商標の審査・審判における判断の傾向は時代により変化しますので、その傾向を把握するためには審決や異議の決定を継続的にチェックする必要があります。商標審決アップデートでは、定期的に注目すべき商標審決をピックアップし、情報提供していきます。
今回は、3条拒絶(識別力を有しないことを理由とする拒絶)に関する異議の決定及び審決を取り上げております。
異議2018-900015(モーノポンプ/商品の品質等、役務の質等)
審決分類
商標法第3条第1項第3号(商品の産地、品質等又は役務の質等)
商標法第4条第1項第16号(品質等の誤認)
商標及び指定商品・役務
本願商標:モーノポンプ
指定商品:第7類「一軸偏心ねじポンプ」等
結論
登録第5989296号の商標登録を維持する。
本件商標は、これをその指定商品に使用しても、商品の品質等を表示するものでなく、自他商品識別標識としての機能を果たし得るものといわなければならない。したがって、本件商標は商標法第3条第1項第3号に該当するものといえない。
審決等の要点
「モーノポンプ」の語は、本件商標の登録査定の日以前において、我が国のポンプ及びポンプを用いた技術分野における研究者、技術者の間で少なくともポンプの一種を表すものとして相当程度知られているものといえ、また、「モーノポンプ」の英語表記である「Mohno Pump」の語も同様のものとしてある程度知られているものといって差し支えない。しかしながら、特許公開公報や技術文献は専門的な内容のものであって、一般の需要者が接する機会は極めて限られているものである(英文であればなおさらである。)ことから、それらに掲載されていることをもって、その内容が一般に知られているものということは困難である。そして、「一軸偏心ねじポンプ」などポンプ類を含む本件商標の指定商品に係る一般的な取引者・需要者について、それと異なる特別な事情があると認めるに足りる証左は見いだせない。加えて、我が国における商取引において、商標権者以外の者が「モーノポンプ」の語を用いたのは、2件のみであることをあわせみれば、「モーノポンプ」の語は、いずれも本件商標の登録査定時において、一般の取引者・需要者をして、「一軸偏心ねじポンプ」あるいはポンプの一種を表したものとして認識されることなく、むしろ特定の語義を有しない造語を表したものと認識、把握されるものと判断するのが相当である。
本件商標は、「モーノポンプ」の文字からなり、「モーノポンプ」の称呼を生じるものである。そして、「モーノポンプ」の語は、本件商標の登録査定時において、一般の取引者・需要者をして特定の語義を有しない造語を表したものと認識、把握されるものである。さらに、職権をもって調査するも、「モーノポンプ」の文字が、本件商標の登録査定時において、本件商標の指定商品の品質等を表示するものとして一般的に使用されているというべき事情、及び商品の品質等を表示するものとして認識されるというべき事情は発見できなかった。
そうすると、本件商標は、これをその指定商品に使用しても、商品の品質等を表示するものでなく、自他商品識別標識としての機能を果たし得るものといわなければならない。
コメント
本件では、「特許公開公報や技術文献のような専門的な内容のものに使用されているとしても、一般の需要者が接する機会が極めて限られており、一般に知られているということは困難であると判断された点と、商標権者以外の者が「モーノポンプ」の語を用いた例が2件のみである点が、異議の決定の判断に影響を与えたものと思われます。なお、本件に先立って、「モーノポンプ」の文字に関する不正競争行為差止等請求事件(平成26年(ワ)第8869号)がありましたが、当該事件においても、「モーノポンプ」は普通名称化しているとは認められないと判断されております。
異議2017-900269(武蔵野ブルワリー/商品の品質等、役務の質等)
審決分類
商標法第3条第1項第3号(商品の産地、品質等又は役務の質等)
商標及び指定商品・役務
本願商標:武蔵野ブルワリー
指定商品:第32類「ビール」
結論
登録第5952397号商標の商標登録を取り消す。
本件商標の登録は、商標法第3条第1項第3号に違反してされたものであるから、同法第43条の3第2項の規定により、取り消すべきものである。
審決等の要点
本件商標は、「武蔵野ブルワリー」の文字を普通に用いられる方法で横書きしてなるものであって、その指定商品を第32類「ビール」とするものである。
