商標の審査・審判における判断の傾向は時代により変化しますので、その傾向を把握するためには審決や異議の決定を継続的にチェックする必要があります。商標審決アップデートでは、定期的に注目すべき商標審決をピックアップし、情報提供していきます。 

今回は、「Theory」「Mac」「JEEP」「キューピー」等の周知著名な商標に関する審決・異議の決定を中心にピックアップしております。

異議2017-900184(経営士/国家資格等との誤認)

審決分類

商標法第4条第1項第7号(公序良俗違反)

商標

本件商標:経営士(標準文字)

結論

登録第5932606号商標の商標登録を維持する。

本件商標は、商標法第3条第1項第1号及び同第2号、並びに同法第4条第1項第7号及び同第10号に違反して登録されたものではないから、同法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきである。

審決等の要点

本件商標は、「経営士」の文字からなるところ、全体がわずか3文字のみから構成され、一連に表示されており、その語義上も一体のものと理解されることからすれば、その全体が取引者、需要者の注意を惹く要部であると認められる。そして、一般国民が、末尾に「士」の付された名称に接した場合、一定の国家資格を付与された者を表していると理解することが多いと一般的にはいうことができても、本件においては、本件商標を構成する「経営士」と同一又は類似する名称の国家資格は存在しないばかりでなく、「経営士」と同一又は類似する名称が、他の法律によって、その使用を制限されているといった事実も見いだし得ないところである。

してみれば、本件商標をその指定役務に使用しても、これに接する取引者、需要者が、国家資格を表す名称の一つであるかのごとく誤認、誤信を生ずるおそれがあるものとは認められず、また、国家資格等の制度に対する社会的信頼を失わせるものということはできない。

なお、本件商標権者のウェブサイトによれば、本件商標権者は、昭和26年9月25日に「日本経営士会」として発足し、昭和30年1月1日に「社団法人」として認可され、平成25年4月1日に「一般社団法人」に移行し、現在に至り、創立60余年を迎えており、その会員数は正会員1,140名である。また、経営士称号認定に関する規程を定めて、毎年5月と11月に試験を実施し、平成29年11月の試験で、100回を迎え、経営士称号認定のほか、経営支援等に関する人材育成、経営支援等に関する普及啓発、表彰、調査・研究、情報の収集・提供、内外関係機関等との交流・連携、行政・産業界への提言等の活動を行ってきたことを窺い知ることができる。

そうすると、本件商標は、本件商標権者の資格称号の出願に係るものであること、本件商標権者は、昭和26年に設立されてから現在まで約60余年にわたり、経営支援活動の充実等を目的とする多様な活動を続けてきた団体であること、本件商標権者は、上記活動の一環として、現在まで100回にわたり、経営士の称号の認定を与えてきたものであることなどの事情に照らせば、本件商標権者が、自己のために「経営士」の文字からなる本件商標につき、「経営の診断又は経営に関する助言」を指定役務として商標登録出願したことは、その行為の目的、態様に照らして社会的に相当なものということができる。

してみると、本件商標は、国家資格等との誤認・誤信を生ずるおそれの有無の観点から検討しても、その出願に至る経緯に照らせば、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標に当たるということはできない。

コメント

本件は、商標法第3条第1項第2号、同法第4条第1項第7号及び同第10号に該当することを理由として、登録取り消しを求める異議申立事件ですが、末尾に「士」の文字が付された商標に関しては商標法第4条第1項第7号該当性が争点となる事例が多くみられるため、同号の部分だけピックアップしました。現在まで100回にわたり、経営士の称号の認定を与えてきた事情が判断に影響を与えていると思われます。

なお、近年では、「内装監理士」が商標法第4条第1項第7号に該当し(不服2015-11525)、「貸家経営診断士」が商標法第4条第1項第7号に該当しない(不服2015-15761)、と判断されております。

異議2017-900263(ORANGETHEORY/周知著名商標と出所混同)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)
商標法第4条第1項第15号(商品又は役務の出所の混同)

商標

本件商標:ORANGETHEORY(標準文字)
申立人商標:Theory、THEORY

結論

登録第5953748号商標の商標登録を維持する。

本件商標の登録は、第25類「全指定商品」について、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号のいずれにも違反してされたものとはいえないから、同法第43条の3第4項の規定により、維持すべきである。

