さいたま地方裁判所第4部(谷口豊裁判長)は、令和2年2月5日、適格消費者団体である原告の訴えの一部を認容し、ポータルサイト「モバゲー」のサービス利用規約の条項が消費者契約法所定の事由に該当するとの判断のもと、被告による契約の申込み・承諾の意思表示を差止める判決を言渡しました。

ポイント

骨子

  • 事業者は、消費者契約の条項を定めるに当たっては、当該条項につき、解釈を尽くしてもなお複数の解釈の可能性が残ることがないように努めなければならないというべきである。
  • 差止請求の対象とされた条項の文言から読み取ることができる意味内容が、著しく明確性を欠き、契約の履行などの場面においては複数の解釈の可能性が認められる場合において、事業者が当該条項につき自己に有利な解釈に依拠して運用していることがうかがわれるなど、当該条項が免責条項などの不当条項として機能することになると認められるときは、消費者契約法12条3項の適用上、当該条項は不当条項に該当すると解することが相当である。
  • その文言から読み取ることができる意味内容が、著しく明確性を欠き、契約の履行などの場面においては複数の解釈の可能性が認められるところ、被告は、当該条項につき自己に有利な解釈に依拠して運用していることがうかがわれ、それにより、消費者契約法12条3項が、免責条項として機能することになると認められる。
  • 消費者契約法12条3項の適用上、本件規約7条3項は、「事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除」する条項に当たり、また、「消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除」する条項に当たるから、同法8条1項1号及び3号の各前段に該当するというべきである。

判決概要

裁判所 さいたま地方裁判所第4民事部
判決言渡日 令和2年2月5日
事件番号 平成30年(ワ)第1642号 免責条項等使用差止請求事件
裁判官 裁判長裁判官 谷 口   豊
裁判官    志 村 由 貴
裁判官    坂 口 奨 太

解説

消費者契約

消費者契約法において、「消費者契約」とは、消費者(個人。但し、事業として又は事業のために契約の当事者となる場合を除く)と事業者(法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる個人)との間で締結される契約をいいます(消費者契約法2条1項、2項、3項)。

適格消費者団体

不特定かつ多数の消費者の利益のために消費者契約法上の差止請求権を行使するのに必要な適格性を有する法人であるとして、内閣総理大臣の認定を受けた消費者団体を「適格消費者団体」といいます(消費者契約法2条4項)。

適格消費者団体は、以下の通り、事業者等が消費者契約を締結するに際して、不特定かつ多数の消費者との間で消費者契約法8条乃至10条に規定する契約条項を含む契約の申込み又はその承諾の意思表示を現に行い又は行うおそれがあるときは、当該事業者等に対し、当該行為の停止若しくは予防等必要な措置をとることを請求することができます(同法12条3項)。

消費者契約法第12条(差止請求権) *抜粋
3 適格消費者団体は、事業者又はその代理人が、消費者契約を締結するに際し、不特定かつ多数の消費者との間で第八条から第十条までに規定する消費者契約の条項(第八条第一項第五号に掲げる消費者契約の条項にあっては、同条第二項各号に掲げる場合に該当するものを除く。次項において同じ。)を含む消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を現に行い又は行うおそれがあるときは、その事業者又はその代理人に対し、当該行為の停止若しくは予防又は当該行為に供した物の廃棄若しくは除去その他の当該行為の停止若しくは予防に必要な措置をとることを請求することができる。ただし、民法及び商法以外の他の法律の規定によれば当該消費者契約の条項が無効とされないときは、この限りでない。

本件は、適格消費者団体である原告が、被告運営のポータルサイトのサービス利用規約の条項が消費者契約法所定の事由に該当するとして、契約の申込み・承諾の意思表示の差止めを求めた事案です。

事業者の努力

消費者契約においては、事業者は、以下の通り、消費者契約の条項を定めるに当たって、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が、その解釈について疑義が生じない明確なもので、かつ、消費者にとって平易なものになるよう配慮する努力しなければならないものとされています(消費者契約法3条1項1号)。

