商標の審査・審判における判断の傾向は時代により変化しますので、その傾向を把握するためには審決や異議の決定を継続的にチェックする必要があります。商標審決アップデートでは、定期的に注目すべき商標審決をピックアップし、情報提供していきます。 
  
今回は、称呼同一商標の類否に関する審決と、一音相違商標の類否に関する審決を取り上げております。

不服2018-5247(なかよし/称呼同一商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標: なかよし(標準文字)
指定役務:第43類「飲食物の提供,宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,動物の宿泊施設の提供,イベント会場の貸与,会議室の貸与,展示施設の貸与,業務用加熱調理機械器具の貸与,業務用食器乾燥機の貸与,業務用食器洗浄機の貸与,加熱器の貸与,食器の貸与,調理台の貸与,流し台の貸与」

引用商標:菜家吉(標準文字)
指定役務:第43類「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,飲食物の提供」

結論

原査定を取り消す。 本願商標は、登録すべきものとする。

両商標は非類似の商標であるから、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。

審決等の要点

本願商標は、「なかよし」の文字を標準文字で表してなるところ、当該文字は、「仲がよいこと。」の意味を有する語として慣れ親しまれている「仲良し」の語を平仮名で表したものと看取、理解されるものといえるから、本願商標は、「ナカヨシ」の称呼及び「仲がよいこと。」の観念を生じるものである。

引用商標は、「菜家吉」の文字を標準文字で表してなるところ、当該文字は、既成の語として、一般的な辞書に掲載されているものではなく、また、特定の意味合いを想起させる語として知られているものとも認められない。そして、上記文字は、その構成から、「菜」、「家」及び「吉」の漢字を一連に組み合わせてなるものといえるところ、「菜」の漢字が「サイ」又は「ナ」の読み及び「副食物。おかず。」の意味を有するもの、「家」の漢字が「カ」、「ケ」、「イエ」又は「ヤ」等の読み及び「居住用の建物。うち。」の意味を有するもの、「吉」の漢字が「キチ」又は「ヨシ」等の読み及び「よいこと。めでたいこと。」の意味を有するものであって、いずれも慣れ親しまれていることに鑑みてもなお、これらを一連に組み合わせてなる当該文字から特定の称呼及び観念を生じるとまではいい難い。そうすると、引用商標は、これを構成する「菜」、「家」及び「吉」の漢字が有する読みの組合せの一として、「ナカヨシ」の称呼を生じ得るとまではいえるものの、当該各漢字が有する意味を組み合わせてみても、特定の観念を生じるとはいえないものである。

本願商標と引用商標とは、それぞれの文字の種類及び構成に明らかな差異があるから、外観上、明確に区別し得るものである。また、引用商標は、特定の称呼を生じるとまではいい難く、生じ得る称呼の一として「ナカヨシ」があるにすぎないものであるから、その称呼を生じるとした場合においてのみ、本願商標から生じる「ナカヨシ」の称呼と称呼を同じくするものである。さらに、本願商標は、「仲が良いこと」の観念を生じるものであるのに対し、引用商標は、特定の観念を生じないものであるから、両商標は、観念上、相紛れるおそれはない。

そうすると、本願商標と引用商標とは、外観において明確に区別し得るものであり、引用商標から「ナカヨシ」の称呼を生じるとした場合においてのみ称呼を同じくするといえるものであって、観念において相紛れるおそれのないものであるから、両商標の外観、称呼、観念等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両商標は、相紛れるおそれのないものというべきである。してみれば、本願商標と引用商標とは、相紛れるおそれのない非類似の商標である。

コメント

本願商標「なかよし」は「仲がよいこと。」の意味を有する語として慣れ親しまれており、特定の観念を生じない引用商標とは観念上相紛れるおそれがないことが、非類似の判断に影響を与えているものと思われます。同様に、同じ称呼を生じるものの、観念上相紛れるおそれがなく非類似であると判断された過去の審決例として以下のものがあります(≠は非類似を表す記号)。

・不服2017-14000:
・不服2017-8398:美実(標準文字)≠

不服2018-9322(リアクト REACTO/称呼同一商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:
指定商品:第12類「自転車並びにその部品及び附属品」

