商標の審査・審判における判断の傾向は時代により変化しますので、その傾向を把握するためには審決や異議の決定を継続的にチェックする必要があります。商標審決アップデートでは、定期的に注目すべき商標審決をピックアップし、情報提供していきます。

今回は、結合商標の類否と商品の類否に関する審決を中心に取り上げております。

不服2019-2751(HR-BusinessCloud/結合商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標: HR-BusinessCloud(標準文字)
指定役務:第42類「機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらの機械等により構成される設備の設計,デザインの考案(広告に関するものを除く。),電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,コンピュータソフトウェアの設計・作成・保守に関する助言,電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,電子計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供,オンラインによるアプリケーションソフトウェアの提供(SaaS),機械器具に関する試験又は研究」等

引用商標:
指定役務:第42類「電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,電子計算機の貸与,機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこれらにより構成される設備の設計,電子計算機を用いて行う情報処理,電子計算機システムに関するコンサルティング,電子計算機端末による通信を用いて行う電子計算機システムの設計,電子計算機の設計に関する情報の提供,電子計算機の設計に関する調査・分析又はコンサルティング」等

結論

原査定を取り消す。 本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、取消しを免れない。

審決等の要点

本願商標は、「HR-BusinessCloud」の欧文字からなるところ、当該文字は、「HR」及び「BusinessCloud」の欧文字を「-」(ハイフン)を介して、同じ書体でまとまりよく一体的に表されており、その構成文字全体から生じる「エッチアールビジネスクラウド」の称呼も、やや冗長であるとしても無理なく一連に称呼できるもである。

そして、本願商標の構成中「HR」の欧文字は、「人間関係」などの意味を有する英語である「human relations」を意味する語として辞書に掲載されており(「デジタル大辞泉」小学館、「大辞林第3版」三省堂)、「BusinessCloud」の欧文字は、原審説示のように「ビジネス用のクラウドサービス」程の意味合いを想起させる場合があるとしても、本願商標は、その構成文字全体として、辞書等に載録がなく、特定の意味合いを有する語として知られているとも認められないものである。

また、その構成中の「HR」の欧文字は、職権をもって調査するも、本願の指定役務の分野において、役務の種別、等級等を表した記号又は符号として、一般的に使用されている事実も発見できなかった。

そうすると、本願商標は、その構成中「BusinessCloud」の欧文字部分のみが取引者、需要者に対し、役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるとはいえないものであり、構成全体をもって不可分一体の造語を表したものとして取引者、需要者に認識されるというのが相当であるから、その構成文字に相応して「エッチアールビジネスクラウド」の称呼のみを生じ、特定の観念を生じないものである。

したがって、本願商標から「BusinessCloud」の欧文字部分を抽出し、これより生じる称呼及び観念をもって、本願商標と引用商標とが類似するものとして、本願商標を商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、取消しを免れない。

コメント

本願商標は、その構成中「HR」の文字が欧文字二文字からなるものであるため、識別力を有さず、要部は「BusinessCloud」となるため、引用商標に類似すると判断され、拒絶査定に至ったものと思われます。以下の審決例のとおり、欧文字一文字又は二文字が他の文字の前に配置され、ハイフンを介して他の文字と結合してなる場合、非類似と判断される傾向にあります。一方、以下の不服2016-10218においては、欧文字一文字又は二文字が、他の文字の後ろに配置された結合商標の場合、類似と判断されております(¬≠は非類似を表し、≒は類似を表す記号)。

・不服2019-5529:ED-MAX ≠ マックス
・不服2019-6176;X-galaxy ≠ Galaxy
・不服2016-10218:SeaGull-LC ≒ SEAGULL

不服2018-9872(Switch on Sansei R&D/結合商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:
指定商品:第9類「電子応用機械器具(「ガイガー計数器・高周波ミシン・サイクロトロン・産業用X線機械器具・産業用ベータートロン・磁気探鉱機・磁気探知機・地震探鉱機械器具・水中聴音機械器具・超音波応用測深器・超音波応用探傷器・超音波応用探知機・電子応用扉自動開閉装置・電子顕微鏡」を除く。),電子管,半導体素子,電子回路(「電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路」を除く。),電子計算機用プログラム」

