商標の審査・審判における判断の傾向は時代により変化しますので、その傾向を把握するためには審決や異議の決定を継続的にチェックする必要があります。商標審決アップデートでは、定期的に注目すべき商標審決をピックアップし、情報提供していきます。

今回は、称呼同一商標の類否判断において参考になる審決を取り上げております。

不服2020-4898(yuizen/称呼同一商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:

指定役務:第35類「商品の販売促進又は役務の提供促進のための企画及び実行の代理,インターネット上での広告用スペースの貸与,販売又は営業促進のための商品又はサービス交換用ポイントの管理及び清算,商品の販売に関する情報の提供,インターネットによる商品の売買契約の媒介及び取次,弁当の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」

引用商標1:

指定商品:第30類「穀物の加工品,調味料」

引用商標2:

指定役務:第35類「商品の売買契約の代理・媒介・仲介・取次ぎ・代行,商品の販売に関する情報の提供,商品の販売促進及び役務の提供促進に関する情報の提供」

結論

原査定を取り消す。 本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標と引用商標とは非類似の商標であるから、本願商標は商標法第4条第1項第11号に該当しない。したがって、本願商標が同号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。

審決等の要点

本願商標の欧文字部分と図形部分は、重なること無く間隔を空けて配置されており、視覚上、分離して把握されること、及び両者は観念的に密接な関連性を有しているとはいえないことから、これらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているものとはいえない。そうすると、本願商標では、図形部分と欧文字部分が、独立して自他役務の識別機能を果たし得るものといえる。よって、本願商標の構成中、欧文字部分を要部として抽出し、引用商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである。

欧文字部分は、「yuizen」の欧文字からなるところ、当該欧文字は、辞書類に載録された成語ではなく、本願商標の指定役務を取り扱う分野において、特定の意味合いを表す語として使用されている実情も見受けられない。そして、そのような欧文字からなる商標については、我が国において広く親しまれている英語風又はローマ字風の発音をもって称呼されるのが一般的である。そうすると、本願商標は、その要部の一である欧文字部分より、その構成文字に相応して、「ユイゼン」の称呼が生じ、特定の観念を生じないものである。

引用商標1は、上段の平仮名が下段の漢字の読みを表したものと理解できるから、引用商標1は、「ユイゼン」の称呼が生じる。そして、「唯然」の漢字及び「ゆいぜん」の平仮名は、特定の意味を有する成語を表してなるものとは直ちには理解できないが、その構成文字中の「唯」の漢字は、「<ただ>ひとり。それだけ。」の意味(新選漢和辞典第八版(平成23年1月31日、株式会社小学館発行))を有し、「然」の漢字は、「状態を表す語をつくる助字。」(広辞苑第七版(平成30年1月12日、株式会社岩波書店発行))の意味を有する、いずれも平易かつ親しまれた漢字であることから、引用商標1は、商標を構成する「唯」と「然」の漢字から、「それだけの状態」程の意味合いを想起し得るとみるのが相当である。

引用商標2は、下段の平仮名が上段の漢字の読みを表したものと理解できるから、引用商標2は、「ユイゼン」の称呼が生じる。そして、「結膳」の漢字及び「ゆいぜん」の平仮名は、特定の意味を有する成語を表してなるものとは直ちには理解できないが、その構成文字中の「結」の漢字は、平易かつ親しまれた漢字であって、この漢字を含み、かつ、引用商標2の称呼を構成する「ユイ」と読む語である「結い」が「結うこと。」を意味し、「結う」とは、「ばらばらになっているものをまとめて一つの形に組み立てる意。」(いずれも、広辞苑第七版(同上))を有する語である。また、その構成文字中の「膳」の漢字も、平易かつ親しまれた漢字であって、「よく料理された食物。」(前掲書)の意味を有するものである。そうすると、引用商標2は、商標を構成する「結」と「膳」の漢字から、「一つにした膳」程の意味合いを想起し得るとみるのが相当である。