引用商標:
指定商品:第12類「Seats for vehicles, especially for automobiles, for aircraft and for boats; parts of these seats, especially headrests.」(日本語訳:船舶・航空機・鉄道車輌・自動車・二輪自動車用座席、特に自動車・航空機及び船舶用の座席,これらの座席の部品、特にヘッドレスト)

結論

原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。

審決等の要点

本願商標と引用商標の類否について検討するに、本願商標の構成中の「REACTO」の欧文字と引用商標を構成する「riAct」の欧文字とは、「R(r)」、「A」、「C(c)」、「T(t)」の大文字と小文字という共通性を有するものの、全体の文字数が6文字と5文字とで異なり、そのつづりにおいて語頭に続く2文字目が、「E」と「i」とで異なることに加えて、語尾において「O」の文字の有無の差異を有することから、これらの差異は、全体を構成する文字数が6文字と5文字という、さほど多くない文字数においては、別異の語であるとの印象を強く与えるものである。

また、本願商標を構成する「リアクト」及び「REACTO」の文字は、それぞれ、全て同じ大きさで書してなるのに対して、引用商標を構成する「riAct」の欧文字は、中間の「A」のみを大文字で、それ以外を小文字で書してなり、中間の「A」が大きく目立つ外観上の特徴を備えてなるものであるから、両者は、視覚的な印象が著しく相違し、外観上、判然と区別し得るものである。

次に、称呼においては、本願商標と引用商標とは、共に「リアクト」の称呼を生じるものであるから、称呼上、同一である。

そして、観念においては、本願商標と引用商標は、特定の観念を生じないものであるから、両者は、観念上、比較することができないものである。

そうすると、本願商標と引用商標とは、共通の称呼を生じるとしても、外観においては、両者の構成文字及び特徴の有無において目立った差異を有するものであって、その印象が著しく相違し、判然と区別し得るものであるから、その称呼の共通性が外観における差異を凌駕するとはいい難く、また、観念においては、比較することができないものであるから、これらを総合して全体的に考察すれば、本願商標は、引用商標と商品の出所について混同を生ずるおそれのない非類似の商標というのが相当である。

コメント

本願商標と引用商標は、いずれも特定の観念を生じず、観念上は比較できないため、類否判断に観念は影響しておりません。しかしながら、本願商標が全て大文字から構成されているのに対し、引用商標は大文字と小文字から構成されており、また、全体の文字数も6文字と5文字で異なるため、外観上目立った差異を有することを主な理由として、非類似と判断されております。

不服2018-11617(SEIWA/称呼同一商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:
指定商品:第7類「塗装機械器具,高圧洗浄機(家庭用高圧洗浄機を除く),風水力機械器具,エアーコンプレッサー,化学機械器具,業務用攪はん混合機,かくはん機(化学機械器具),金属加工機械器具,研磨機」

引用商標:
指定商品:第7類「鉱山機械器具,耕うん機械器具(手持ち工具に当たるものを除く。),栽培機械器具,収穫機械器具,植物粗製繊維加工機械器具,飼料圧搾機,飼料裁断機,飼料配合機,飼料粉砕機,牛乳ろ過器,搾乳機,育雛器,ふ卵器,蚕種製造用又は養蚕用の機械器具,漁業用機械器具,化学機械器具」等
※その他の第6,8,9,11,16,19,20,21,26類は省略

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

本願商標は、引用商標と類似する商標であり、かつ、本願の指定商品と引用商標の指定商品が同一又は類似の商品であるといえるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。

審決等の要点

本願商標は、「i」の点を赤色、その他を青色で彩色し、構成各文字の一部分に丸みを持たせる等のデザインを施した「SEiWA」の欧文字を、横書きしてなるものであるところ、その欧文字は、各種のレタリング文字が広く使用されている現状にあっては、「SEiWA」の欧文字を表したものと無理なく理解されるものである。また、「SEiWA」の欧文字は、辞書類に載録された成語とは認められないから、特定の語義を有しない一種の造語として理解されるものである。そして、欧文字からなる造語の場合は、我が国で一般に普及したローマ字又は英語の読みに倣って称呼されるものであるから、本願商標は、ローマ字の読みに倣って「セイワ」の称呼を生じるものである。したがって、本願商標は、「セイワ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。

