大阪地方裁判所第26部は、本年12月14日、プレイステーション2等向けのゲームソフトである「戦国無双」シリーズ等及び「零」シリーズの特許権侵害について判断した判決を言い渡しました。

原告カプコンは、被告コーエーテクモゲームスが製造・販売した「戦国無双」シリーズ等と、「零」シリーズに、2つの異なる特許権をそれぞれ行使していたところ、裁判所は、「戦国無双」シリーズ等については対象特許が進歩性を欠き無効である、「零」シリーズについては特許権を侵害する(間接侵害)として、「零」シリーズの実施料(0.5%)相当額等の損害賠償金517万円及び遅延損害金の支払いを命じました。

本稿では、「零」シリーズの判断について解説します。

ポイント

骨子

  • 「零」シリーズは、原告が有する「遊戯装置、およびその制御方法」の特許権を侵害(間接侵害)する。「家具・ゲーム」分野の実施料率は平均2.5%であるが、特許発明の作用効果が発揮される場面が極めて限定的であることなどから、本件での実施料率は0.5%とするのが相当である。

判決概要

裁判所 大阪地方裁判所第26部
判決言渡日 平成29年12月14日
事件番号 平成26年(ワ)第6163号 特許権侵害行為差止等請求事件
特許番号 特許第3350773号(本件特許A)
特許第3295771号(本件特許B)
発明の名称 「システム作動方法」(本件特許A)
「遊戯装置、およびその制御方法」(本件特許B)
当事者 原告 株式会社カプコン
被告 株式会社コーエーテクモゲームス
裁判官 裁判長裁判官 髙 松 宏 之
裁判官    野 上 誠 一
裁判官    大 門 宏一郎

解説

間接侵害

特許権侵害が認められるためには、特許発明の構成要件を全て充足する必要があるのが原則です。
しかし、構成要件の全てを充足していなくても、特許権侵害を誘発する可能性の高い一定の行為(例えば、侵害品の生産にのみ用いる物の製造販売行為等)については、特許権侵害とみなすと定められています(特許法101条、間接侵害)。

特許法101条
次に掲げる行為は、当該特許権又は専用実施権を侵害するものとみなす。
一 特許が物の発明についてされている場合において、業として、その物の生産にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
二 特許が物の発明についてされている場合において、その物の生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
三 特許が物の発明についてされている場合において、その物を業としての譲渡等又は輸出のために所持する行為
四 特許が方法の発明についてされている場合において、業として、その方法の使用にのみ用いる物の生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
五 特許が方法の発明についてされている場合において、その方法の使用に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為
六 特許が物を生産する方法の発明についてされている場合において、その方法により生産した物を業としての譲渡等又は輸出のために所持する行為

特許権侵害の損害賠償

特許権侵害(間接侵害を含む)が認められた場合には、特許権者は、侵害者に対し、不法行為に基づき、自己に生じた損害を賠償する請求できますが(民法709条)、その損害を立証することは容易ではないため、特許法には、損害に関する特別規定が置かれています。

特許法102条1項は、原告の1個あたりの利益×被告の販売数量を、2項は、被告の1個あたりの利益×被告の販売数量を、それぞれ損害と推定する規定です。

しかし、「侵害行為がなかったならば利益を得られたであろう」という関係がない場合(特許権者もその代理店等も特許発明を実施していない場合)には、1項や2項の損害は認められないと解されています。

そのような場合でも、特許法102条3項により、実施料相当額の損害賠償請求は認められます。

特許法102条
特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度において、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。
2 特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。
3 特許権者又は専用実施権者は、故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対し、その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。
4 前項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、特許権又は専用実施権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。

本件特許Bの内容

原告が「零」シリーズに対して行使した本件特許Bの請求項1に記載された発明(本件発明B-1)は、ゲームの中で遊戯者が操作するキャラクタの置かれている状況が特定の状況にあると判定された場合に、画像情報からは認識できない情報を、キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号として送出する(例えば、キャラクタが地雷に近づいた場合に、画面上では地雷に近づいたことがわからないが、遊戯者は振動が体感的に伝達されて地雷に近づいたことがわかる)という遊戯装置の発明であり、同請求項8(本件発明B-8)は、遊戯装置の制御方法の発明です。