引用商標:
指定役務:第35類「電気機械器具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」等

結論

原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。

審決等の要点

(1)本願商標について
本願文字部分は、「switch on」、「Sansei」及び「R&D」の文字部分より構成されているところ、「Sansei」の文字が他の文字に比べて極めて大きく、かつ、デザイン化して書されていることに比べ、「switch on」及び「R&D」の文字部分は、小さく書されていること、また、「switch on」の文字部分と「R&D」の文字部分とは離れて配されていることから、これら3つの文字部分は、それぞれ、視覚上、分離して看取し得るものである。

本願文字部分中「switch on」の文字部分は、「スイッチを入れる」(「ベーシックジーニアス英和辞典」株式会社大修館書店)を意味する熟語として一般に親しまれていることから、その構成文字に相応して「スイッチオン」の称呼及び「スイッチを入れる」の観念を生じるものである。本願文字部分中「Sansei」の文字部分は、その構成文字に相応して、「サンセイ」の称呼を生じ、また、当該文字は一般の辞書等に掲載されている既成語ではなく、特定の観念は生じないものである。本願文字部分中「R&D」の文字部分は、その構成文字に相応して「アールアンドディ」の称呼を生じ、「research and development 研究開発」の意味を有する語(「ジーニアス英和辞典 第5版」株式会社大修館書店)として一般に親しまれている。そして、本願指定商品は、「電子応用機械器具、電子管、半導体素子、電子回路」等であって、企業等において研究開発が行われている商品といえるから、本願文字部分中「R&D」の文字部分からは、出所識別標識としての称呼及び観念は生じないものといえる。

以上よりすると、本願商標は、その構成中、本願図形部分及び本願文字部分が、視覚上、図形部分と文字部分とに分離して看取し得るものであり、また、本願文字部分中「switch on」、「Sansei」及び「R&D」の文字部分について、それぞれ、視覚上、分離して看取し得るものであること、本願図形部分並びに「switch on」、「Sansei」及び「R&D」の文字部分が、それぞれ観念的に密接な関連性を有しているとはいえず、一連一体の称呼が生じるともいえないことからすると、それぞれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認めることはできない。そして、本願文字部分中「R&D」の文字部分は、出所識別標識としての称呼、観念は生じないものといえる。そうすると、本願商標は、その構成中の本願図形部分、並びに、本願文字部分中「switch on」及び「Sansei」の文字部分が、それぞれ要部として自他商品識別標識としての機能を果たし得るものというのが相当である。したがって、本願商標は、その要部の一である「switch on」の文字部分のみを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することが許されるものであり、本願商標は、「switch on」の文字部分に相応して、「スイッチオン」の称呼及び「スイッチを入れる」の観念を生じるというのが相当である。

(2)引用商標について
引用商標は、赤色で塗りつぶされた横長長方形内に白抜きで、「Switch!」の文字及び記号と、その右側にデザイン化された「on」の文字を太字で大きく表してなるところ、「switch on」の文字は、「スイッチを入れる」を意味する親しまれた熟語であることから、「Switch」の文字に記号「!」が付されているとしても、全体として1つの観念を容易に想起するため、その構成文字全体から、「スイッチオン」の称呼及び「スイッチを入れる」の観念を生じるとみるのが自然である。

(3)本願商標と引用商標との類否について
本願商標の要部の一である「switch on」の文字部分と引用商標とを比較すると、外観においては、3つの細長い逆三角形図形の有無、赤い長方形及び「!」の記号等による差異があるものの、両者はつづり字を共通にするものであるから、外観上、近似した印象を与えるものである。そして、称呼及び観念においては、本願商標の要部と引用商標とは、「スイッチオン」の称呼及び「スイッチを入れる」の観念を共通にするものである。以上によれば、本願商標の要部の一である「switch on」の文字部分と引用商標とは外観上、近似するものであって、称呼及び観念を同一にするものであるから、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合すると、商標の出所について誤認混同を生ずるおそれのある類似の商標と判断するのが相当である。したがって、本願商標と引用商標とは、互いに類似する商標といえる。

以上によれば、本願商標は、引用商標と類似する商標であって、また、本願商標の指定商品と引用商標の指定役務も類似するものである。したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。

コメント

本願商標の構成中「Switch on」の文字部分は、「Saisei」の文字部分に比して小さく表示されて
おりますが、審決では、要部として自他商品識別標識としての機能を果たし得るものというのが相当であり、「switch on」の文字部分のみを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することが
許される、と判断されております。文字の大小に関わらず、異なる大きさ・態様で表示された文字部分は、それぞれ要部となり得ると判断された点が参考になる審決例です。