他方、引用商標は、「誠和」の文字を、文字間に約1文字分のスペースを設けて書してなるところ、該文字は、辞書類に載録された成語とは認められないから、特定の語義を有しない一種の造語として理解されるものである。したがって、引用商標は、その構成文字に相応して、「セイワ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。

そこで、本願商標と引用商標とを比較するに、本願商標と引用商標とは、外観においては、文字の種類が欧文字と漢字とで異なり、また、文字のデザイン化の有無の差異を有するものであるが、わが国において、商号又はその一部を表記する場合も含め、日常の様々な場面で文字種を変更し、また、文字をデザイン化して使用することは、ごく一般的であって、同一語の欧文字及び漢字表記は、それらにデザインを施したものも含めて、併用されることが普通に見られる事情を考慮すると、一種の造語として理解される両商標は、その文字種が異なる関係であるにすぎないものであって、外観上、いずれかの外観が他方のそれに比して両者が別異の商品であることを認識せしめるほどの特段の強い印象を与えるものであるとはいえない。次に、称呼においては、共に「セイワ」の称呼を生じるから、称呼上、同一である。さらに、観念においては、いずれも特定の観念を生じないから、観念上、比較することができないものであるが、特定の観念を有しない文字商標においては、観念において商標を記憶できず、称呼において記憶し、これを頼りに取引にあたることも決して少なくないというのが相当である。 

以上によれば、本願商標と引用商標とは、観念において比較できないとしても、両者の外観の違いから生じる識別力は微弱であって、取引上必要な役割を果たす称呼を共通にするものであるから、その外観及び称呼によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合し、かつ、上記の取引の実情を考慮すると、両商標は、商品の出所について誤認混同を生じさせるおそれのある類似の商標と判断するのが相当である。

コメント

本願商標と引用商標は、いずれも特定の観念を生じないため、観念上比較できず、また、両者の外観の違いから生じる識別力が微弱であるため、取引上必要な役割を果たす称呼が共通することを理由に類似すると判断されております。この審決例を含め、最近の傾向では、称呼同一商標の場合、外観又は観念のいずれも顕著に相違するものといえなければ、類似と判断される傾向にあると考えられます。

不服2019-972(AI-CON/称呼同一商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:AI-CON(標準文字)
指定商品・役務:第9類「コンピュータ,半導体チップ,マイクロチップ,マイクロプロセッサ,アプリケーションソフトウェア」等
第35類「コンピュータによる文書の作成又はファイルの管理,企業における文書の管理に関する指導,顧客情報の管理とこれに関する情報の提供,経営の診断又は経営に関する助言」
第42類「オンラインによるアプリケーションソフトウェアの提供,クラウドコンピューティング,クラウドコンピューティングネットワークのアクセス及び使用に用いるオペレーティングソフトウェアの設計・作成又は保守,ウェブサイトの作成又は保守,電子計算機用プログラムの設計・開発・作成又は保守」
第45類「法律に関する相談及び情報の提供,著作権の利用に関する契約の代理又は媒介」

引用商標1:i-Con
指定役務:第37類「建設工事,建築工事に関する助言,建築設備の運転・点検・整備」等
第39類「通信端末を用いた飛行機の位置情報の提供,マルチコプターによる輸送又は運搬」等
第41類「産業用無人ヘリコプター・産業用無人航空機・産業用無人マルチコプターに関する知識の教授」等
第42類「製品の研究及び開発,新製品の研究及び開発,製品開発に関する技術的な助言」等

引用商標2:ICON
指定商品・役務:第9類「ダウンロード可能な電子出版物,電子出版物,書籍の内容を録音した記録媒体」等
第16類「雑誌(定期刊行物),新聞,書籍,取扱説明書」等
第35類「広告業,マーケティング及び販売促進のための企画及びその実行の代理」等
第38類「報道をする者に対するニュースの供給,メッセージの送信,映像の電子通信」等
第41類「ウェブ雑誌の制作,教育・訓練及び再教育用講座の手配及び運営」等