消費者契約法第3条(事業者及び消費者の努力) *抜粋
1 事業者は、次に掲げる措置を講ずるよう努めなければならない。
一 消費者契約の条項を定めるに当たっては、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が、その解釈について疑義が生じない明確なもので、かつ、消費者にとって平易なものになるよう配慮すること。
二 消費者契約の締結について勧誘をするに際しては、消費者の理解を深めるために、物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものの性質に応じ、個々の消費者の知識及び経験を考慮した上で、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供すること。

本件では、被告運営のポータルサイトのサービス利用規約の内容の明確性が争点となりました。

事業者の損害賠償責任を免除する条項等の無効

消費者契約においては、以下の通り、事業者が民法、商法等の任意規定に基づいて負担する損害賠償責任の全部又は一部を免除する条項は無効とされます(消費者契約法8条1項)。

消費者契約法条第8条(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効) *抜粋
1 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
二 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項
三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
四 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項
五 消費者契約が有償契約である場合において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵かしがあるとき(当該消費者契約が請負契約である場合には、当該消費者契約の仕事の目的物に瑕疵があるとき。次項において同じ。)に、当該瑕疵により消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項

なお、消費者の損害賠償請求権を制限する消費者契約の条項については、消費者契約法10条により無効となる場合があります。

第1号 事業者の債務不履行による損害賠償責任の全部免除条項の無効

消費者契約法8条1項1号は、事業者の債務不履行による損害賠償責任の「全部を免除する」条項を対象とするものであり、損害賠償責任を一定の限度に制限し、一部のみの責任を負う旨を定める条項は本号には該当しません。また、立証責任を消費者に転換する条項も本号には該当しません。

本号により事業者の債務不履行による損害賠償責任の全部を免除する条項が無効となった場合、債務不履行による損害賠償責任については何ら特約が存しなかったこととなり、事業者は民法等の原則通りに損害賠償責任を負うこととなります。

他方、民法等の原則に照らしても、事業者が損害賠償責任を負わないようなケースにおいてまで、事業者の損害賠償責任が生じることはありません。
例えば、事業者の債務の範囲が技術的に履行可能な範囲に限定される趣旨が契
約の解釈において疑義が生じないように文言上明らかであれば、事業者は技術的に履行不可能な行為を為す義務までは負わないこととなります(消費者庁逐条解説)。

第3号 事業者の不法行為による損害賠償責任の全部免除条項の無効

消費者契約法8条1項3号における事業者の不法行為による損害賠償責任には、事業者自身の故意過失による損害賠償責任(民法709条)のほか、使用者責任(同715条)、土地工作物責任(同717条)、動物占有者責任(同718条)や製造物責任(製造物責任法3条)等が含まれます。

本号は事業者の不法行為による損害賠償責任の「全部を免除する」条項を対象とするものであり、損害賠償責任を一定の限度に制限し、一部のみの責任を負う旨を定める条項は本号には該当しません。また、立証責任を消費者に転換する条項も本号には該当しません。

本号により事業者の不法行為による損害賠償責任の全部を免除する条項が無効となった場合、不法行為による損害賠償責任については何ら特約が存しなかったこととなり、事業者は民法等の原則通りに損害賠償責任を負うこととなります。

他方、民法等の原則に照らしても、事業者が損害賠償責任を負わないようなケースにおいてまで、事業者の損害賠償責任が生じることはありません。
例えば、民法709条責任においては、事業者に故意過失がなければ原則として損害賠償責任を負うものではありません。また、同715条責任においては、同条1項但書規定事由を立証できれば、損害賠償責任を免れることが可能となります(消費者庁逐条解説)。

事案の概要

本件は、消費者契約法所定の適格消費者団体である原告が、被告が不特定かつ多数の消費者との間でポータルサイト「モバゲー」に関するサービス提供契約を締結するに当たり、消費者契約法8条1項所定事由に該当する条項を含む契約の申込み又は承諾の意思表示を現に行い又は行うおそれがあると主張して、被告に対し、法12条3項に基づき、当該契約条項を含む契約の申込み又は承諾の意思表示の停止等を求めた事案です。