不服2019-5401(VIXUS ADVANCE/結合商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:
指定商品:第9類「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」

引用商標:アドバンス(標準文字)
指定商品:第9類「配電用又は制御用の機械器具,電池,電気磁気測定器,電線及びケーブル,加工ガラス(建築用のものを除く。),救命用具,携帯電話機,携帯電話機用ストラップ,その他の携帯電話機の部品及び附属品,その他の電気通信機械器具,電子計算機,電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路・磁気ディスク・光ディスク及びその他の記憶媒体,電子計算機用プログラム,その他の電子応用機械器具及びその部品,」等

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

本願商標と引用商標とは、互いに類似する商標であり、かつ、本願商標は、引用商標の指定商品と同一又は類似の商品について使用するものである商標法第4条第1項第11号に該当するから、登録することはできない。

審決等の要点

本願商標の構成中、左側の「VIXUS」の文字部分と右側の「ADVANCE」の文字部分とは、やや間隔を置いて左右に分けて表記されている上、「ADVANCE」の文字部分が、「VIXUS」の文字部分の約4倍の大きさにて顕著に表されていることを鑑みれば、両者は、外観上、明瞭に区別されるものである。そして、本願商標の構成中、「アドバンス」の文字部分は、「ADVANCE」の文字部分の読みを表したものと認められる。

本願商標の構成中「VIXUS」の文字部分は辞書類に載録された既成語とは認められないものであるから、特定の意味を有しない一種の造語として理解され、特定の観念を生じないものであることに対し、本願商標の構成中「ADVANCE」の文字部分は「前進すること」(株式会社三省堂 大辞林 第三版)の観念を生じるものであることから、両者は、観念の点においても特段の結びつきがあるものではなく、明瞭に区別して認識されるものといえる。

そうすると、本願商標は、その構成中の「VIXUS」の文字部分と「ADVANCE」の文字部分が、それを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとは認められないものであって、顕著に表された「ADVANCE」の文字部分が、取引者、需要者に対し、相当程度強い印象を与えるものであり、独立して商品の出所識別標識として機能し得るものと認められるから、本願商標から「ADVANCE」の文字部分を要部として取り出し、これと引用商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも許されるというべきである。

以上よりすると、本願商標は、その要部である「ADVANCE」の文字部分に相応して、「アドバンス」の称呼及び「前進すること」の観念を生じるものと認められる。

引用商標は、「アドバンス」の文字を標準文字で表してなるものであるから、当該文字に相応して「アドバンス」の称呼及び「前進すること」の観念を生じるものと認められる。

本願商標の要部である「ADVANCE」の文字部分と引用商標とを比較すると、両商標の外観は、いずれも普通に用いられる書体の範ちゅうからなるものであることに加え、欧文字の商標をその読みに対応した片仮名で代替的に表記することが、取引上、一般に行われていることであるから、取引者、需要者において、外観における両商標の相違は特段印象付けられるものではない。本願商標の要部と引用商標とは、「アドバンス」の称呼及び「前進すること」の観念を同一にするものである。

以上よりすると、本願商標の要部と引用商標とは、称呼及び観念を同一にするものであって、外観における差異も特段印象付けられるものではないから、これらを総合的に勘案すると、両商標は、互いに相紛れるおそれのある類似の商標というべきである。

コメント

本件は、不服2018-9872と同様に、大きさ・態様が異なる文字からなる結合商標に関するものです。請求人は、本願商標の構成中「ADVANCE」の文字部分が、「(技術などが)上級の,高等な」などを意味する平易な英語であり、指定商品との関係においては品質を示す言葉として捉えられる識別力が極めて弱い語である旨主張しましたが、本願の指定商品を取り扱う業界において、商品の具体的な品質等を表示するものとして一般に使用されている事実は発見できず、さらに、本願商標に接する取引者、需要者が、当該文字を商品の品質等を表示したものと認識するというべき事情も発見できないため、要部となり得ると判断されております。

無効2018-890082(天神いなり/結合商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本件商標:
指定商品:第30類「いなりずし,いなりずし弁当」

引用商標:天神(標準文字)
指定商品:第30類「香辛料,コーヒー豆,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ」

結論

登録第6053985号を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。

本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号に違反してされたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効にすべきである。