本願商標の要部の一である欧文字部分と引用商標1とを対比すると、外観については、両者は、文字種、文字数、書体及び色を異にするとともに、一段書きか二段書きかでも異なるものであるから、判然と区別し得るものである。称呼については、両者は、「ユイゼン」の称呼を同一にするものである。観念については、本願商標の要部の一は、特定の観念を生じないものであるが、引用商標1は、「それだけの状態」程度の観念を生じるものであるから、観念において相紛れることはない。以上によれば、本願商標の要部の一と引用商標1とは、その称呼を同一にするとしても、外観が判然と区別し得るものであって、観念上も相紛れることはないから、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合的に勘案すれば、本願商標と引用商標1とは、相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。

本願商標の要部の一である欧文字部分と引用商標2とを対比すると、外観については、両者は、文字種、文字数、書体及び色を異にするとともに、一段書きか二段書きかでも異なるものであるから、判然と区別し得るものである。称呼については、両者は、「ユイゼン」の称呼を同一にするものである。観念については、本願商標の要部の一は、特定の観念を生じないものであるが、引用商標2は、「一つにした膳」程度の観念を生じるものであるから、観念上相紛れることはない。以上によれば、本願商標の要部の一と引用商標2とは、その称呼を同一にするとしても、外観が判然と区別し得るものであって、観念上も相紛れることはないから、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合的に勘案すれば、本願商標と引用商標2とは、相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。

コメント

漢字商標とその読みを表す欧文字等からなる商標の類否に関しては、商標審決アップデート特別編Vol.1で紹介したとおり、比較的非類似と判断される例が多いものの、類似の例もあり、判断が分かれております。本件では、引用商標からは観念が生じ、観念上相紛れることはなく、非類似と判断されております。本願商標には特徴的な図柄が含まれており、外観上の相違も判断に影響したものと思われます。

不服2020-713(ダイショー/称呼同一商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:

指定商品:第29類「食用油脂,食肉,卵,食用魚介類(生きているものを除く。),冷凍野菜,冷凍果実,肉製品,加工水産物」等
第30類
「家庭用食肉軟化剤,茶,菓子,パン,調味料,鍋物用のだしつゆ,鍋物用調味液,スープ状の鍋用のつゆ,香辛料,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,コーヒー豆,穀物の加工品,アーモンドペースト,ぎょうざ,サンドイッチ」等

引用商標1:

指定商品:第29類「食肉,食用魚介類(生きているものを除く。),肉製品,加工水産物(「かつお節・寒天・削り節・食用魚粉・とろろ昆布・干しのり・干しひじき・干しわかめ・焼きのり」を除く。)」等

引用商標2:

指定商品:第30類「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,みそ,ウースターソース,ケチャップソース,しょうゆ,食酢,酢の素,そばつゆ,ドレッシング,ホワイトソース,マヨネーズソース,焼肉のたれ」等

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

本願商標は、商標法第4条第1項第11号に該当し、登録することができない。

審決等の要点

本願商標は、その構成中、「ダイショー」の文字は、辞書等に掲載のないものであって、特定の意味合いを想起させることのない、一種の造語として理解されるものであるから、当該文字部分からは、「ダイショー」の称呼を生じ、特定の観念は生じないものである。一方、図形部分は、我が国において特定の事物を表したもの、又は意味合いを表すものとして認識され、親しまれているというべき事情は認められないことから、該図形部分からは、特定の称呼及び観念は生じないものである。

そして、本願商標は、その構成上、図形部分と文字部分とは、間隔をあけて表記されており、それぞれが視覚上分離して看取されるものであって、図形部分と文字部分とが、観念的に密接な関連性を有しているとは考え難いし、一連一体となった何らかしらの称呼が生じるともいえない。また、図形部分及び文字部分は、指定商品との関係で、当該商品の品質等を表すものともいえない上、このほかに各部分が単独では出所識別機能を有しないと認めるに足りる的確な証拠も見あたらない。これらの事情を総合すると、図形部分及び文字部分は、これを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認めることはできない。そうすると、本願商標は、その構成中の図形部分と文字部分とが、それぞれ独立して、取引者、需要者に対し商品の出所識別標識としての機能を果たし得るものといえるから、文字部分のみを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである。