結論

原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標と引用商標とは非類似の商標であるから、商品及び役務の類否について判断するまでもなく、本願商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。

審決等の要点

本願商標と引用商標1の類否について検討すると、外観においては、両者は、最も目立つ語頭の「A」の欧文字の有無や構成中の「I(i)」、「O(o)」及び「N(n)」の欧文字における大文字と小文字の相違という顕著な差異を有するものであるから、外観上明確に区別できるものである。次に、称呼においては、本願商標と引用商標1は「アイコン」の称呼を共通にするものである。そして、観念においては、本願商標と引用商標1は、特定の観念を生じないものであるから、両者は、観念上比較することができない。

そうすると、本願商標と引用商標1とは、観念において比較できず、称呼において共通する場合があるとしても、外観において顕著な差異を有するものであり、明確に区別できるものであるから、これらを総合して考察すれば、両者は、互いに非類似の商標というのが相当である。

本願商標と引用商標2の類否について検討すると、外観においては、両者は、最も目立つ語頭の「A」の欧文字の有無や「-」(ハイフン)の有無という顕著な差異を有するものであるから、外観上明確に区別できるものである。次に、称呼においては、本願商標と引用商標2は「アイコン」の称呼を共通にするものである。そして、観念においては、本願商標は特定の観念を生じないのに対し、引用商標2は「アイコン(コンピュータ画面で使用される小図形)」の観念を生じるものであるから、両者は、観念上相紛れるおそれはない。

そうすると、本願商標と引用商標2とは、称呼において共通する場合があるとしても、外観及び観念において明確に区別できるものであるから、これらを総合して考察すれば、両者は、互いに非類似の商標というのが相当である。

コメント

本願商標と引用商標1の類否に関しては、称呼は共通するものの、大文字小文字や文字数の違いを有することから、外観上顕著な差異を有することを理由に非類似と判断されている点において、上記不服2018-9322と同様の判断となっております。一方、本願商標と引用商標2の類否に関しては、引用商標2から「アイコン(コンピュータ画面で使用される小図形)」の観念が生じるため、観念上相紛れるおそれがないことを理由に非類似と判断されております。

不服2019-3270(Joboco/一音相違商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:
指定商品・役務:第9類「インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル,コンピュータソフトウェア(記憶されたもの),コンピュータプログラム(記憶されたもの),インターネットを利用して受信し、及び保存することができる画像ファイル,電子出版物,電子計算機用プログラム」及び第42類「コンピュータプログラムのインストール,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,オンラインによるアプリケーションソフトウェアの提供(SaaS),クラウドコンピューティング,ウェブサイト経由によるコンピューター技術及びコンピュータプログラミングに関する情報の提供,デザインの考案(広告に関するものを除く。),ウェブサイトの作成又は保守,ウェブサーバーの貸与,電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,電子計算機用プログラムの提供,電子計算機の貸与,コンピュータソフトウエアのバージョンアップ,コンピュータソフトウェアの設計・作成・保守に関する助言,コンピュータソフトウエアの保守,コンピュータソフトウエアの貸与」

引用商標:
指定商品・役務:第9類「レコード,メトロノーム,電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,計算尺,映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電子出版物」等
第42類「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明」等

結論

原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。

審決等の要点

本願商標と引用商標との類否について検討するに、本願商標と引用商標とは、外観においては、「Job(JOB)」と「co(CO)」のつづりが共通するとしても、中間部において「o」の有無という明らかな差異があること、また、その文字の態様においても、やや太めの角の丸い書体とセリフを有するやや細めで縦長の書体とで異なること、さらに、文字のデザイン化及び色彩の有無の差異を有することからすれば、両者は、視覚的な印象が著しく相違し、外観上、判然と区別し得るものである。