審決等の要点

本件商標は、「天神いなり」の文字を横書きしてなるところ、その構成中、「天神」の文字部分は、被請求人も回答書において認めているように「天の神。菅原道真の神号。天満宮。」等の意味を有していること、「いなり」の文字部分は、審尋(別掲)において通知したとおり、「稲荷鮨(いなりずし)の略」等の意味を有していること、「天神」及び「いなり」の各文字は、それぞれ親しまれた既成語であるものの、全体として何らかの意味を看取させないことからすれば、本件商標は、「天神」の語と「いなり」の語とを組み合わせた結合商標と容易に理解されるものである。そして、審尋(別掲)において通知したとおり、本件商標の構成中の「いなり」の文字は、「いなりずし」の略称を意味する語であって、本件商標の審決時はもとより現在においても継続して、「いなりずし」を表す文字として、広く一般に使用されている事実があることからすれば、「いなり」の文字部分は、本件指定商品「いなりずし,いなりずし弁当」との関係において、商品の普通名称、又は品質(内容)を表すものと理解されて、自他商品を識別する機能は極めて低いものといえる。他方、上記のような「天の神。菅原道真の神号。天満宮。」の意味を有する「天神」の文字部分は、本件指定商品との関係において、特段、商品の品質等を表示するものではなく、自他商品を識別する機能を十分に果たすものであるから、取引者、需要者に対し、商品の出所識別標識として、強く支配的な印象を与えるというべきである。そうすると、本件商標の「天神」の文字部分と「いなり」の文字部分とを、分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとは認められず、本件商標から「天神」の文字部分を要部として
抽出することが許されるというべきである。

したがって、本件商標は、その構成中の要部である「天神」の文字部分に相応して、「テンジン」の称呼及び「天の神。菅原道真の神号。天満宮。」等の観念を生じるものである。

引用商標は、「天神」の文字を標準文字で表してなるところ、引用商標からは、その構成文字に相応して、「テンジン」の称呼及び「天の神。菅原道真の神号。天満宮。」等の観念を生じるものである。

本件商標の要部である「天神」の文字部分と引用商標を比較すると、両者は、いずれも「天神」の文字を共通にし、「テンジン」の称呼及び「天の神。菅原道真の神号。天満宮。」の観念を共通にするものであるから、外観、称呼、観念のいずれの点においても、相紛らわしく、互いに類似する。

してみれば、本件商標の要部である「天神」の文字部分と引用商標とは、類似するものであるから、本件商標と引用商標とは、「いなり」の文字の有無といった外観の差異があるとしても、外観、称呼、観念によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して、全体的に考察すれば、両者は相紛れるおそれのある類似の商標と判断するのが相当である。

以上のとおり、本件商標と引用商標とは類似する商標であり、その指定商品も同一又は類似の商品であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。

コメント

本件は、以前商標審決アップデートVol.10で紹介した不服2017-13602と関連するものです。当該不服審判で両商標は非類似であると判断され、本件商標「天神いなり」は商標登録されましたが、本件無効審判では、「いなり」が「いなりずし」を表すものとして新聞記事等で使用されている事実が示され、本件商標の構成中「天神」が要部になると判断されたため、無効となっております。本件のように、審査・不服審判で非類似と判断されて登録になったとしても、異議申立てや無効審判請求における主張や提出された証拠によっては、登録取消し・無効となることがありますので、注意が必要です。

不服2019-2609(ザプレミアムチロリアン/結合商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:ザプレミアムチロリアン(標準文字)
指定商品:第30類「菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ」

引用商標:チロリアン
指定商品:第30類「菓子,パン」
※その他の引用商標は省略

結論

原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標と引用商標とが類似するものとして、本願商標を商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、取消しを免れない。

審決等の要点

本願商標は、「ザプレミアムチロリアン」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字は、同書、同大、等間隔に表されているものであり、外観上、全体がまとまりよく一体的に表されたものと看取、把握されるといえ、その構成全体から生じる「ザプレミアムチロリアン」の称呼も、無理なく一連に称呼し得るものである。

そして、本願商標の上記構成及び称呼からすれば、これに接する取引者、需要者は、本願商標の構成全体をもって、一体不可分のものとして認識し、把握するとみるのが相当である。

さらに、本願商標の構成中、「チロリアン」の文字部分のみが、取引者、需要者に対し、商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認めるに足りる事情は見いだせない。