したがって、本願商標は、その構成中、独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得る「ダイショー」の文字部分に相応して、「ダイショー」の称呼を生じ、特定の観念は生じないものである。

引用商標1及び引用商標2は、2文字目の「A」及び3文字目の「I」の上部を尖らせ、6文字目の「o」の文字には白色の斜め線を施した「DAIsyo」の文字を横書きしてからなるところ、当該文字は辞書等に掲載のないものであって、特定の意味合いを想起させることのない、一種の造語として理解されるものである。そして、特定の語義を有しない欧文字からなる商標については、我が国において広く親しまれているローマ字風又は英語風の発音をもって称呼されるのが一般的といえるから、引用商標は、その構成文字に相応して「ダイショー」の称呼を生じ、特定の観念は生じないものである。 本願商標の構成中の「ダイショー」の文字部分と引用商標とを比較すると、外観においては、構成文字の種類、数、書体及び色彩において異なるものである。次に、称呼においては、両者は共に「ダイショー」の称呼を生じるものであるから、称呼上、両者は同一である。そして、観念においては、両者は、特定の観念を生じないものであるから、観念上、比較することができないものである。

以上からすると、本願商標と引用商標とは、外観においては、両者は、文字の種類が片仮名と欧文字とで異なり色彩が相違するものであるが、称呼においては、本願商標と引用商標から生ずる「ダイショー」の称呼を共通にするものであり、また、観念においては、両者は、いずれも特定の観念を生じないから、比較することができないものである。そして、商標の使用においては、商標の構成文字を同一の称呼が生じる範囲内で片仮名及びローマ字を相互に変換して表記したり、デザイン化したりすることが一般的に行われている取引の実情があることに加え、特定の観念を有しない文字商標においては、観念において商標を記憶できず、称呼において記憶し、これを頼りに取引にあたることが少なくないというのが相当である。

以上によれば、本願商標と引用商標は、その外観、称呼及び観念によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合し、上記取引の実情を考慮すると、両者の外観が相違し、観念において比較できないとしても、これが、取引上必要な役割を果たす称呼についての共通性を凌駕するほどには顕著なものとは認められないものであるから、両者は商品の出所について誤認混同を生ずるおそれのある類似の商標と判断するのが相当である。

コメント

欧文字商標とその読みを表す片仮名商標の類否傾向に関しては、商標審決アップデート特別編Vol.1の類型1で紹介しましたが、紹介した事例の多くが類似と判断されるものでした。本件でも類似と判断されておりますので、欧文字商標とその読みを表す片仮名商標は、やはり類似と判断される傾向にあるといえます。

不服2019-11172(TONBO/称呼同一商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:

指定商品:第21類「家庭における廃棄物を収容するためのプラスチック製ごみ箱」

引用商標:

指定商品:第21類「掃除用スポンジ及び掃除用柄付きスポンジを除く、清掃用具及び洗濯用具」

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

本願商標は、引用商標と類似する商標であって、その指定商品に類似する商品について使用するものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。

審決等の要点

本願商標は、その構成文字に相応して「トンボ」の称呼を生じ、また、当該欧文字は「トンボ」又は「とんぼ」のローマ字表記といえるから、これからは、親しまれた語である「とんぼ(昆虫)」を想起するのが自然であり、「とんぼ(昆虫)」の観念を生じるものである。