原告が法8条1項所定事由に該当すると主張した被告のサービス利用規約(会員規約)の内容(一部抜粋)は以下の通りです。

<モバゲー会員規約>
7条(モバゲー会員規約の違反等について)
1項 モバゲー会員が以下の各号に該当した場合、当社は、当社の定める期間、本サービスの利用を認めないこと、又は、モバゲー会員の会員資格を取り消すことができるものとします。ただし、この場合も当社が受領した料金を返還しません。
a 会員登録申込みの際の個人情報登録、及びモバゲー会員となった後の個人情報変更において、その内容に虚偽や不正があった場合、または重複した会員登録があった場合
b 本サービスを利用せずに1年以上が経過した場合
c 他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけたと当社が判断した場合
d 本規約及び個別規約に違反した場合
e その他、モバゲー会員として不適切であると当社が判断した場合
2項 当社が会員資格を取り消したモバゲー会員は再入会することはできません。
3項 当社の措置によりモバゲー会員に損害が生じても、当社は、一切損害を賠償しません。

12条(当社の責任)
4項 本規約において当社の責任について規定していない場合で、当社の責めに帰すべき事由によりモバゲー会員に損害が生じた場合、当社は、1万円を上限として賠償します。
5項 当社は、当社の故意または重大な過失によりモバゲー会員に損害を与えた場合には、その損害を賠償します。

本件では、被告のサービス利用規約7条3項及び同12条4項について、消費者契約法8条1項1号及び3号該当性が争点となりました。

判旨

不当条項該当性の判断基準

先ず、裁判所は、消費者契約法8条乃至10条所定の条項(以下「不当条項」といいます)該当性の判断基準として、以下の通り、規範を示しました。

法は、消費者と事業者とでは情報の質及び量並びに交渉力に格差が存することに照らし、法3条1項において、事業者に対し、消費者契約の条項を定めるに当たっては、消費者契約の内容が、その解釈について疑義が生じない明確なものであって、かつ、消費者にとって平易なものになるよう配慮することを求めていることに照らせば、事業者は、消費者契約の条項を定めるに当たっては、当該条項につき、解釈を尽くしてもなお複数の解釈の可能性が残ることがないように努めなければならないというべきである。

差止請求制度は、個別具体的な紛争の解決を目的とするものではなく、契約の履行などの場面における同種紛争の未然防止・拡大防止を目的として設けられたものであることをも勘案すると、差止請求の対象とされた条項の文言から読み取ることができる意味内容が、著しく明確性を欠き、契約の履行などの場面においては複数の解釈の可能性が認められる場合において、事業者が当該条項につき自己に有利な解釈に依拠して運用していることがうかがわれるなど、当該条項が免責条項などの不当条項として機能することになると認められるときは、法12条3項の適用上、当該条項は不当条項に該当すると解することが相当である。

被告サービス利用規約の検討

次いで、裁判所は、被告のサービス利用規約について、以下の通り、文言から読み取ることができる意味内容は、著しく明確性を欠き、契約の履行などの場面においては複数の解釈の可能性が認められると言わざるを得ないと認定しました。

本件規約7条1項c号は「他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけたと当社が判断した場合」、e号は「その他、モバゲー会員として不適切であると当社が判断した場合」について、被告が会員資格取消措置等をとることができる旨を規定している。

c号の「他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけた」という要件は、その文言自体が、客観的な意味内容を抽出し難いものであり、その該当性を肯定する根拠となり得る事情や、それに当たるとされる例が本件規約中に置かれていないことと相俟って、それに続く「と当社が判断した場合」という要件の「判断」の意味内容は、著しく明確性を欠くと言わざるを得ない。
すなわち、上記要件の文言からすると、被告は上記の「判断」を行うに当たって極めて広い裁量を有し、客観性を十分に伴う判断でなくても許されると解釈する余地があるのであって、上記の「判断」が「合理的な根拠に基づく合理的な判断」といった通常の裁量の範囲内で行われると一義的に解釈することは困難であると言わざるを得ない。