そうすると、本願商標は、一体不可分のものであるといわなければならない。したがって、本願商標の構成中、「チロリアン」の文字部分を分離、抽出し、これを前提に、本願商標と引用商標とが類似するとして、本願商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、取消しを免れない。

コメント

「プレミアム」の文字は、「上等な、高級な」の意味を有し、商品の品質を誇称する語として一般に使用されており、自他商品識別力が弱い語であるため、原査定では「チロリアン」が要部になると判断されましたが、審決では構成全体をもって一体不可分のものとして認識されると判断されております。以下の審決例においても、「Premium」又は「premium」の文字を含む結合商標が一体不可分に認識されると判断されております(≠は非類似を表す記号)。

・不服2019-6447:PremiumPrestige ≠ PRESTIGE

・不服2015-6279:spring premium ≠

不服2018-15800(ほくしん株式会社/結合商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標::
指定役務:第36類「建物の管理,建物の貸与,建物の貸借の代理又は媒介,建物の売買,建物の売買の代理又は媒介,建物又は土地の情報の提供,土地の管理,土地の貸与,土地の貸借の代理又は媒介,土地の売買,土地の売買の代理又は媒介,不動産投資に関する助言,不動産投資の管理」等

引用商標:
指定役務:第36類「建物の管理,建物の貸借の代理又は媒介,建物の貸与,建物の売買,建物の売買の代理又は媒介,建物又は土地の鑑定評価,土地の管理,土地の貸借の代理又は媒介,土地の貸与,土地の売買,土地の売買の代理又は媒介,建物又は土地の情報の提供,骨董品の評価,美術品の評価,宝玉の評価,中古自動車の評価,企業の信用に関する調査,慈善のための募金,紙幣・硬貨計算機の貸与,現金支払機・現金自動預け払い機の貸与」等

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

本願商標は、商標法第4条第1項第11号に該当し、登録することができない。

審決等の要点

本願商標において、図形部分と文字部分とは、視覚的に分離して看取されるものであり、これらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとはいい難いものであるから、それぞれが独立して自他役務の識別機能を果たす要部となり得るものというべきである。そこで、本願商標の図形部分をみるに、当該図形部分は、我が国において特定の事物を表したもの又は意味合いを表すものとして認識され、親しまれているというべき事情は認められず、その構成中の「hokushin」の欧文字も特定の意味合いを有する語として知られているとも認められないものであり、また、円図形と構成中の「hokushin」の欧文字とを常に一体不可分のものと認識しなければいけないような事情も認められない。してみれば、本願商標の図形部分は、その構成中の「hokushin」の欧文字部分に着目して取引に資される場合もあるというのが相当であり、当該欧文字部分を要部として抽出し、引用商標との類否を判断することができるというべきである。そうすると、本願商標の図形部分は、「hokushin」の欧文字に相応して「ホクシン」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。

また、本願商標の文字部分をみるに、その構成中の「ほくしん」の文字は、特定の意味合いを有する語として知られているとは認められないものであり、「株式会社」の文字は、法人の種類を表す語であるから、「ほくしん」の文字が自他役務の識別標識としての機能を果たし得る要部として認識され、当該文字から生じる称呼及び観念をもって取引に資する場合も決して少なくないというべきである。

してみれば、本願商標の文字部分は、その構成中の「ほくしん」の文字が、取引者、需要者に対し強く支配的な印象を与えるものと認めるのが相当であるから、「ほくしん」の文字を要部として抽出し、引用商標との類否を判断することができるというべきである。そうすると、本願商標の文字部分からは、「ホクシンカブシキガイシャ」の称呼のほか、「ほくしん」の文字に相応して「ホクシン」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。

引用商標は、「北辰」の漢字と「HOKUSHIN」の欧文字からなるところ、「北辰」は、「北極星」の意味を有する語(「広辞苑第6版」株式会社岩波書店)であり、下段の欧文字は、上段の「北辰」の読みを欧文字で表したものと容易に認識されるものである。そうすると、引用商標は、それぞれの構成文字に相応して「ホクシン」の称呼を生じ、「北極星」の観念を生じるものである。