ところで、申立人の提出に係る証拠及び当審における職権による調査によれば、本件商標の登録査定時において、「武蔵野」の文字は、「関東平野の一部。埼玉県川越市以南、東京都府中市までの間に拡がる地域」を意味する語として、また、「ブルワリー」の文字は、「ビール醸造所」の意味を有する外来語として、一般に慣れ親しまれていたものといえる。そして、我が国において、「○○ブルワリー」(「○○」には、地名等を表示する文字が入る。)との名称からなる醸造所が少なからず存在し、ビールが製造されている実情があり、加えて、武蔵野の醸造所においても、ビールが製造されていることが認められる。
そうすると、本件商標をその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者は、本件商標から、「武蔵野の醸造所」ほどの意味合いを容易に看取し、その商品が「武蔵野の醸造所で製造されたビール」であることを理解し、認識するにとどまるとみるのが相当であるから、本件商標は、単に商品の産地、品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものといえる。
コメント
本件では、本願商標は単に商品の産地、品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであり、識別力を有しないと判断されておりますが、地名と「ブルワリー」の文字を組み合わせた以下の商標は、識別力を有すると判断され、登録されております。
・登録第5783856号「江ノ島ブルワリー」
・登録第5783972号「羽田ブルワリー」
・登録第5938156号「銀座ブルワリー」
無効2017-890043(ささげ/商品の品質等、役務の質等)
審決分類
商標法第3条第1項第3号(商品の産地、品質等又は役務の質等)
商標及び指定商品・役務
本願商標:ささげ(標準文字)
指定役務:第35類「広告業等」等
結論
登録第5681047号商標の指定役務中、第35類「広告業」についての登録を無効とする。
本件商標は、その指定役務中、「広告業」についての登録は、商標法第3条第1項第3号に違反してされたものであるから、その余の無効理由について言及するまでもなく、同法第46条第1項第1号に基づき、無効とすべきものである。
審決等の要点
インターネット通販の拡大、多角化の変遷の中で、インターネット通販業界や物流の関連業者において、「ささげ」の語は、「撮影、採寸、原稿作成」を指す語として遅くとも2011年には使用され、ささげ業務、ささげ支援等、ささげ(撮影、採寸、原稿)に関するサービスを提供しているものといえる。 そして、請求人をはじめとするインターネット通信販売に係る商品の広告制作を行っている業界において、「ささげ」の語は、「撮影、採寸、原稿作成」という広告制作の一連の作業を表すものとして認識され、普通に使用されているというべきである。
そうとすると、「ささげ」の語は、本件商標の登録査定前から、広告業界において、インターネットによる商品の通信販売に係る「撮影、採寸、原稿作成」という広告制作の一連の作業を表すものとして、取引者、需要者に認識されていたといえるものである。
本件商標は、「ささげ」の平仮名からなるものである。そして、上記のとおり、「ささげ」の語は、広告業界において、インターネットによる商品の通信販売に係る「撮影、採寸、原稿作成」という広告制作の作業を表すもの、すなわち、広告物の制作方法を表すものとして本件商標の登録査定前から使用されているものであるから、これをその指定役務中「広告業」について使用しても、広告制作の一連の作業を表すにすぎず、単にその役務の質を普通に用いられる方法で表示するものというのが相当である。
コメント
広告業界において普通に使用されている実情が考慮され、「広告業」についてはその役務の質を普通に用いられる方法で表示するものというのが相当であると判断された点が、実務上参考になると思われます。
不服2017-7993(オイルキャッチャー/商品の品質等、役務の質等)
審決分類
商標法第3条第1項第3号(商品の産地、品質等又は役務の質等)
商標及び指定商品・役務
本願商標:オイルキャッチャー(標準文字)
指定商品:第12類「陸上の乗物用のエアドライヤより放出される圧縮空気中から油分を分離・蓄溜し、大気・道路又は車両の油汚染を防止するために用いる気液分離器」
結論
原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。
本願商標は商標法第3条第1項第3号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消を免れない。
