商標の審査・審判における判断の傾向は時代により変化しますので、その傾向を把握するためには審決や異議の決定を継続的にチェックする必要があります。商標審決アップデートでは、定期的に注目すべき商標審決をピックアップし、情報提供していきます。

今回は、結合商標の類否判断において参考になる審決を取り上げております。

不服2019-15542(SMOOSS-i/結合商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標: (標準文字)
指定商品:第9類「工作機械稼働状態監視用コンピュータソフトウェア」

引用商標1:
指定商品:第9類「スマートフォンの液晶画面保護フィルム,スマートフォンのケース,電子応用機械器具及びその部品」等

引用商標2:
指定商品:第7類「金属加工機械器具,金属工作機械,マシニングセンタ」等

結論

原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、取消しを免れない。

審決等の要点

本願商標は、「SMOOSS-i」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成は、「SMOOSS」の文字と「i」の文字とをハイフン「-」を介して、同じ書体、同じ大きさ、同じ間隔に横一連に表してなるものであり、その構成全体から生じる「スモッスアイ」、「スモースアイ」又は「スムースアイ」の称呼も格別冗長というべきものでなく、よどみなく一連に称呼し得るものである。

そして、たとえ欧文字1字が、商品の規格、形式等を表す記号、符号として一般に用いられているとしても、かかる構成からなる本願商標は、これに接する取引者、需要者をして、その構成全体をもって一体不可分の一種の造語として認識されるとみるのが自然であり、ほかに、その構成中の「SMOOSS」の文字部分のみが独立して認識されるとみるべき特段の事情は見いだせない。

そうすると、本願商標は、その構成全体をもって、特定の観念を生じることのない一体不可分の一種の造語とみるのが相当であるから、その構成文字に相応して、「スモッスアイ」、「スモースアイ」又は「スムースアイ」の一連の称呼のみを生じるものであり、特定の観念を生じないものである。

したがって、本願商標から「スムース」の称呼を生じるものとし、その上で、本願商標と引用商標1とが類似するものとして、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、取消しを免れない。

コメント

欧文字1文字と2文字は原則として識別力を有しないと考えられているため、原査定では本願商標の構成中「SMOOSS」が要部となり、引用商標に類似すると判断されましたが、審決では一体不可分の造語とみるのが相当であると判断されております。欧文字1文字を他の文字とハイフンで結合した商標に関しては、以下の審決例があり、一体不可分であると判断される傾向にあります(≠は非類似を表す記号として使用しております)。

・不服2019-6176:X-galary ≠ Galaxy
・不服2015-18519:s-pilot ≠ pilot

不服2019-2859(YOLO JAPAN/結合商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:(標準文字)
指定商品:第35類「広告業,人材の紹介・職業のあっせん,人材募集,人材派遣による職業のあっせん及びこれに関する情報の提供,企業の人事・労務管理・求人活動・採用活動に関する助言及び指導」

引用商標:(標準文字)
第35類「広告業,広告スペース及び広告用具の貸与,ウエブサイト上の広告スペースの提供,新聞記事情報の提供,経営の診断又は経営に関する助言,市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供,ホテルの事業の管理,職業のあっせん,求職情報及び求人情報の提供」及び第42類「ウェブサイト用の記憶領域の貸与,ウェブサイトの設計・作成又は保守,アプリケーションソフトウェアの提供,電子計算機用プログラムの提供,アプリケーションソフトウェアの編集,電子計算機用プログラムの設計・作成又は保守」

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

本願商標は、商標法第4条第1項第11号に該当し、登録することができない。

審決等の要点

本願商標は、「YOLO JAPAN」の文字からなるところ、その構成中の「JAPAN」の文字は、我が国の国名を表す英単語としてよく知られていることに加え、役務の提供において、その提供場所や提供者の所在地等を表示するために広く使用されているものである。してみれば、本願商標の構成中「JAPAN」の文字は、役務の出所識別標識としての機能を果たし得ないというのが相当である。そうすると、本願商標は、その構成中の「YOLO」の文字部分が取引者、需要者に対し役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものとみるのが相当であり、「YOLO」の文字部分を要部として抽出し、他人の商標と比較することが許されるものであり、該文字部分が独立して役務の出所識別標識としての機能を果たし得るものというべきである。したがって、本願商標は、その構成文字全体に相応して「ヨロジャパン」の称呼を生じるほか、その構成中「YOLO」の文字部分に相応して、「ヨロ」の称呼を生じるものである。