審決等の要点

本件商標は、「ORANGETHEORY」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成各文字は、同じ書体、同じ大きさをもって視覚上まとまりよく一連に表されているものである。そして、本件商標は、「オレンジセオリー」の称呼を生じるものであり、当該欧文字は、直ちに何らかの意味合いを認識させるとはいい難いものであるから、特定の観念を生じないものである。一方、引用商標1及び2からは「セオリー」の称呼を生じ、「理論,学説」の意味を有する英語であるから、かかる観念を生じるものである。そうすると、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点からみても、相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。

引用商標の周知性についてみると、認定事実及び申立人が審決取消請求事件を引用しながら主張する、申立人の商品の売上額及び広告実績を総合すれば、引用商標は、申立人の商品「女性用衣服」について使用された結果、本件商標の登録出願日及び登録査定日において、我が国の女性用衣服の需要者の間に広く認識されていたものと認められる。

しかしながら、引用商標の構成文字である「theory(THEORY)」の語は、「理論,学説」の意味を有する平易な英語であって、広く一般に認識されている成語であるから、その独創性は高いものではない。また、本件商標は、引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標であって、構成文字において「ORANGE」の文字の有無という顕著な差異を有する別異の商標である。

以上を踏まえると、本件商標は、本件商標権者がこれをその指定商品について使用しても、取引者、需要者をして引用商標を連想又は想起させることはなく、その商品が申立人あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはなかったものというべきである。

コメント

申立人は、本件商標の構成中「ORANGE」の文字部分が商品の品質(色彩)を示すものであるため、識別力の弱い部分である旨主張しましたが、直ちに商品の色彩を表したものと認識されるとはいえず、「THEORY」の文字部分のみが独立して取引に資されるとはいい難いと判断されております。異議の決定では、「theory(THEORY)」の語が、「理論,学説」の意味を有する平易な英語であって、その独創性は高いものではない旨述べられておりますが、商標審査基準でも「標章が造語よりなるものであるか」が商標法第4条第1項第15号に該当するか否かの考慮事由として挙げられており、造語と比べると平易な英語からなる商標に同号が適用されるハードルは高いものとなっております。 

異議2017-900375(MacEdge/周知著名商標と出所混同)

審決分類

商標法第4条第1項第15号(商品又は役務の出所の混同)

商標

本件商標:MacEdge
申立人商標:Mac

結論

登録第5877027号商標の商標登録を取り消す。

本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してされたものと認められるから、同法第43条の3第2項の規定により、その登録を取り消すべきものである。

審決等の要点

申立人は、ブランドランキングにおいて2010年頃から1位をキープしている会社であって、申立人が製造、販売するパーソナルコンピュータ「Macintosh」は、本件商標の登録出願時より前から「Mac」及び「マック」と略称されており、その状態は登録査定時においても継続していた。そして、申立人は、Macintoshのシリーズ商品として「MacBook」、「MacBookAir」、「MacBookPro」、「iMac」、「Mac Pro」、「Mac mini」等の「Mac」シリーズを製造、販売しており、これらのハードウェアと「Mac」シリーズのオペレーティングシステム(OS)として、「macOS(マックオーエス)」、「Mac OS X(マック オーエス テン)」も製造、販売している。また、PC市場において、「Mac」シリーズ商品のシェアも相当程度占めているといい得るものである。

そうとすると、申立人が製造、販売するパーソナルコンピュータの略称である「Mac」商標、すなわち、申立人商標は、申立人の業務に係る商品「パーソナルコンピュータ」(以下「申立人商品」という。)を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において需要者の間に広く認識されていたというべきである。