審決等の要点
本願商標は、「オイルキャッチャー」の文字からなるところ、その構成中の「オイル」の文字が「油。特に石油。潤滑油。」の意味を、また、「キャッチャー」の文字が「とらえる人、また、もの。」の意味を有する語であって(ともに広辞苑 第6版 岩波書店)、その構成全体から原審説示の意味合いを暗示させる場合があるとしても、これが直ちに特定の商品の品質等を具体的かつ直接的に表したものと理解、認識させるとはいい難いものである。
また、当審において職権をもって調査するも、本願の指定商品を取り扱う業界において、「オイルキャッチャー」の文字が、商品の品質を表示するものとして、取引上普通に用いられていると認めるに足る事実も見いだせない。
そうすると、本願商標は、その構成全体をもって特定の語義を有することのない一種の造語として認識されるとみるのが自然であって、これに接する取引者、需要者が商品の用途・品質を表示したものと理解するものではないというのが相当であり、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものというべきである。
コメント
本件と同様に、一般名称と「キャッチャー」の文字を組み合わせた構成よりなる商標が識別力を有すると判断された審決例として、不服2010-5129「ソフトドアキャッチャー」、不服2009-202「エアダストキャッチャー」があります。また、以下のような登録例もあり、一般名称と「キャッチャー」の文字を組み合わせた商標は、識別力を有すると判断される傾向にあると思われます。
・登録第5531024号「シロアリキャッチャー」
・登録第5588090号「ウイルスキャッチャー」
・登録第5168421号「ゴキブリキャッチャー」
不服2017-16887(ドローン検定/商品の品質等、役務の質等)
審決分類
商標法第3条第1項第3号(商品の産地、品質等又は役務の質等)
商標法第4条第1項第16号(品質等の誤認)
商標及び指定商品・役務
本願商標:ドローン検定(標準文字)
指定役務:第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,検定試験の企画・運営又は実施及びこれらに関する情報の提供,セミナーの企画・運営又は開催,検定試験受験者へのセミナーの開催及びこれらに関する情報の提供」等
結論
原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。
本願商標が、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するものとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
審決等の要点
本願商標は、「ドローン検定」の文字からなるところ、その構成中の「ドローン」の文字は、「無人機」の意味を、「検定」の文字は、「検定試験の略」の意味を有する語(いずれも、株式会社岩波書店「広辞苑第7版」)であって、これらの語は、いずれも一般に知られた語といえるものである。そうすると、本願商標は、その構成文字全体から、「ドローン(無人機)の検定試験」程の意味合いを想起させる場合があるとしても、これよりは、具体的な検定試験の内容を認識させるとはいい難く、これを、本願の指定役務に使用しても、直ちに役務の質(内容)を直接的かつ具体的に表示するものとして取引者、需要者に認識されるともいい難いものである。
また、当審において、職権をもって調査するも、「ドローン検定」の文字が、その指定役務を取り扱う業界において、具体的な役務の質(内容)を表すものとして、取引上、普通に使用されている事実を発見できなかった。
してみれば、本願商標をその指定役務に使用しても、具体的な役務の質を表示するものとはいえず、自他役務の識別標識としての機能を果たし得るものというべきであり、かつ、役務の質の誤認を生ずるおそれもないものである。
コメント
「検定」の文字を含む商標は、具体的な役務の内容を表す場合、識別力を有しないと判断される傾向にあります。「検定」の文字を含む商標に関する審決例として、以下のものがあります。
・不服2016-17405「表現能力検定」:識別力有り
・不服2016-260「生活リハビリ検定」:識別力無し
・不服2014-18463「在宅秘書検定」:識別力無し
不服2017-14987(わかめラーメン/商品の品質等、役務の質等)
審決分類
商標法第3条第1項第3号(商品の産地、品質等又は役務の質等)