引用商標は、「YOLO」の文字よりなるところ、該文字は、一般的な英語の辞書に載録されている語ではなく、特定の意味合いを有する語として知られているとも認められないものであるから、一種の造語として理解されるものである。そうすると、引用商標は、その構成文字に相応して「ヨロ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。

本願商標と引用商標の類否を検討すると、その構成全体をもって比較するときは、外観上、区別し得る差異があるといえるものの、本願商標の構成中、独立して役務の出所識別標識たり得る「YOLO」の文字部分と引用商標とを比較するときは、両商標は、その構成文字を同一にするものであり、外観上、類似するものである。また、称呼においては、本願商標の要部から生ずる称呼と引用商標から生ずる称呼は、共に「ヨロ」であるから、称呼上、同一である。そして、観念においては、本願商標と引用商標は、いずれも特定の観念を生じないものであるから、両者は、観念上比較することができない。

そうすると、本願商標と引用商標とは、観念において比較できないものであるものの、外観において類似し、かつ、称呼において同一のものであるから、これらを総合観察すれば、相紛れるおそれのある類似の商標というべきであり、本願商標と引用商標が、同一又は類似の役務に使用された場合、同一の営業主により提供されるものと誤認されるおそれがあると判断するのが相当である。

コメント

本願商標の構成中「JAPAN」のような国名を表す文字は、商品の生産地や役務の提供場所を表示するものとして認識されることを理由に識別力を有しないと判断されます。本件と同様に、「JAPAN」の文字を含む結合商標が拒絶された以下の審決例があります(≒は類似を表す記号として使用しております。)。

・不服2013-21076:  ≒ JCA

不服2019-3200(長期事業サポートローンつなぐ/結合商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:(標準文字)
指定役務:第36類「資金の貸付け,預金の受入れ(債券の発行により代える場合を含む。)及び定期積金の受入れ,手形の割引,内国為替取引,債務の保証及び手形の引受け,有価証券の貸付け,金銭債権の取得及び譲渡」等

引用商標:(標準文字)
指定役務:第36類「預金の受入れ(債券の発行により代える場合を含む。)及び定期積金の受入れ,資金の貸付け及び手形の割引,内国為替取引,債務の保証及び手形の引受け,有価証券の貸付け,金銭債権の取得及び譲渡」等

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

本願商標は、商標法第4条第1項第11号に該当し、登録することができない。

審決等の要点

本願商標構成中、「長期事業サポートローン」の文字からは、「長い期間事業を支援するための貸付」程の意味合いを理解させるというのが相当であって、本願商標に接する需要者をして、「資金の貸付け」に係る役務の内容、すなわち、質を認識させるにとどまることから、当該文字部分は、役務の出所識別標識としての機能を有しないか、又は極めて弱いものといえる。してみれば、本願商標の構成中「長期事業サポートローン」の文字部分は出所識別標識としての称呼、観念が生じないものである。一方、本願商標構成中、「つなぐ」の文字は「切れたり離れたりしているものを続け合わせる。」等の意味を有するものであり(株式会社岩波書店「広辞苑第六版」)、本願指定役務との関係において、役務の質等を認識させるものではないから、本願商標は、その構成中「つなぐ」の文字部分が、自他役務の識別標識としての機能を発揮する部分であるとみるのが相当であって、取引者、需要者に対し強く印象付けられる要部であるといえ、本願商標は、その構成中「つなぐ」の文字部分を要部として抽出し、他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することが許されるというべきである。

そうすると、本願商標は、その構成文字全体から「チョウキジギョウサポートローンツナグ」の称呼を生じるほか、その構成中の「つなぐ」の文字に相応して「ツナグ」の称呼を生じ、また、当該文字は、「切れたり離れたりしているものを続け合わせる。」の意味を有する語として一般に親しまれているといえるから、「切れたり離れたりしているものを続け合わせる。」の観念を生じるものである。

引用商標は、「つなぐ」の平仮名からなるところ、当該文字に相応して「ツナグ」の称呼及び「切れたり離れたりしているものを続け合わせる。」の観念を生じるものである。

本願商標と引用商標の類否を検討すると、本願商標の要部である「つなぐ」の文字部分と引用商標とは、外観を同一にするものであって、「ツナグ」の称呼及び「切れたり離れたりしているものを続け合わせる。」の観念を同一にするものである。そうすると、本願商標と引用商標とは、全体の外観及び称呼において差異を有するとしても、本願商標の要部と引用商標の比較においては、外観、称呼及び観念を同一にするものであるから、これらを総合して考察すると、両者は相紛れるおそれのある類似の商標と判断するのが相当である。