引用商標は、「TOMBO」の欧文字をサンセリフの書体で横書きした文字(以下「引用文字部分」という。)を左側に配置し、右側に、尖った部分を下にした直角三角形を二つつなげてなる図形(以下「引用図形部分」という。)を配置してなる、文字と図形との結合商標である。まず、引用商標の外観についてみるに、引用文字部分及び引用図形部分は、いずれも重なることなく配置されており、当該文字と図形とが視覚的に分離して看取され得るといえるものである。次に称呼についてみるに、引用図形部分は、特定の文字又は意味合いを表すものとして認識され、親しまれているというべき事情は認められないことから、これより称呼は生じず、引用文字部分は、構成文字に相応して「トンボ」の称呼を生じるものである。さらに、観念についてみるに、引用図形部分は、上記のとおり、特定の文字等を表すものと認識されないものであるから、引用図形部分からは特定の観念は生じないものである。他方、引用文字部分である、「TOMBO」の文字は、「トンボ」又は「とんぼ」をローマ字表記したものと理解できるから、「とんぼ(昆虫)」の観念を生じるものである。そして、その指定商品との関係において、引用図形部分と引用文字部分が結びついて特定の観念を生じるという事情は見いだせない。

そうすると、引用商標は、引用文字部分と引用図形部分とが、それぞれを分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているものということはできず、引用文字部分及び引用図形部分それぞれが独立して、自他商品の識別標識として機能し得るというのが相当である。そして、簡易迅速を尊ぶ取引の実際においては、引用商標に接する取引者、需要者は、その構成中、はっきりと明瞭に表され、称呼しやすい欧文字からなる「TOMBO」の文字部分に着目し、これを記憶にとどめて取引にあたる場合も少なくないというのが相当である。

以上からすると、引用文字部分が、取引者、需要者に対し、商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められるから、引用商標は、当該「TOMBO」の文字部分を要部として抽出し、この部分のみを他人の商標と比較して商標の類否を判断することが許されるものである。したがって、引用商標は、要部である「TOMBO」の文字部分から「トンボ」の称呼が生じ、「とんぼ(昆虫)」の観念が生じるものである。

本願商標と引用商標の要部との外観を比較すると、中間に位置する「N」と「M」の文字の差異を有するものの、それ以外の文字つづりの全てを共通にするものであって、異なる「N」と「M」についても、「ん」の文字を欧文字で表す際には「N」又は「M」と一般的に表記されることに鑑みれば、該差異が、取引者、需要者に対し、出所識別標識としての外観上の顕著な差異として強い印象を与えるとまではいえない。なお、本願商標構成中の「B」の文字の態様についても、様々なレタリング手法が広く用いられている状況にあっては、決して特殊な書体とはいえないものであり、引用商標の要部との比較において、これをもって明らかに区別できるものということはできない。そして、本願商標と引用商標の要部とは、「トンボ」の称呼及び「とんぼ(昆虫)」の観念を共通にするものである。そうすると、本願商標と引用商標の要部は、「トンボ」の称呼及び「とんぼ(昆虫)」の観念を共通にし、外観における差異が称呼及び観念の同一性をしのぐほどの顕著な差異として強い印象を与えるとまではいえないものであるから、これらの外観、称呼、及び観念によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合勘案すれば、これらは相紛れるおそれがあるものといえる。

したがって、本願商標と引用商標とは、互いに相紛れるおそれのある類似する商標というのが相当である。

コメント

商標審決アップデート特別編Vol.1の類型2のとおり、綴りが全く異なる場合や、異なる観念が生じる場合には、綴りが異なる称呼同一商標は非類似と判断される傾向にありますが、本件のように僅かな相違の場合には類似と判断される傾向にあります。過去の事例でも、「AZALEA」と「AZAREA」は類似と判断されております。

なお、本件では、指定商品の類否についても争われましたが、本願商品と引用商品とは、前者が汚れたものを入れる、後者が汚れを落とすという違いはあるとしても、いずれも室内等をきれいに保つために使用する道具であり、両者は、清掃用の簡易な道具といえるものであるため、互いに類似する商品であると判断されました。

不服2020-1388(TOYO/称呼同一商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:

指定商品:第3類「口臭用消臭剤,せっけん類,歯磨き,化粧品,香料,薫料」

第30類「菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ,茶,コーヒー,ココア,調味料,穀物の加工品,ぎょうざ,しゅうまい,すし,たこ焼き,弁当,ラビオリ」