本件商標は、「MacEdge」の欧文字からなるものであるところ、その構成中、語頭の「M」と中間部の「E」が大文字で表され、その余の文字が小文字で表されていることから、「Mac」の文字と「Edge」の文字とを結合してなるものであると直ちに看取される。そして、本件商標の構成中の「Mac」の文字部分は、申立人商品を表すものとして、本件商標の登録査定時はもとより、登録出願時においても、既に、我が国のコンピュータ関連の分野の取引者、需要者の間に広く認識されている申立人商標「Mac」と、そのつづりを同じくするものである。 また、同じく「Edge」の文字部分は、「端、へり」の意味を有する平易な英単語であり、さほど強い識別力を発揮するものともいえず、また、「Mac」の文字と結合して何らかの意味合いを持つものともいえない。さらに、本件商標の指定商品と申立人商品とは、その製造販売者、取引者、需要者層、販売場所等を共通にするというべきであるから、両者は、類似する商品、あるいは関連性の強い商品というのが相当である。

そうすると、本件商標をその指定商品について使用した場合、本件商標に接した取引者、需要者は、本件商標全体として特定の意味を把握できないこと、その構成中、特に注意を惹きやすい語頭に「Mac」の文字を有していること、申立人商品に使用している申立人商標が著名であることから、本件商標の構成中「Mac」の文字部分に強く印象づけられ、該商品が申立人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。

コメント

本件では、「Mac」が周知著名な商標であることに加え、申立人が「MacBook」等の「Mac」シリーズの商品を製造、販売していたことが商標法第4条第1項第15号に該当するとの判断に影響を与えたものと思われます。

異議2017-900154(4K JEEP/周知著名商標と商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標

本件商標:
引用商標:

結論

登録第5922653号商標の商標登録を取り消す。

本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものであるといわざるを得ないから、その他の登録異議の申立ての理由について論及するまでもなく、本件商標は、同法第43条の3第2項の規定により、その登録を取り消すべきものである。

審決等の要点

本件商標は、ゴシック活字体で表した「4KJEEP」の文字を横書きしてなるものであるところ、その構成中の「K」の文字と「J」の文字は、その字形から、これらの文字の間にやや間隔があるように看取されるものである。また、本件商標は、構成文字全体もって、親しまれた意味合いが生ずるものではない。そして、本件商標中の「4K」の文字部分は、本件商標の指定商品の属する電気通信機械器具との関係からみると、例えば、申立人提出の甲第5号証に「水平解像度がおおよそ4000の(横方向におおよそ4000の点が描ける)映像規格」の記載がある。また、「現代用語の基礎知識2017」(自由国民社、2017年1月1日発行)の「4K」の項目(1064頁)には、「800万画素の高解像度テレビ」との記載が認められ、同書の「4Kテレビ」の項目(610頁)には、「フルハイビジョンの4倍に当たる画素数で高画質を実現したテレビ。」との記載がある。

一方、本件商標中の「JEEP」の文字部分は、「第二次世界大戦中にアメリカ陸軍の要請により開発された四輪駆動小型車で、戦後は、米国以外の国でも軍用、民生用として生産され、四輪駆動車の代名詞となっている」もので、たとえ我が国における電気通信機械器具の需要者であっても、「JEEP」の文字が、いずれの者の業務に係るものか正確には知らないまでも、「四輪駆動小型車の一つ」を表するものであることについては、よく知られているといえる。そうとすれば、本件商標は、その構成中の「JEEP」の文字部分が、取引者・需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められることから、「JEEP」の文字部分を要部として取り出し、これと他人の商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも、許されると解するのが相当である。

そうすると、本件商標中の「4K」の文字部分は、その指定商品について使用した場合には、「フルハイビジョンの4倍の解像度をもつ商品」などの意味合いをもって、商品の品質、機能等を表示したものと認識されるにすぎないものであって、自他商品の識別機能を有しないものということができる。したがって、本件商標は、その構成文字全体に相応して、「ヨンケージープ」又は「フォーケージープ」の称呼を生ずるほか、要部である「JEEP」の文字部分より、単に「ジープ」の称呼をも生ずるものであって、「四輪駆動小型車の一つ」の観念を生ずるものということができる。

一方、引用商標1は、ゴシック活字体で表した「JEEP」の文字を横書きしてなるものであるから、その構成文字に相応して、「ジープ」の称呼を生ずるものであって、「四輪駆動小型車の一つ」の観念を生ずるものと認める。