コメント

本願商標のように、冗長な構成からなる商標の場合、分離して判断される傾向にあり、特に本件では、その構成中「長期事業サポートローン」の文字が役務の内容を表す識別力を有しない文字であるため、「つなぐ」の文字部分が要部となり、引用商標と類似すると判断されております。

不服2019-14356(THE KANSAI/結合商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:
指定商品:第30類「冷凍お好み焼き,お好み焼ソース,焼きそば用ソース,焼肉用ソース」

引用商標1:
指定商品:第30類「チョコレート,その他の菓子及びパン,コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,調味料,香辛料,食品香料(精油のものを除く。),米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦,食用粉類,食用グルテン,穀物の加工品,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ,即席菓子のもと,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,アーモンドペースト,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,氷,アイスクリーム用凝固剤,家庭用食肉軟化剤,酒かす,ホイップクリーム用安定剤」

引用商標2:
指定商品:第30類「チョコレート,その他の菓子及びパン,コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,調味料,香辛料,食品香料(精油のものを除く。),米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦,食用粉類,食用グルテン,穀物の加工品,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ,即席菓子のもと,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,アーモンドペースト,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,氷,アイスクリーム用凝固剤,家庭用食肉軟化剤,酒かす,ホイップクリーム用安定剤」

結論

原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、取消しを免れない。

審決等の要点

本願商標は、「THE KANSAI」の欧文字を一列に横書きしてなるところ、「THE」の欧文字と「KANSAI」の欧文字との間に、スペースが設けられているものの、その構成文字は、同じ書体によりまとまりよく一体に表されているといい得るものであって、その構成文字全体から生じる「ザカンサイ」の称呼も冗長ではないから、よどみなく一連に称呼し得るものである。そして、本願商標を構成する「THE」の文字は、「その、例の」等の意味を有し(学習研究社 アンカー英和辞典昭和61年1月20日発行)、「KANSAI」の文字は、「東京地方を関東というのに対して、京阪神地方」(三省堂 大辞林第三版)を意味する「関西」の文字をローマ字で表記したものと認められるものの、本願商標全体としては、直ちに何らかの意味合いを理解させないことから特定の観念は生じない。

してみれば、本願商標は、かかる構成及び称呼から、これに接する取引者、需要者に、「KANSAI」の文字部分のみを分離して看取させるというよりは、むしろ、全体を一体不可分のものと認識、把握させるとみるのが相当であるから、これより「ザカンサイ」の一連の称呼のみを生じ、特定の観念を生じない造語として認識されるというべきである。

したがって、本願商標から「KANSAI」の文字部分を分離、抽出し、これを前提に本願商標と引用商標とが類似するものとして、本願商標を商標法第4条第1項第11号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消を免れない。

コメント

「THE」の文字は、一般的に広く親しまれている英語の定冠詞であり、識別力が弱いと考えられるため、原査定では、本願商標の要部は「KANSAI」であり、引用商標に類似すると判断されましたが、審決では一体不可分であると判断されております。「KANSAI」は京阪神地方の地域名を意味する語のローマ字表記であり、当該文字も識別力が弱いことが判断に影響したと考えられます。なお、過去の審決例では、以下の商標が類似と判断されております(≒は類似を表す記号として使用しております。)。

・不服2014-26795:  ≒ 吉祥庵

不服2020-3197(モイスト乳酸菌/結合商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標: (標準文字)
指定商品:第5類「乳酸菌を主原料とするサプリメント,乳酸菌を主原料とする錠剤状・カプセル状・顆粒状・液状・ゼリー状・粉状の加工食品,乳酸菌を主原料とする栄養補助用飼料添加物(薬剤に属するものを除く。),乳酸菌を主原料とする医療用の飼料添加剤,乳酸菌を主原料とする動物用サプリメント(薬剤に属するものを除く。),乳酸菌を主原料とする乳幼児用飲料,乳酸菌を主原料とする乳幼児用食品,乳酸菌を主原料とする食餌療法用飲料,乳酸菌を主原料とする食餌療法用食品」