引用商標1:

指定商品:第5類「薬剤,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包帯液,胸当てパッド,歯科用材料」

引用商標2:

指定商品:第3類「せっけん類,歯磨き,化粧品,薫料,つけづめ,つけまつ毛」等

引用商標3:(標準文字)

指定商品:第30類「穀物の加工品,おむすび,べんとう」等

※引用商標4,5は省略。

結論

原査定を取り消す。 本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。

審決等の要点

本願商標の構成中、右側の下段の「TOYO」の欧文字は、辞書等に載録されていないものであり、一種の造語として認識されるものであるから、特定の観念は生じないものといえる。また、右側の上段部分は、「simple」、「natural」及び「clean」の語が、それぞれ、「単純なさま」「自然であること」及び「清潔なさま」の意味を有する親しまれた英単語である(大辞泉 株式会社小学館)ものの、これらを結合した「simple.natural.clean.」の語は、既成の語ではなく、特定の意味合いを想起させるものとして一般に知られているともいえないものであり、一種の造語として認識されるものであるから、特定の観念は生じないものといえる。

本願商標の構成中、右側の文字部分は、上段に赤茶色で「simple.natural.clean.」の欧文字を細字で小さく横書きにし、下段に、本願図形部分と同じ赤色で上段の文字に比して4倍以上の大きさで顕著に「TOYO」のデザイン化された欧文字を書してなるところ、各段の文字部分は、それらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められないものであって、同系色ではあるものの、色彩を異にすることに加え、顕著に表された「TOYO」の文字部分が、取引者、需要者に対し、相当程度強い印象を与えるものであり、独立して商品の出所識別標識として機能し得るものと認められるから、本願商標から「TOYO」の文字部分を要部として取り出し、これと引用商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも許されるというべきである。

以上よりすると、本願商標は、構成中の文字部分に照応して、「シンプルナチュラルクリーントーヨー」が生じるほか、その要部である「TOYO」の文字部分に相応して、「トヨ」又は「トーヨー」の称呼が生じ、特定の観念は生じないものである。

引用商標1は、その構成中、下段の欧文字は、上段の漢字の読みを表したものと無理なく把握させるものであるから、その構成文字に相応して,「トーヨー」の称呼を生じるものである。引用商標1は、その構成中「東洋」の漢字が、「アジア諸国の総称」(大辞泉 株式会社小学館)の意を有するものとして広く一般に親しまれていることから、当該文字に相応して「トーヨー」の称呼及び「アジア諸国の総称」の観念を生じるものである。

引用商標2は、その構成中、「TOYO」の文字部分は、図形部分の内側に記載されているものの、引用商標2の中央下部の目立つ位置に、黒色の背景に白抜きの読み取りやすい書体で明瞭に記載されているから、外観上、図形部分と一見して明確に区別して認識できるものであり、「TOYO」の文字部分は、見る者に強い印象を与えるとともに、その注意を強く引くものであると認めるのが相当である。そうすると、引用商標2の図形部分と「TOYO」の文字部分とが、分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認めることはできないから、図形部分と文字部分は、それぞれが独立して出所識別機能を有する要部であるというべきである。以上によれば、引用商標2は、「TOYO」の文字部分に相応して、「トヨ」又は「トーヨー」の称呼が生じ、当該文字は、辞書等に載録されていないものであり、一種の造語として認識されるものであるから、特定の観念は生じないものである。

引用商標3は、「TOYO」の欧文字を標準文字で表してなるものである。引用商標3は、その文字に相応して、「トヨ」又は「トーヨー」の称呼が生じ、当該文字は、上記(1)イと同様に、辞書等に載録されていないものであり、一種の造語として認識されるものであるから、特定の観念は生じないものである。

本願商標と引用商標2、引用商標3との類否について検討すると、両者は、外観において、それぞれの構成態様において明らかに相違するものであるから、視覚的な印象が相違し、外観上、両者は相紛れるおそれのないものである。称呼においては、本願商標と引用商標2、引用商標3からは、ともに「トヨ」又は「トーヨー」の称呼を生じるものであるから、称呼上、両者はその称呼を共通にするものである。本願商標と引用商標2、引用商標3は、共に特定の観念を生じないものであるから、観念において比較することはできない。