したがって、本件商標と引用商標1は、外観、称呼及び観念のいずれの点についても、相紛れるおそれのある類似の商標といわなければならない。

コメント

本件商標の構成中「4K」の文字の識別力が極めて弱いことを考慮すると、そもそも両商標の類似性は高いと思われますが、異議の決定では、引用商標が広く知られているから、本件商標の構成中「JEEP」の文字部分は、取引者・需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えると述べられており、引用商標の周知著名性も商標法第4条第1項第11号の判断に影響を与えた事案といえます。
 

取消2017-300411(DECO/社会通念上同一)

審決分類

商標法第50条(不使用による取り消し)

商標

本件商標:DECO(標準文字)
使用標章:株式会社DECO

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

被請求人は、要証期間に日本国内において、本件商標の通常使用権者が、その請求に係る指定商品について、本件商標(社会通念上同一の商標を含む。)の使用をしていた事実を証明したこと明らかである。したがって、本件商標の登録は、その指定商品中、第16類「印刷物」について、商標法第50条の規定により、取り消すことはできない。

審決等の要点

本件商標権者とリッツ社は、本店の所在地を同じくし、代表取締役等の者も同一人であるから、同族会社と認められ、リッツ社は、本件商標権者から本件商標について黙示の使用許諾がなされているものと推認できる。そうすると、リッツ社は、本件商標の通常使用権者といえる。

本件商標権者は、本件審判の請求に係る第16類「印刷物」に含まれる商品「書籍」に、その商品の発行者を表すものとして「株式会社DECO」の文字を表示したものである。そして、本件商標権者が発行した「Wreath&BEAR くまとリースの作品集」は、要証期間に含まれる2016年(平成28年)3月5日に、本件商標の通常使用権者により、千葉県八千代市在の者に引き渡されたものと認められる。

そして、本件商標権者が商品「書籍」の発行者として表示した「株式会社DECO」の文字は、その構成中の「株式会社」の文字は法人の種類を表すものであって識別標識としての機能を果たし得ないものであるから、同機能を果たすのは「DECO」の欧文字部分にあるいうことができ、当該「DECO」の欧文字は、本件商標の書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標であるから、本件商標と社会通念上同一の商標と認められる。

以上のとおり、被請求人は、要証期間に日本国内において、本件商標の通常使用権者が、その請求に係る指定商品について、本件商標(社会通念上同一の商標を含む。)の使用をしていた事実を証明したこと明らかである。

コメント

本件では、「株式会社」の文字の有無の差異を有する「DECO」と「株式会社DECO」が社会通念上同一と判断された点と、「書籍」の発行者として表示した「株式会社DECO」の文字を付した商品を引き渡す行為が商標法第2条第3項第2号にいう「商品に標章を付したものを引き渡しする行為」に該当すると判断された点が、実務上の参考になるものと思われます。 
 

不服2017-9505(キューピー図形/図形商標の類否)

審決分類

商標法第4条第1項第11号(同一又は類似)

商標

本願商標:

引用標章: 、他

結論

原査定を取り消す。本願商標は、登録すべきものとする。

本件商標と引用商標とが類似するものとして、本願商標を商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、取消しを免れない。

審決等の要点

本願商標の構成中のキューピー図形は、「医者の姿をしたキューピー」であると容易に理解できることから、「医者の姿をしたキューピー」の観念を生じるものの、我が国において特定の称呼をもって認識されているというべき事情は認められないことからすれば、これより、特定の称呼を生じないものである。さらに、家のイラストの図形及び該図形の内側に表された各図形は、我が国において特定の意味合いを表すものとして認識されているというべき事情は認められず、また、家のイラストの図形の内側に書された「ドクトル」及び「外壁さん」の文字は、まとまりよく一体的に表されているものであるところ、構成文字全体としては、辞書等に載録のないものである。そうすると、家のイラストの図形部分からは、その構成中の「ドクトル」及び「外壁さん」の文字に相応して「ドクトルガイヘキサン」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。

してみれば、本願商標は、その構成中のキューピー図形部分からは、「医者の姿をしたキューピー」の観念を生じ、家のイラストの図形部分からは、「ドクトルガイヘキサン」の称呼を生じるものであるから、本願商標全体としては、「ドクトルガイヘキサン」の称呼を生じ、「医者の姿をしたキューピー」の観念を生じるものである。

