商標の類否は、出願商標及び引用商標がその外観、称呼又は観念等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に観察し、出願商標を指定商品又は指定役務に使用した場合に引用商標と出所混同の恐れがあるか否かにより判断されます(商標審査基準第4条第1項第11号)。一昔前は、これらのうち称呼が最も類否判断に影響を与えると考えられており、称呼が同一であれば、商標全体として類似すると判断される傾向にありました。しかしながら、審査・審判における判断の傾向は時代により変化し、現在では、称呼が同一であっても、外観や観念が相違することを理由に類似しないと判断される事例が散見されるようになりました。

そこで、今回の商標審決アップデートでは、過去の商標審決アップデートで紹介してきた称呼同一商標関連の審決例をもとに、いくつかの類型に分けて整理、分析し、最近の類否判断の傾向について説明します。

類型1:欧文字商標とその読みを表す片仮名商標の類否

参考審決例等

(1) 不服2017-13979: ≒ シンクスモール

(2) 不服2017-11252:  ≒ ミツワ

(3) 不服2017-14002:サネイ ≒

(4) 不服2019-14183:TUCKER ≠

※「≒」は類似を、「≠」は非類似を表す記号として使用しております。

コメント

上記審決例は、いずれも欧文字を含む商標とその欧文字の読みを表す片仮名文字を含む商標の類否に関するものであり、同一の称呼が生じると判断されております。

(1)~(3)の審決例では、実際の取引においては、欧文字で表した商標を片仮名で表記するなど、相互に置き換えた表記が一般的に行われているため、外観における差異は需要者に特段印象付けられるものではなく、称呼を共通にするため両商標は互いに類似すると判断されております。これに対して、(4)の審決例では、それぞれの商標が、欧文字で表した商標とその読みを表す片仮名商標である点で共通しますが、「タッカー」の片仮名文字がキャラクター図形と組み合わされていることにより、「タッカー」の文字がそのキャラクター図形の名称又は愛称を表したものと理解できるため、観念上明らかに区別し得ることを理由に、両商標は非類似であると判断されております。

これらの審決例から、(4)の審決例のように、観念上明らかに区別し得る場合を除いて、欧文字からなる商標とその読みを表す片仮名文字からなる商標は、類似と判断される傾向にあるといえます。

類型2:いずれも欧文字であって、綴りが異なる商標の類否

参考審決

(1) 不服2017-9439: ≒ AZAREA

(2) 不服2017-13980:THINK SMALL ≠ 

(3) 不服2017-15938:LIGHT NOW ≠ RIGHTNOW

(4) 不服2018-9322:  ≠ 

(5) 不服2019-972:AI-CON ≠ i-Con

(6) 不服2019-2455:iQube ≠ 

(7) 不服2019-2416:EN B ≠ 

※「≒」は類似を、「≠」は非類似を表す記号として使用しております。

コメント

上記審決例は、いずれも綴りが異なる欧文字商標(一部読みを表す片仮名文字を含む)の類否に関するものであり、同一の称呼が生じると判断されております。

非類似と判断された審決例のうち、(2)(3)(5)(7)では、両商標のいずれか一方又は両方から観念が生じるため、観念において区別できると述べられており、観念上の相違が類否判断に影響を与えております。一方、(4)(6)の審決例では、それぞれの商標から観念は生じず、観念上の相違が類否判断に影響を与えていないものの、外観上区別し得ることを理由に非類似と判断されております。これに対して、(1)の審決例では、「L」と「R」の差異以外、その綴りを同一にするため、外観上近似した印象を与えるものであり、類似すると判断されております。

これらの審決例から、綴りが異なる欧文字商標に関しては、同一の称呼が生じる場合であっても、観念上の相違の有無に関わりなく非類似と判断される傾向にあるといえます。ただし、(1)の審決例のように、構成文字のうち1文字だけ異なる等、外観上近似した印象を与えるような場合には、類似と判断される可能性が高いと考えられますので、注意が必要です。