次に、称呼においては、本願商標から生じる「ジョボコ」の称呼と引用商標から生じる「ジョブコ」の称呼とは、第2音において、「ボ」と「ブ」の差異を有するものであるが、共に全体がわずか3音からなるごく短い称呼においては、第2音の差異が、称呼全体に及ぼす影響は決して小さいものとはいえず、両称呼をそれぞれ一連に称呼した場合、語調、語感を異にし、称呼上、明瞭に聴別し得るものである。

そして、観念においては、本願商標と引用商標は、特定の観念を生じないものであるから、両者は、観念上、比較することができないものである。

そうすると、本願商標と引用商標とは、観念においては比較することができないとしても、外観においては、両者の構成文字及び態様に目立った差異を有するものであって、その印象が著しく相違し、判然と区別し得るものであり、称呼においても明瞭に聴別し得るものであるから、これらを総合して全体的に考察すれば、本願商標は、引用商標と商品又は役務の出所について混同を生ずるおそれのない非類似の商標というのが相当である。
 

コメント

本願商標と引用商標とは「ボ」と「ブ」の音の差異を有しており、本件では非類似と判断されております。同様の音の差異を有する過去の審決例として、以下のものがあります(≠は非類似を表す記号)。

・不服2012-17880:TRANSERVO ≠ TRANSERVE
・不服2011-650028:DIABOLO ≠ DIABLO

不服2018-14115(金剛/一音相違商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:
指定役務:第37類「建設工事,建築物の建設工事・修理及び保守並びにそれに関する情報の提供,建築工事に関する助言,建築物建設中の施工管理,建築物及び他の構造物の建設工事に関する助言,建築物及び他の構造物の保守・修理及び修繕に関する助言,建造物・絵画・彫刻・工芸品・古文書等の文化財の修理・補修又は保守,建具の修理又は保守,家具の修理又は保守,防犯・防災設備機器の修理又は保守及びこれらの仲介・取次ぎ,建築物の内外の清掃,窓の清掃,床敷物の清掃,床磨き,建築物の外壁の清掃,土木機械器具の貸与」

引用商標:KONGO(標準文字)
指定商品・役務:第19類「シャッター(金属製のものを除く。),木製建築専用材料,プラスチック製建築専用材料,合成建築専用材料」
第37類「シャッターの取付工事・修理・保守,車庫の入口設備の設置・修理・保守,倉庫の入口設備の設置・修理・保守,整備場の入口設備の設置・修理・保守,工場の入口設備の設置・修理・保守,建築工事,建築設備の運転・点検・整備,荷役機械器具の設置・修理・保守,照明用器具の設置・修理・保守」

結論

原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標と引用商標とは、同一又は類似の商標ではないから、その指定役務について比較するまでもなく、商標法第4条第1項第11号には該当しない。

審決等の要点

本願商標は、別掲のとおり、「金剛」(なお、「剛」の文字は、旧字体で書されている。この審決においては便宜上「剛」と表す。)の文字を縦書きしてなるところ、その構成文字に相応して「コンゴウ」の称呼を生じ、該文字は「金属のなかで最も硬いもの。ダイヤモンド。転じて、極めて堅固でどんなものにもこわされないこと。」(株式会社岩波書店 広辞苑「第六版」)等の意味を有する語であるから、これより、「金属のなかで最も硬いもの。」ほどの観念を生じる。

引用商標は、「KONGO」の欧文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字に相応して「コンゴ」の称呼を生じ、該文字からは何らかの意味を有する成語を表してなるものとは直ちに認識できないため、引用商標からは特定の観念は生じない。

本願商標と引用商標とを比較すると、両商標は外観においては、文字種(漢字及び欧文字)及び書体の相違から、外観上、判然と区別できるものである。

次に、称呼においては、本願商標より生ずる「コンゴウ」の称呼と、引用商標より生ずる「コンゴ」の称呼を比較するに、両者は、「コンゴ」の音を共通にするが、語尾における「ウ」の音の有無に差異を有するものである。そして、両者が4音、3音という短い音構成であることからすれば、該「ウ」の音の有無の差異が、両称呼に及ぼす影響は決して小さいものとはいえず、両者をそれぞれ一連に称呼するときは、前者が語尾における「ウ」の音による間延びした感じに聴取されるのに対し、後者は、語尾の「ゴ」の音が吸収されやすく、弱く発せられる「ン」の後に位置しているため、強く際立って発声されるため、その称呼全体の語調、語感が相違したものとなるから、称呼上、互いに聴き誤るおそれはないものと判断するのが相当である。