したがって、本願商標から、「キューピー」の称呼及び「キューピー」又は「キューピー人形」の観念を生じるとし、その上で、本願商標と引用商標とが類似するものとして、本願商標を商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、取消しを免れない。 

コメント

キューピー図形に関しては、知財高裁平成20年(行ケ)第10139号の審決取消請求事件において、以下の商標が、共に「キューピー」の称呼及び観念を生じ、類似すると判断されておりますが(≒は類似を表す記号)、本件では、本願商標のキューピーが医者の姿をしていることにより、異なる称呼及び観念が生じ、非類似であると判断されております。

・平成20年(行ケ)第10139号: ≒   

無効2016-890053(CADERO/社会的妥当性を欠く行為)

審決分類

商標法第4条第1項第7号(公序良俗違反)

商標

本件商標:
台湾登録商標:

結論

登録第5597305号の登録を無効とする。

本件商標権者による本件商標の登録出願は、請求人との間の契約上の義務違反となるのみならず、適正な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠く行為というべきであるから、公正な取引秩序の維持の観点からみても妥当ということができない。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。

審決等の要点

請求人の使用に係る商標は、ゴルフ用品総合カタログ及びインボイスに表示されているとおり請求人の台湾登録商標である。そして、台湾登録商標は、2011年ゴルフ用品総合カタログやインボイスにおいて、「CADERO」の欧文字とともに表示されているものであるから、「CADERO」欧文字をデザイン化して表したものと認められ、これからは、「カデロ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
 
本件商標は、最近の文字のデザイン化からすると「CADERO」の欧文字を表したものと容易に認識されるというべきであって、これからは「カデロ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。そこで、本件商標と台湾登録商標とを比較すると、両商標は、それぞれデザイン化され、その外観において差異を有するとしても、いずれも「CADERO」の欧文字からなるものであるから、外観において近似し、両商標からは、「カデロ」の同一の称呼を生じ、いずれも特定の観念を生じないものの、同一のつづりであるから、観念において相違することのないものである。以上を総合すれば、本件商標と台湾登録商標とは、類似の商標と認められる。

請求人と本件商標権者との間における本件販売店契約は、平成22年10月1日から5年間を有効期間とするカデロブランド・グリップの独占的販売に関するものであって、請求人と本件商標権者は、平成28年3月8日までの間、「CADERO」の「GOLF GRIP」を取引していた。そして、本件販売店契約の第14条2項には、本件商標権者は請求人に帰属する商標と同一もしくは類似する商標、記号等をいかなる商品、役務についても登録しない旨規定され、本件販売店契約における請求人に帰属する商標には、少なくとも本件商標と類似する台湾登録商標が含まれるものである。台湾登録商標と類似する本件商標は、当該商標が主に使用される「ゴルフクラブのグリップ」と同一又は類似の商品である第28類「ゴルフクラブ用グリップ,運動用具」を含む商品を指定商品として、本件販売店契約の有効期間内である平成24年10月9日に登録出願されたものである。
 
以上からすると、本件商標権者は、件販売店契約の内容を知っていながら、その有効期間内に台湾登録商標と類似する本件商標を、当該商標が主に使用される「ゴルフクラブのグリップ」と同一又は類似の商品である、第28類「ゴルフクラブ用グリップ,運動用具」を含む商品を指定商品として登録出願したものであるから、かかる本件商標権者の行為は、上記本件販売店契約の第14条2項に規定されている内容に反したものというべきである。そして、本件商標権者による本件商標の登録出願は、請求人との間の契約上の義務違反となるのみならず、適正な商道徳に反し、著しく社会的妥当性を欠く行為というべきであるから、公正な取引秩序の維持の観点からみても妥当ということができない。

コメント

本件では、本件商標権者と請求人の間で締結された販売店契約において、請求人に帰属する商標と同一もしくは類似する商標、記号等をいかなる商品、役務についても登録しない旨規定されており、当該契約の義務違反に当たることが考慮されて、公序良俗に反すると判断されております。販売店契約や代理店契約を締結する際に、商標登録を禁止する規定を盛り込むことの重要性を示す事案です。

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(文責・前田)