本願商標と引用商標の類否について検討すると、外観においては、両者は、全体の外観において差異を有するものであるが、本願商標の図形部分の要部である「hokushin」の欧文字と引用商標を比較すると、両者は、欧文字部分における大文字と小文字の差異や「北辰」の漢字の有無の相違があるとしても、その構成する欧文字のつづりが共通するものであり、両者の相違が、取引者、需要者に対し出所識別標識としての外観上の顕著な差異として強い印象を与えるとはいえないものである。また、本願商標の文字部分の要部である「ほくしん」の文字と引用商標を比較すると、両者は、平仮名と漢字及び欧文字の表記の相違があるとしても、商標の構成文字を同一の称呼の生じる範囲内で文字種を相互に変換して表記することが一般的に行われていることからすると、それぞれの文字を置き換えたものとして、取引者、需要者に認識されるものであるから、この文字種の相違が出所識別標識としての外観上の顕著な差異として強い印象を与えるとはいえないものである。次に、称呼においては、本願商標の要部と引用商標とは、「ホクシン」の称呼を共通にするものである。そして、観念においては、本願商標の要部からは特定の観念を生じないのに対し、引用商標は、「北極星」の観念を生じるものであるから、両者は、観念上相紛れるおそれはないものである。

そうすると、本願商標と引用商標とは、観念において相紛れるおそれがなく、全体の外観において相違するものの、本願商標の要部である「hokushin」及び「ほくしん」の文字と引用商標とは、「ホクシン」の称呼を共通にし、その外観において、称呼を共通することによる称呼上の類似性を凌駕するほどの顕著な差異があるとはいえないものであるから、両者の外観、観念、称呼によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、本願商標と引用商標とは互いに相紛れるおそれのある類似の商標と判断するのが相当である。

コメント

審決において、「株式会社」の文字は、法人の種類を表す語であるから、「ほくしん」の文字が自他役務の識別標識としての機能を果たし得る要部として認識され、当該文字から生じる称呼及び観念をもって取引に資する場合も決して少なくない、と述べられております。なお、以前紹介しました不服2018-8300でも、出願商標「SHISEI CORPORATION」における「CORPORATION」の文字が「法人、株式会社」等の会社の種類を表す語であるため、「SHINSEI」の文字からなる登録商標に類似すると判断されております。

不服2019-5312(あんしん封筒/結合商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標及び指定商品・役務

本願商標:あんしん封筒(標準文字)
指定役務:第16類「封筒,プラスチック封筒,プラスチック製緩衝材入り封筒,商品の包装用のプラスチック製又は紙製の袋(封筒・小袋)」

引用商標:あんしんノート(標準文字)
指定役務:第16類「ノートブック」等

結論

原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。

本願商標と引用商標とが類似するものとして、本願商標を商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、妥当ではなく、取消しを免れない。

審決等の要点

本願商標は「あんしん封筒」の文字を標準文字で表してなるところ、構成各文字は、同書、同大で外観上まとまりよく一体的に表されており、また、その構成中の「あんしん」の文字が「心配・不安がなくて、心が安らぐこと」等の意味を有するものと容易に理解させる平易な語であるから(「広辞苑第六版」参照)、これに「封筒」の文字を結合させた本願商標からは、その構成全体として、「(使用するとき)心配のいらない封筒」程度の意味合いを暗示させるものである。

そして、本願商標は、いずれかの部分が取引者、需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認めるに足りる事情は見いだせないものである。

以上からすれば、本願商標は、これを構成する「封筒」の文字が本願の指定商品に通ずるものであるとしても、その構成全体をもって一体不可分のものと認識し把握されるとみるのが相当であって、これに接する取引者、需要者が、その構成中「あんしん」の文字部分のみを捉えて取引に当たるとはいい難いものである。

したがって、本願商標の構成中「あんしん」の文字部分を分離、抽出し、その上で、本願商標と引用商標とが類似するものとして、本願商標を商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、妥当ではなく、取消しを免れない。

コメント

商品の普通名称を含む結合商標に関しては、以前商標審決アップデートで紹介した以下の審決例では類似の判断となっております(≒は類似を表す記号)。

・不服2017-14055:口福餃子 ≒ 口福
・不服2017-15414:恵比寿刃 ≒
・不服2018-580:

本件では、その構成中の「あんしん」の文字が「心配・不安がなくて、心が安らぐこと」等の意味を有するものと容易に理解させる平易な語であり、構成全体として「(使用するとき)心配のいらない封筒」の意味を暗示させることが、類否判断に影響を与え、非類似と判断されたものと思われます。

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(文責・前田)