また、e号は、「その他、モバゲー会員として不適切であると当社が判断した場合」との要件であるが、同号の前に規定されているa、b及びd号はその内容が比較的明確であり、裁量判断を伴う条項ではないのに対し、e号については、「その他」との文言によりc号を含む各号と並列的な関係にある要件として規定されつつも、c号と同じ「判断した場合」との文言が用いられていることから、c号の解釈について認められる上記の不明確性を承継するものとなっている。

以上のとおり、上記各号の文言から読み取ることができる意味内容は、著しく明確性を欠き、契約の履行などの場面においては複数の解釈の可能性が認められると言わざるを得ない。

サービス利用規約7条3項の消費者契約法8条1項1号・3号該当性

そのうえで、裁判所は、以下の通り、被告のサービス利用規約7条3項について、消費者契約法8条1項1号及び3号所定事由に該当するものと判断しました。

本件規約7条3項は、「当社の措置によりモバゲー会員に損害が生じても、当社は、一切損害を賠償しません。」と規定している。

本件規約7条3項は、単に「当社の措置により」という文言を使用しており、それ以上の限定が付されていないことからすると、同条1項c号又はe号該当性につき、その「判断」が十分に客観性を伴っていないものでも許されるという上記の解釈を前提に、損害賠償責任の全部の免除を認めるものであると解釈する余地があるのであって、「合理的な根拠に基づく合理的な判断」を前提とするものと一義的に解釈することは困難である。
そうすると、本件規約7条3項は、同条1項c号又はe号との関係において、その文言から読み取ることができる意味内容が、著しく明確性を欠き、契約の履行などの場面においては複数の解釈の可能性が認められると言わざるを得ない。

以上で判示したところによれば、本件規約7条3項は、同上1項c号又はe号との関係において、その文言から読み取ることができる意味内容が、著しく明確性を欠き、契約の履行などの場面においては複数の解釈の可能性が認められるところ、被告は、当該条項につき自己に有利な解釈に依拠して運用していることがうかがわれ、それにより、同上3項が、免責条項として機能することになると認められる。

したがって、法12条3項の適用上、本件規約7条3項は、「事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除」する条項に当たり、また、「消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除」する条項に当たるから、法8条1項1号及び3号の各前段に該当するというべきである。

そして、以下の通り、被告について、不特定かつ多数の消費者との間でサービス利用規約7条3項を含む「消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を現に行い又は行うおそれ」(法12条3項)があると認定しました。

法12条3項の適用上、本件規約7条3項は、法8条1項1号及び3号の各前段に該当するところ、前記前提事実⑶及び弁論の全趣旨によれば、被告は、不特定かつ多数の消費者との間で本件規約7条3項を含む「消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を現に行い又は行うおそれ」(法12条3項)があると認められる。

サービス利用規約12条4項の消費者契約法8条1項1号・3号該当性

他方、被告のサービス利用規約12条4項については、以下の通り、消費者契約法8条1項1号及び3号所定事由に該当するものではないと判断しました。

本件規約12条4項は、被告の責めに帰すべき事由がある場合の債務不履行又は不法行為により消費者に生じた損害を、1万円を上限として賠償する旨を規定した条項であるところ、同項が「本規約において当社の責任について規定していない場合で」と明示しているからことからすれば、同項は、本件規約7条3項により免責がされる場合とは独立して、責任の全部の免除をすることができることを規定しているものではないことは明らかである。

そうすると、本件規約12条4項は、「事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し」又は「消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除」することを内容とする条項ではないから、法8条1項1号及び3項の各前段に該当しない。

判決の結論

以上のような認定を踏まえて、裁判所は、被告に対するサービス利用規約7条3項を含む消費者契約の申込み又は承諾の意思表示の差止め等を命じました。

コメント

適格消費者団体が著名なポータルサイトのサービス利用規約を含む契約差止めを求めた事案であり、消費者契約法8条1項1号及び3号の該当性が争点となりました。
適格消費者団体を当事者とする訴訟手続、消費者契約法8条1項1号及び3号該当性の判断基準、サービス利用規約の文言解釈など、実務上参考になるものとして紹介します。

本記事に関するお問い合わせはこちらから

(文責・平野)