登録すべきものとする。

審決等の要点

本願商標は、「FENTY」の欧文字を標準文字で表してなるところ、当該欧文字は、辞書等に載録された成語ではなく、また、本願の指定商品及び指定役務を取り扱う分野において特定の意味合いを表す語として使用されている実情も見受けられないことから、本願商標は、特定の意味合いを有しない造語を表したものといえる。そうすると、一般的に、特定の意味又は特定の読みを有しない欧文字にあっては、これに接する取引者、需要者は、我が国において親しまれた外国語である英語読み又はローマ字読みをもって称呼するとみられるところ、本願商標からは、英語読み風の「フェンティ」の称呼を生じ、また、特定の観念は生じない。

引用商標は、「FENDI」の欧文字を横書きしてなるところ、当該欧文字は、辞書等に載録された成語ではなく、また、本願の指定商品及び指定役務を取り扱う分野において特定の意味合いを表す語として使用されている実情も見受けられないことから、引用商標は、特定の意味合いを有しない造語を表したものといえる。そうすると、一般的に、特定の意味又は特定の読みを有しない欧文字にあっては、これに接する取引者、需要者は、我が国において親しまれた外国語である英語読み又はローマ字読みをもって称呼するとみられるところ、引用商標からは、英語読み風の「フェンディ」の称呼を生じ、また、特定の観念は生じない。

本願商標と引用商標とは、語頭に「FEN」の欧文字を有している点を共通にするとしても、5文字の構成文字中、語尾の2文字の「TY」と「DI」という異なるつづりの文字を有する点において相違するものであるから、外観上、判然と区別し得る。

また、本願商標より生じる「フェンティ」の称呼と、引用商標より生じる「フェンディ」の称呼とを比較すると、両者は、語尾における「ティ」と「ディ」の音の差異を有するものであって、3音という極めて短い音構成におけるこの差異が全体の称呼に与える影響は決して小さいとはいえず、両者をそれぞれ一連に称呼しても語調、語感が相違し、称呼上聴き誤るおそれのないものと判断するのが相当である。

さらに、本願商標及び引用商標は、特定の観念を生じ得ない造語と認められるものであるから、両者は観念上比較し得ないものである。

そうすると、本願商標と引用商標とは、観念上比較し得ないものであるとしても、外観及び称呼において相紛れるおそれのないものであるから、両者の外観、称呼及び観念等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両者は非類似の商標と判断するのが相当である。

コメント

「ティ」と「ディ」の音の相違は清音と濁音の微差にすぎないため、類似と判断されることも少なくありません。本件では、3音という極めて短い音構成であったことが類否判断に影響を与えたと思われます(≒は類似を表す記号として使用し、≠は非類似を表す記号として使用しております)。
・不服2003-7847:
・不服2015-1052:

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(文責・前田)