また、観念については、本願商標から「金属のなかで最も硬いもの。」ほどの観念を生じるのに対して、引用商標からは特定の観念を生じないため、両商標は、観念上、相紛れるおそれのないものである。

したがって、本願商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念において相違するものであるから、これらを総合的に勘案すれば、両商標は同一又は類似の役務に使用されるとしても、出所の混同を生じるおそれはなく、相互に類似する商標とはいえない。 

コメント

本件では、引用商標から「コンゴ」の称呼が生じると判断され、本願商標とは末尾の「ウ」の差異を有し、また、観念上相紛れるおそれがないことを理由に非類似と判断されております。過去の審決例においても、出願商標「WIND」(称呼:ウインド)と引用商標「ウインドウ」が非類似であると判断されております(不服2004-5661)。

不服2018-10524(アジュール/一音相違商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:アジュール(標準文字)
指定商品:第10類「心臓ペースメーカー並びにその部品及び附属品」

引用商標1:AZULE(標準文字)
指定商品:第10類「心臓カテーテル,血管カテーテル,カテーテル用ガイドワイヤ,カテーテル挿入用装置,ステント,その他の医療用機械器具」
第44類「医療情報の提供,医療用機械器具の貸与」

引用商標2:アズール(標準文字)
指定商品:第10類「血管塞栓用コイルシステム」

結論

原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標と引用商標とは非類似の商標であるから、両商標の指定商品が類似するものであるとしても、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして本願商標を拒絶した原査定は、取消しを免れない。

審決等の要点

本願商標と引用商標1とを比較すると、外観においては、片仮名と欧文字の文字種が相違することから、本願商標と引用商標1とは、外観上、明確に区別し得るものである。次に、本願商標と引用商標2とを比較すると、それぞれの構成文字4文字中、2文字目の「ジュ」と「ズ」の文字が異なることから、本願商標と引用商標2とは、外観上、明確に区別し得るものである。

次に、称呼においては、本願商標から生ずる「アジュール」の称呼と引用商標から生ずる「アズール」の称呼を比較すると、いずれも長音を含む4音からなるものであるが、異なる第2音「ジュ」及び「ズ」はいずれも長音の前に位置する音であり、比較的強く発音されるものであるから、共に4音という短い音構成である両商標においては、強調される音が相違する場合は、その音が及ぼす影響は決して小さいものとはいえず、それぞれを一連に称呼するときは、全体の語調、語感が相違したものとなり、互いに聞き誤るおそれはなく、称呼上、十分に聴別することができる。また、本願商標から生ずる「アジュール」の称呼と引用商標1から生ずる「アズーレ」の称呼を比較すると、第2音の「ジュ」と「ズ」の音が異なり、加えて、語尾の「ル」と「レ」の音も差異を有するから、共に4音という短い音構成からなる称呼のうち2音が異なる場合は、称呼全体に及ぼす影響は大きく、称呼上、明瞭に聴別し得るものである。

さらに、観念においては、本願商標及び引用商標からは、特定の観念を生じないものであるから、観念上、両者を比較することはできない。

本願商標と引用商標とは、観念において比較できないとしても、その外観においては、文字種や構成文字が異なる差異を有するものであり、また、称呼においても、全体で4音の中で、強調される音が異なるため、明瞭に聴別し得るものである。したがって、これらを総合して全体的に考察すれば、本願商標と引用商標とは、商品の出所について混同を生ずるおそれのない非類似の商標といわざるを得ない。

コメント

本願商標と引用商標とは「ジュ」と「ズ」の音の差異を有しており、本件では非類似と判断されております。過去の審決例においても、出願商標「ELMER’S」(称呼:エルマーズ)と引用商標「エルマージュ」が非類似であると判断されております(審判1998-15770)。

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(文責・前田)