商標及び指定商品・役務
本願商標:
指定商品:第30類「わかめ入り即席ラーメンのめん」
結論
原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。
本願商標は、その構成全体をもって、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものといえるから、これをその指定商品について使用しても、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とはいえないものである。
審決等の要点
本願商標は、「わかめ」の平仮名を紫色で大きく表し、その右下に「め」の文字と幅を揃えるように「ラーメン」の片仮名を右上がりに小さく表してなるもので、その片仮名部分を横長四角形で囲い、その内部を各構成文字それぞれが収まるように4つに枠で区切り、各枠内は左から赤、黄、黄緑及び緑色で塗りつぶしてなるものである。そして、本願商標の構成中、「わかめ」の文字は、「コンブ科の褐藻。古くから食用とし、養殖もされる。」の意味を有し、「ラーメン」の文字は、「中国風の麺。中華そば。」の意味を有する(いずれも「大辞泉第2版」小学館)ため、構成文字全体としては「わかめ入りのラーメン」程度の意味合いを容易に認識させるといえる。
しかしながら、本願商標のような構成態様、つまり、右上がりの文字を囲う横長四角形の内部を、各構成文字が収まるように4つに枠で区切ることや、それら枠内を異なる色で彩色することは、単に文字を強調するための装飾とは異なる印象を与えるものである。
また、当審において職権をもって調査するも、上記のような図形的な特徴が、商品に表示する文字の装飾として、本願の指定商品を取り扱う業界において、取引上普通に採択されていることを示す事実を発見できなかった。
以上のとおり、本願商標は、その構成全体をもって、自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものといえるから、これをその指定商品について使用しても、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標とはいえないものである。
コメント
本願商標は、その構成中「わかめ」「ラーメン」の文字が「わかめ入りのラーメン」の意味を容易に認識させると判断されておりますが、特徴的に図案化されているため、構成全体として識別力を有すると判断されております。識別力を有すると判断される図案化の程度に関して参考になる審決例です。
不服2017-9599(図形/図案化された商標の識別力)
審決分類
商標法第3条第1項第6号(その他識別力のないもの)
商標及び指定商品・役務
本願商標:
指定役務:第40類「書籍やその他の書類のデジタルオンデマンド印刷,その他の印刷,写真のプリント,写真の引き伸ばし,写真用フィルムの現像,写真の複製・修正・合成」
結論
原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。
本願商標が商標法第3条第1項第6号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。
審決等の要点
本願商標は、細い線で表した正方形内の上方寄りに黒塗りの長方形を配した構成からなる図形である。そして、当該図形について、職権をもって調査するも、かかる形状の図形が、本願指定役務の質や役務の提供の用に供する物の形状を具体的に表すものとして使用されているという状況は見いだせない。
また、当該図形は、正方形と黒塗りの長方形を、上記のとおり組み合わせた構成からなるところ、かかる態様は、極めて簡単で、かつ、ありふれたものともいうことはできない。
その他、本願商標が、その指定役務との関係において、自他役務の識別標識としての機能を果たし得ないとみるべき理由は見いだせない。
以上を総合的に判断すると、本願商標は、その指定役務との関係において、自他役務の識別機能を有さない商標とはいえないものであって、需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができない商標ということはできない。
コメント
単なる黒塗り四角形の図形であれば識別力を有しないものと思われますが、本願商標は正方形の四角枠内に黒塗り四角形の図形が配置された構成であるため、ありふれた態様とはいえず、識別力を有すると判断されたものと思われます。
本記事に関するお問い合わせはこちらから。
(文責・前田)