以上よりすると、本願商標と引用商標2、引用商標3は、観念において比較することはできず、「トヨ」又は「トーヨー」の称呼において共通する場合があるとしても、外観においては明確に区別できるものであるから、これらの外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合的に考察すれば、両者は相紛れるおそれのない非類似の商標であるというのが相当である。

コメント

本件では、本願商標と引用商標がいずれも「TOYO」の文字を含んでおり、「トヨ」又は「トーヨー」の称呼を生じるとされたにも関わらず、非類似と判断されております。商標審決アップデート特別編Vol.1の類型5で紹介しました同じ文字を含む商標に関する過去の事例では、図案化され、外観上大きく異なる場合でも類似と判断される傾向にありました。本件では、文字数が少ないことや、「TOYO」という文字が漢字の「東洋」の欧文字表記であることから、社名や商標によく使用される文字であり、識別力が比較的弱いことが非類似の判断に影響したものと思われます。

不服2019-15556(LA PAN/称呼同一商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:

指定商品:第35類「菓子及びパンの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」

引用商標:

指定商品:第30類「菓子及びパン」

結論

原査定を取り消す。 本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものではないから、これを理由として本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。

審決等の要点

本願商標の構成においては、下段部分が構成の大部分を占めるように顕著に表されているから、当該下段部分が印象的で記憶に残りやすく、需要者に対し役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものといえる。そうすると、本願商標の構成中、当該下段部分のみをもって取引に資されることも決して少なくないというのが相当であるから、本願商標と引用商標との類否判断の際には、当該下段部分を本願商標の要部として引用商標と比較することも許されるというべきである。したがって、本願商標は、全体の構成に相応した「グッドブレッドラパン」の称呼のほか、下段部分の構成文字に相応した「ラパン」の称呼が生じ、特定の観念を生じないものである。

引用商標は、「ラパン」の片仮名と「LAPIN」の欧文字を上下二段に横書きしてなるところ、「LAPIN」の文字は、フランス語で「うさぎ」を意味する語であるから(三省堂「クラウン仏和辞典」第7版)、「LAPIN」の文字及びその読みを表した「ラパン」の文字に相応して、「ラパン」の称呼が生じ、「うさぎ」の観念が生じるものである。

本願商標と引用商標は、その全体の比較においては、構成態様が明らかに異なるものである。また、本願商標の要部である下段部分と引用商標を比較しても、当該下段部分は、「LA」と「PAN」の間に、点に2本の線を付した図形を配し、該欧文字の下には「ラ・パン」の片仮名の左右に二重の波線を付してなる点において相違することに加え、欧文字部分の4文字目において「A」と「I」の違いという顕著な差異があることから、両者は外観上、判然と区別し得るものである。次に、称呼においては、本願商標と引用商標は、ともに「ラパン」の称呼を生ずるものである。そして、観念においては、本願商標からは特定の観念が生じず、引用商標からは「うさぎ」の観念が生じるものであるから、観念上、紛れるおそれがないものである。

以上を総合的に勘案すると、本願商標と引用商標は、称呼を共通にするとしても、観念において紛れるおそれがなく、外観において顕著に相違するものであるから、商品及び役務の出所について誤認混同を生じるおそれのない、互いに非類似の商標というのが相当である。

コメント

本件は、商標審決アップデート特別編Vol.1の類型2に該当する綴りが異なる称呼同一商標の事例です。紹介した事例の多くが非類似と判断されており、本件も同様に非類似の判断となっております。本件では、引用商標の構成中「LAPIN」がフランス語で「うさぎ」を意味し、そのような観念が生じるため、本願商標とは観念において紛れるおそれがない点も非類似の理由として述べられております。

不服2019-650006(aos/称呼同一商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:

