令和3年(2021年)3月2日、特許法・意匠法・商標法等の改正について、閣議決定され、本通常国会に提出されることとなりました。
本稿では、改正案のうち、海外事業者が模倣品を国内に持ち込む行為の違法化(意匠権・商標権侵害)について解説します。
他の改正項目については、「令和3年特許法・意匠法・商標法等改正①」をご覧ください。

ポイント

骨子

  • 海外事業者が模倣品を郵送等により国内に持ち込む行為は、買手側が個人使用目的で購入する場合であっても、意匠権・商標権侵害として位置付けられることになりました。

改正案の概要

法律名 特許法等の一部を改正する法律
法律番号
成立日 (本通常国会提出予定)
公布日 (本通常国会提出予定)
施行日 一部の規定を除き、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日

解説

意匠権・商標権

意匠権とは

「意匠」とは、物品の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合、建築物の形状等又は画像であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいいます(意匠法2条1項)。
例えば、商品の特徴的な形状等が「意匠」に該当します。

「意匠権」は、特許庁に意匠登録出願を行い、登録が認められると発生する権利であり(意匠法20条1項)、意匠権者は、「業として」登録意匠と同一又は類似の意匠を実施する権利を専有します(同法23条)。
具体的には、権利者以外の者が、業として、登録意匠と同一又は類似の形状を備えた商品を製造・販売したり、輸入した場合、意匠権侵害となり、製造・販売・輸入行為を差し止めたり、損害賠償を請求することができます。

商標権とは

「商標」とは、人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるものであって、次に掲げるものをいいます(商標法2条1項1号、2号)
・「業として」商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
・「業として」役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの

例えば、ブランド名や、ブランドのロゴマーク等が「商標」に該当します。

「商標権」は、特許庁に商標登録出願を行い、登録が認められると発生する権利であり(商標法18条1項)、商標権者は、指定商品・指定役務について登録商標の使用をする権利を専有します(同法25条)。
具体的には、権利者以外の者が、業として、登録商標と同一又は類似の商標を、その登録商標の指定商品・指定役務と同一又は類似の商品に付して販売した場合や、そのような商標が付された商品を輸入した場合、商標権侵害となり、商標を付す行為や販売・輸入行為を差し止めたり、損害賠償を請求することができます。

「業として」とは

上記のとおり、意匠権は、「業として」登録意匠と同一又は類似の意匠を実施する権利であり、また、商標は、「業として」使用されるものをいうため、意匠権侵害・商標権侵害であるというためには、その行為が「業として」行われることが必要となります(特許権や実用新案権の侵害についても、同様に、「業として」行うことが要件となります。特許法68条、実用新案法16条)。

どのような場合に、「業として」に該当するのかに関しては、経済活動の一環としての行為であれば「業として」に該当するとした裁判例(大阪地裁平成3年9月30日受水槽事件判決)や、個人的家庭的な実施は「業として」に該当しないとした裁判例(大阪地裁平成12年10月24日製パン機事件判決)があります。
少なくとも、個人的家庭的な行為については、「業として」に該当しないと解されます。

改正の背景

登録意匠や登録商標を用いた模倣品を「業として」輸入する行為は、日本の意匠権や商標権の侵害になります。

模倣品が、海外事業者から日本の輸入業者を通して個人に販売される場合には、輸入業者による輸入行為や個人への販売行為が知的財産権の侵害にあたり、権利者は、輸入業者に対し差止・損害賠償を請求できるほか、知的財産権侵害品の輸入であるとして、関税法に基づいて、税関での輸入差止を行うことが可能でした。

しかし、近時、越境電子商取引が容易になり、海外事業者から、日本の輸入業者を通さず、直接個人に模倣品が販売される例が増えています。

こういった場合、まず、権利者が輸入者である個人を訴えようとしても、個人で使用する目的で模倣品を輸入する行為は、「業として」の要件を欠き、意匠権や商標権の侵害を問うことが難しい状況にあります。

また、海外事業者を訴えようとしても、日本の知的財産権が及ぶのは、あくまでも日本国内の行為であり(属地主義)、海外事業者が海外で行う行為については、日本の知的財産権の侵害を問うことができません。
加えて、海外事業者が国内の者に模倣品を販売する行為について、日本に模倣品が入ってきた以降の行為をとらえて、日本の知的財産権の侵害行為と言えるのかどうかについても、判例上、必ずしも明確ではありませんでした(商標不使用取消審判の審決取消訴訟において、商標権者である海外事業者の製品が、国内事業者により国内に輸入された行為について、海外事業者自身の輸入行為(使用)であるとして、不使用取消を認めなかった東京地裁平成15年7月14日判決があります。しかし、被疑侵害者である海外事業者の国内の個人への販売が侵害かどうかを判断する場面でも、上記不使用取消の事案のように、海外事業者による輸入行為とされるのかどうかは、定かではありませんでした)。

さらに、近時、模倣行為が巧妙化・複雑化しており、実際には国内の輸入業者による「業として」の輸入であるにもかかわらず、個人使用目的での輸入を仮装しての輸入が横行している実情もあります。
税関の輸入差止手続において、輸入者が「個人使用目的」であるとして争う旨の申出が急増し、模倣品の流入を阻止できないケースが生じています。

改正の内容

上記の状況をふまえ、今回の改正では、海外事業者が模倣品を郵送等により国内に持ち込む行為について、日本における意匠権・商標権の侵害と位置付けることになりました。輸入者の側が個人使用目的で購入する場合でも、知的財産権侵害品として、税関において輸入を差し止めることが可能となります。
法律の具体的な文言としては、海外事業者が、日本国内の他人をして持ち込ませる行為を、意匠法と商標法の「輸入」行為に含めることとされました(改正意匠法2条2項1号、改正商標法2条7項)。

改正意匠法

第二条

2 この法律で意匠について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。

一 意匠に係る物品の製造、使用、譲渡、貸渡し、輸出若しくは輸入(外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為を含む。以下同じ。)又は譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。以下同じ。)をする行為

改正商標法

第二条

7 この法律において、輸入する行為には、外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為が含まれるものとする。

コメント

今般の改正により、海外からの模倣品に対する意匠権・商標権の行使(特に税関での輸入差止)を行いやすくなることが見込まれます。
なお、特許権・実用新案権については、1つの製品・部品に多数の発明が用いられている場合も多いこと、商標・意匠と比べ侵害の有無を判断するのが難しいこと、税関での差止件数が少ないこと等から、同種の改正は行われませんでした。

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(文責・藤田)