引用商標:
指定商品:第5類「乳酸菌を主原料とするサプリメント,乳酸菌を主原料とする錠剤状・カプセル状・顆粒状・液状・ゼリー状・粉状の加工食品,乳酸菌を主原料とする栄養補助用飼料添加物(薬剤に属するものを除く。),乳酸菌を主原料とする医療用の飼料添加剤,乳酸菌を主原料とする動物用サプリメント(薬剤に属するものを除く。),乳酸菌を主原料とする乳幼児用飲料,乳酸菌を主原料とする乳幼児用食品,乳酸菌を主原料とする食餌療法用飲料,乳酸菌を主原料とする食餌療法用食品」

結論

原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、取消しを免れない。

審決等の要点

本願商標は、「モイスト乳酸菌」の文字よりなるところ、同書、同大、等しい間隔で外観上まとまりよく一体的に構成されているものであり、構成文字全体から生じる「モイストニューサンキン」の称呼も、格別冗長なものではなく、よどみなく一連に称呼しうるものである。そして、本願商標の上記構成及び称呼からすれば、取引者、需要者は、その構成全体をもって一体不可分なものとして認識し、把握されるというのが相当である。

さらに、本願商標の構成中、「モイスト」の文字部分のみが、取引者、需要者に対し、商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認めるに足る事情は見いだせない。そうすると、本願商標は、一体不可分なものであるといわなければならない。

したがって、本願商標から、「モイスト」の文字部分を分離、抽出した上で、「モイスト」の称呼及び「湿った」の観念をも生じるとし、これを前提として、本願商標と引用商標とが類似の商標であるとして、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。

コメント

「乳酸菌」の文字は、指定商品との関係において、その商品の原材料、品質を表示するものであり、識別力が弱いと考えられるため、原査定では、本願商標の要部は「モイスト」であり、引用商標に類似すると判断されましたが、審決では一体不可分であると判断されております。なお、以下の審決例でも、「乳酸菌」の文字を含む商標が一体不可分であると判断されております(≠は非類似を表す記号として使用しております。)。

不服2015-15898:マリン乳酸菌 ≠ マリン

不服2019-11411(七福ししゃも/結合商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:
指定商品: 第29類「ししゃも」

引用商標:
指定商品:第29類「食肉,食用魚介類(生きているものを除く),肉製品,加工水産物(かつお節,寒天,削り節,とろろ昆布,干しのり,干しひじき,干しわかめ,焼きのりを除く),かつお節,寒天,削り節,とろろ昆布,干しのり,干しひじき,干しわかめ,焼きのり,加工野菜及び加工果実,カレー・シチュー又はスープのもと,お茶漬けのり,ふりかけ,卵」

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

本願商標は、商標法第4条第1項第11号に該当し、登録することができない。

審決等の要点

本願商標は、「七福ししゃも」の文字を横書きしてなるところ、その構成中、「七福」の文字部分は、辞書等に掲載されている既成語ではないものの、その構成文字から「七つの福」ほどの意味合いを理解させ、また、「ししゃも」の文字部分は、「キュウリウオ科の海産の硬骨魚」(「広辞苑 第六版」岩波書店)の意味を有する語であって、魚の名称の一として、広く一般に使用されている事実があるとしても、本願商標全体として何らかの意味合いを看取させないことからすれば、本願商標は、「七福」の文字と「ししゃも」の文字とを組み合わせた結合商標として容易に理解されるといえる。そして、本願商標の構成中、「ししゃも」の文字部分は、本願の指定商品「ししゃも」との関係において、商品の普通名称、又は品質(内容)を表すものと理解されて、自他商品を識別する機能は極めて低いものといえる一方、上記のような「七つの福」ほどの意味合いを理解させる「七福」の文字部分は、本願の指定商品との関係において、特段、商品の品質等を表示するものではなく、自他商品を識別する機能を十分に果たすものであるから、取引者、需要者に対し、商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるというべきである。

そうすると、本願商標の「七福」の文字部分と「ししゃも」の文字部分とを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとは認められず、本願商標から「七福」の文字部分を要部として抽出し、当該部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することが許されるというべきである。

したがって、本願商標は、その構成全体から生じる「シチフクシシャモ」の称呼を生じるほか、その構成中の「七福」の文字部分に相応して、「シチフク」の称呼を生じ、「七つの福」ほどの意味合いを理解させるものである。

引用商標は、「七福」の文字を筆文字風に横書きしてなるところ、その構成文字に相応して、「シチフク」の称呼及び上記アと同様に「七つの福」ほどの意味合いを理解させるものである。