類型3:漢字商標とその読みを表す文字商標の類否

参考審決

(1) 不服2017-13566: ≠ 

(2) 不服2017-14000:  ≠ 

(3) 不服2018-6665:  ≠ 

(4) 不服2018-3707:なかよし ≠ 菜家吉

(5) 不服2018-11617:  ≒ 

(6) 不服2019-7777:  ≒ にしきや

※「≒」は類似を、「≠」は非類似を表す記号として使用しております。

コメント

上記審決例は、いずれも漢字からなる商標とその読みを表す平仮名文字や欧文字からなる商標の類否に関するものであり、同一の称呼が生じると判断されております。

漢字からなる商標は、既存の熟語ではなくても、観念が生じると判断される場合があります。例えば、上記審決例のうち、(1)では「陽舟」から「陽(ひなた)と舟(ふね)」の観念が、(2)では「竹虎」から「竹と虎」の観念が、(3)では「爽和」から「爽やかで和やか」の観念がそれぞれ生じ、その読みを表す平仮名文字や欧文字からなる商標とは観念において相紛れるおそれがないと判断されております。しかしながら、類似と判断された(5)(6)の審決例では特定の観念は生じないと判断されております。

このように、漢字からなる商標とその読みを表す平仮名文字や欧文字からなる商標の類否に関しては、比較的非類似と判断される事例が多いとはいえるものの、(5)(6)のような審決例があり、類否判断が分かれております。

類型4:異なる漢字からなる商標の類否

参考審決

(1) 不服2015-16256:貯筋 ≠ 貯菌
(2) 不服2016-11141:栄雅 ≠ 栄華
(3) 不服2019-8264:漢八 ≠ 勘八

※「≒」は類似を、「≠」は非類似を表す記号として使用しております。

コメント

上記審決例は、いずれも漢字からなる商標であって、一部異なる漢字で構成されている商標の類否に関するものであり、同一の称呼が生じると判断されております。いずれも非類似と判断されております。

類型3のコメント記載のとおり、漢字からなる商標は、既存の熟語ではなくても、観念が生じると判断される場合があります。例えば、上記審決例のうち、(1)では「貯筋」から「筋肉を貯めること」の観念が、「貯菌」からは「菌を貯めること」の観念が生じ、観念が明らかに相違すると判断されております。また、(3)では「漢八」から「(特に日本から見た)中国(本土)。男子。」の観念が、「勘八」から「五感以外の、一種の感覚。」、「数の名。やっつ。」の意味を有する文字によって構成されるといった観念上の印象を与えるため、観念上相互に異なる印象があると判断されております。

また、上記審決例では、いずれも構成のうち1文字が異なることで、外観上相紛れるおそれはないと判断されております。

このように、両商標がいずれも漢字からなる商標の場合、同一の称呼が生じるとしても、外観及び観念が相違することを理由に、非類似と判断される傾向にあります。上記審決例は、いずれも漢字1文字が共通する事例ですが、それでも非類似と判断されておりますので、1文字も共通の漢字を含まない場合、より非類似と判断される可能性が高いものになると考えられます。

類型5:同じ文字を含む商標の類否

参考審決

(1) 不服2017-6925:  ≒

(2) 不服2018-1167:  ≒ 

(3) 不服2017-17411:  ≒ 雷神

※「≒」は類似を、「≠」は非類似を表す記号として使用しております。

コメント

上記審決例は、それぞれ構成に同じ文字を含む商標の類否に関するものであり、同一の称呼が生じると判断されております。いずれも類似と判断されております。

審決例では、両商標又は一方の商標が図案化されており、外観は異なる印象を与えるように思われますが、(2)では「Re:Style」の文字部分において外観上類似すると判断されており、(3)では外観上近似した印象を与えると判断されております。

これらの審決例から、両商標が同じ文字を含む場合、両方又は一方が図案化されており、外観が異なる印象を与えるようであっても、類似と判断される傾向にあるといえます。

(文責・前田)