指定商品: 第9類「Software for automation of operation of a storage infrastructure; software for visibility into the operation of a storage infrastructure」等
第42類
「Providing on-line non-downloadable software for automation of operation of a compute infrastructure; providing on-line non-downloadable software for automation of operation of a networking infrastructure; providing on-line non-downloadable software for automation of operation of a storage infrastructure」等

引用商標1:(標準文字)

指定役務:第42類「コンピュータデータの回復,コンピュータプログラムのインストール,コンピュータプログラムの複製,データ又は文書の物理媒体から電子媒体への変換,コンピュータプログラムの変換及びコンピュータデータの変換」

引用商標2:(標準文字)

指定商品:第9類「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具,電線及びケーブル,家庭用テレビゲーム機用プログラム,携帯用液晶画面ゲーム機用のプログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM」

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

本願商標は、引用商標と類似する商標であり、かつ、本願の指定商品及び指定役務と引用商標の指定商品及び指定役務が同一又は類似の商品及び役務であるから、商標法第4条第1項第11号に該当し、登録することができない。

審決等の要点

本願商標の構成中、「aos」の欧文字は、辞書類に載録された既成語とは認められないものであるから、特定の語義を有しない一種の造語として理解され、欧文字3文字を羅列してなる造語の場合は、通常は、一文字一文字を区切って発音されるというべきであるから、「aos」の欧文字は、「エーオーエス」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。本願商標の構成中、「aos」の欧文字は、2本の縦線とともに、黒色長方形に比して顕著に目立つ色彩で表記されており、かつ、2本の縦線に比して太い線で、大きく表記されていることから、本願商標の構成中、「aos」の欧文字が、視覚上、最も強く看者の注意を引くものである。本願商標の構成中、黒色長方形及び細い線で描かれた緑色の2本の縦線は、いずれも文字を囲む枠や区切り線を表すものであり、「aos」の欧文字を強調する装飾的な図形や線として理解されるものであるから、出所識別標識としての特定の称呼及び観念が生じるものとはいえない。

そうすると、本願商標の構成中、「aos」の欧文字は、取引者、需要者において強く支配的な印象を与えるものとみるのが相当であって、かつ、黒色長方形及び2本の緑色の縦線からは、出所識別標識としての称呼及び観念が生じるものとはいえないのであるから、本願商標に接する取引者、需要者は、その構成中、「aos」の文字部分を記憶にとどめ、取引にあたる場合も決して少なくないというのが相当である。してみれば、本願商標から「aos」の文字部分を要部として抽出し、当該文字部分のみを引用商標と比較して商標そのものの類否を判断することも許されるというべきである(以下「aos」の文字部分を「要部」という場合がある。)。したがって、本願商標は、その要部たり得る「aos」の文字部分に相応して「エーオーエス」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。

引用商標1及び引用商標2は、いずれも「AOS」の欧文字を標準文字で表してなるところ、当該「AOS」の欧文字は、辞書類に載録された既成語とは認められないものであるから、特定の語義を有しない一種の造語として理解され、欧文字を羅列してなる造語の場合は、通常は、一文字一文字を区切って発音されるというべきであるから、「AOS」の欧文字は、「エーオーエス」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。したがって、引用商標1及び引用商標2は、いずれも「エーオーエス」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。

本願商標の要部と引用商標の類否について検討するに、外観においては、本願商標の要部と引用商標とは、書体や色彩が相違し、文字の字形は大文字と小文字の差異を有するとしても、「a(A)o(O)s(S)」の文字つづりが同一であるから、両者は、外観上、相紛らわしいものである。次に、称呼においては、本願商標の要部と引用商標とは、ともに「エーオーエス」の称呼を生じるから、称呼上、同一である。さらに、観念においては、本願商標の要部と引用商標とは、いずれも特定の観念を生じないから、比較することができない。