本願商標の要部である「七福」の文字部分と引用商標とを比較すると、両者は、ともに「七福」の文字から構成され、「シチフク」の称呼を共通にし、また、両者は特定の観念は生じないものの、ともに「七つの福」ほどの意味合いを理解させ、観念において近似した印象を与えるものであるから、外観、称呼及び観念のいずれの点においても、相紛らわしく、互いに類似するものである。

してみれば、本願商標の要部である「七福」の文字部分と引用商標とは、類似するものであるから、本願商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念によって取引者、需要者に与える印象、記憶及び連想等を総合して、全体的に考察すれば、相紛れるおそれのある類似の商標と判断するのが相当である。

コメント

本願商標の構成中「ししゃも」は商品の普通名称を表す語であるため、識別力を有しないと考えられます。このため、本願商標の要部は「七福」であり、引用商標とは類似すると判断されております。以前審決アップデートで紹介した似たような事案においても、「口福餃子」と「口福」が類似と判断されております(不服2017-14055)。

不服2019-10771(焼肉たらふく/たらふく)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:(標準文字)
指定役務: 第43類「焼肉を主とする飲食物の提供,飲食物の提供」

引用商標:
指定役務:第43類「焼肉を主とする飲食物の提供」

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

本願商標は、商標法第4条第1項第11号に該当し、登録することができない。

審決等の要点

本願商標は、「焼肉たらふく」の文字を表してなるところ、その構成中「焼肉」の文字は、「牛、豚などの肉をあぶって焼いたもの。」の意味を有する語であって、また、「たらふく」の文字は、「腹いっぱいに。十二分に。」の意味を有する語(いずれも岩波書店「広辞苑第六版」)である。そして、本願商標の構成中、「焼肉」の文字は、本願の指定役務である「焼肉を主とする飲食物の提供」との関係においては、提供する料理の種類を表したものにすぎず、「焼肉たらふく」の文字からなる本願商標は、これを、その指定役務に使用したときは、取引者、需要者に「『たらふく』という名称の焼肉を提供する飲食店」程の意味合いを表したものと容易に理解、認識させるものである。してみれば、本願商標の構成中「焼肉」の文字部分は、役務の内容を認識させるにとどまるものであるから、本願商標は、その構成中「たらふく」の文字部分が独立して自他役務の識別標識としての機能を果たし得るものとみるのが相当である。したがって、本願商標からは、その構成全体より生じる「ヤキニクタラフク」の称呼及び「『たらふく』という名称の焼肉を提供する飲食店」の観念に加え、要部である「たらふく」の文字部分より、単に「タラフク」の称呼及び「腹いっぱいに。十二分に。」の観念を生じるものである。

引用商標は、筆文字風の書体で縦書き4文字の構成からなるところ、その構成中、3文字目は相当程度図形化されたものであるとしても、その余の文字と合わせて観察した場合には、「ふ」の平仮名を表したものであると理解でき、引用商標は「たらふく」の平仮名からなるものとみるのが自然である。そうすると、引用商標は、「たらふく」の語を認識させ、その構成文字に相応して、「タラフク」の称呼を生じ、「腹いっぱいに。十二分に。」の観念を生じるものである。

本願商標は、その構成中、「たらふく」の文字部分が独立して役務の出所識別標識として機能し得るものであるから、本願商標から当該文字部分を要部として抽出し、これと引用商標とを比較して、商標そのものの類否を判断することも許されるというべきである。そこで、本願商標と引用商標を比較すると、本願商標と引用商標とは、その構成全体の比較においては、区別し得ることを考慮したとしても、本願商標の構成中、役務の出所識別標識としての要部である「たらふく」の文字部分と引用商標の比較においては、両者は「タラフク」の称呼及び「腹いっぱいに。十二分に。」の観念を共通にするものである。

そうすると、本願商標と引用商標とは、外観において異なるとしても、その称呼及び観念を共通にするものであり、これら外観、称呼及び観念を総合して観察すれば、両商標は互いに紛れるおそれのある類似の商標というべきである。

コメント

上記「七福ししゃも」の審決と同様に、本件でも、本願商標の構成中「焼肉」の文字が、指定役務との関係において、提供する料理の種類を表す普通名称であるため、要部は「たらふく」であり、引用商標に類似すると判断されております。以前審決アップデートで紹介した審決においても「マントクラーメン」と「万徳/まんとく」が類似と判断されておりますので(不服2018-580)、提供する料理の種類を表す語との結合商標に関しては、一体不可分とは判断されない傾向あると考えられます。

際に参考になります。

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(文責・前田)