以上によれば、本願商標と引用商標とは、その要部において、観念については、比較できないとしても、両者の外観において相紛らわしく、かつ、称呼を共通にするものであるから、その外観及び称呼によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合すれば、両商標は、商品及び役務の出所について誤認混同を生じさせるおそれのある類似の商標と判断するのが相当である。

コメント

本件は、外観が異なる同じ文字を含む商標の類否に関するものであり、商標審決アップデート特別編Vol.1の類型5に該当します。過去の審決例と同様に、本件でも類似と判断されております。なお、審決では、本願商標と引用商標とは、書体や色彩が相違し、文字の字形は大文字と小文字の差異を有するとしても、「a(A)o(O)s(S)」の文字つづりが同一であるから、外観上、相紛らわしいものであると述べられております。

不服2020-5264(D’COORD/称呼同一商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:

指定商品:第28類「人形」

引用商標:

指定商品:第9類「家庭用テレビゲーム機用プログラム,携帯用液晶画面ゲーム機用のプログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM」等
第42類「コンピュータハードウェアの設計及び開発,機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計」等

結論

原査定を取り消す。 本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、取消しを免れない。

審決等の要点

本願商標は、「D’COORD」の欧文字及び「ディーコード」の片仮名を上下二段に横書きした構成からなるところ、下段の片仮名は上段の欧文字の読みを表したものと認められるものであって、構成各文字は、同書、同大で外観上まとまりよく一体的に表されており、また、本願商標全体から生じる「ディーコード」の称呼も、格別冗長というべきものでなく、無理なく一連に称呼し得るものである。そして、その構成中の「COORD」の文字は、「座標」を意味する英語である「coordinate」の略称であるものの(「英辞郎on the WEB」株式会社アルク)、我が国において一般に馴染みのある語とはいえないことから、この文字に接する取引者、需要者が、直ちに特定の意味合いを理解するとはいい難い。そうすると、当該語頭に、アルファベットの1文字(D)とアポストロフィー(’)を連結させてなる「D’COORD」の文字は、全体としても辞書等に掲載のない語であるから、特定の観念を認識させない一種の造語といえるものであって、本願商標からは、特定の観念は生じないものである。

引用商標は、「Dコード」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字に相応して「ディーコード」の称呼を生じ、また、その構成中の「コード」の文字は、「弦楽器の弦」、「規定」、「太ひも」等(「広辞苑第七版」岩波書店)を理解させる親しまれた語であるものの、当該語頭に、アルファベットの1文字(D)を連結させてなる「Dコード」文字は、既成の語として辞書等に載録されておらず、一般に親しまれた語でもないから、引用商標からは、特定の観念は生じないものである。

本願商標と引用商標との外観を比較すると、本願商標の「D’COORD」の文字と、引用商標の「Dコード」の文字とは、語頭の「D」の文字を共通とするものの、全体の文字数が、7文字と4文字とで異なり、2文字目において、アポストロフィー(’)の有無、2文字以降が欧文字か片仮名の差異を有することから、これらの差異はさほど多くない文字数においては、別異の語であるとの印象を強く与えるものであって、外観上、明らかに区別できるものである。次に、称呼については、本願商標と引用商標とは、共に「ディーコード」の称呼を生じるものであるから、両商標は、称呼を共通にするものである。そして、観念においては、本願商標と引用商標とは、いずれも特定の観念を生じないものであるから、両商標は、観念において比較できないものである。

そうすると、本願商標と引用商標とは、観念において比較することができないものであって、称呼を共通にするとしても、外観においては、両商標の構成文字や文字種、アポストロフィー(’)の有無といった差異を有するものであって、その印象が著しく相違し、判然と区別し得るものであるから、その称呼の共通性が外観における差異を凌駕するとはいい難く、これらの外観、称呼、観念等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、これらは相紛れるおそれのない非類似の商標であるというのが相当である。

コメント

本件では、本願商標と引用商標からは、同一の称呼を生じるものの、文字数が大きく異なり、また、文字種やアポストロフィー(’)の有無といった差異を有しているため、外観上判然と区別し得ることを理由として、非類似と判断されております。

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(文責・前田)