【請求項1】遊戯者が操作する入力手段と,この入力手段からの信号に基づいてゲームの進行状態を決定あるいは制御するゲーム進行制御手段と,このゲーム進行制御手段からの信号に基づいて少なくとも遊戯者が上記入力手段を操作することにより変動するキャラクタを含む画像情報を出力する出力手段とを有するゲーム機を備えた遊戯装置であって,上記ゲーム進行制御手段からの信号に基づいて,ゲームの進行途中における遊戯者が操作している上記キャラクタの置かれている状況が特定の状況にあるか否かを判定する特定状況判定手段と,上記特定状況判定手段が特定の状況にあることを判定した時に,上記画像情報からは認識できない情報を,上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段と,上記振動情報制御手段からの体感振動情報信号に基づいて振動を生じさせる振動発生手段と,を備えたことを特徴とする,遊戯装置。

【請求項8】遊戯者が操作する入力手段と,この入力手段からの信号に基づいてゲームの進行状態を決定あるいは制御するゲーム進行制御手段と,このゲーム進行制御手段からの信号に基づいて少なくとも遊戯者が上記入力手段を操作することにより変動するキャラクタを含む画像情報を出力する出力手段とを有するゲーム機を備えた遊戯装置の制御方法であって,上記ゲーム進行制御手段からの信号に基づいて,ゲームの進行途中における遊戯者が操作している上記キャラクタの置かれている状況が特定の状況にあることを判定した時に,上記画像情報からは認識できない情報を,上記キャラクタの置かれている状況に応じて間欠的に生じる振動の間欠周期を異ならせるための体感振動情報信号として振動発生手段に送出するようにしたことを特徴とする,遊戯装置の制御方法。

本件発明B-1の充足

被告が製造販売する「零」シリーズは、3Dアクションアドベンチャー(日本を舞台としたホラーゲーム)であり、射影機(カメラ)を使って霊と戦うというものです。

裁判所は、「零」シリーズでは、キャラクタと霊との距離が一定の範囲内で、霊がキャラクタの後方に存在する場合等には、霊が近くにいることが画面情報から認識することができないが、間欠的な振動は生じており、そのまま霊がキャラクタに近づくと間欠周期が短くなり、遠ざかると長くなることなどから、「零」シリーズをプレイステーション2に装填した遊戯装置は、本件発明B-1の技術的範囲に属すると判断しました。

この点、被告は、画面上認識できる場合にも振動が発生するので、本件発明B-1の「上記画像情報からは認識できない情報を(中略)体感振動情報信号として送出する振動情報制御手段」を備えていないと主張しましたが、画像から認識できない情報「のみ」を送出するものとの限定は付されておらず、画像上認識できる場合に振動が発生するとしても、画像上認識できない場合の振動について作用効果を奏することには変わりがないなどとして、被告の主張は採用できないと判断しました。

本件発明B-1の間接侵害

上記のとおり、本件発明B-1を充足するのは、「零」シリーズをプレイステーション2に装填した遊戯装置全体ですが、被告は「その物の生産にのみ用いる物」である「零」シリーズのゲームソフトを製造・販売したとして、特許法101条1号に基づき、本件特許権Bを侵害するものとみなされると判断されました。

本件発明B-1が新規性又は進歩性を欠くとはいえないこと

被告は、「ニンジャウォーリアーズ」(株式会社タイトーが昭和63年に発売したアーケードゲーム、公知発明b-1)でも、画像情報から認識できないニンジャキャラクタと戦車との近接度合いという状況に応じて間欠的に生じる振動を送出しているとして、新規性又は進歩性を欠くと主張していました。

しかし、裁判所は、本件発明B-1における「間欠的に生じる振動」とは,単に強弱が連続するというものではなく、強弱が連続しない部分があるものをいい、「間欠周期を異ならせる」とは、そのような強弱の連続部分と不連続部分とが繰り返されることにより生じる周期があり、キャラクタの置かれている状況に応じてその周期を異ならせることをいうと解するのが相当であるところ、公知発明b-1の振動はこれに該当せず、新規性に欠けるところはないと判断しました。

さらに、出願日前公開の実開平6-34693号「レール上を走行するトロッコの動きを模した」揺動遊戯機では、レールの継ぎ目ごとに発生する強弱の連続部分と、レールの継ぎ目の間の不連続部分とが繰り返す間欠的な振動が、トロッコの置かれた速度状況に応じて、間欠周期を異ならせて発生しているものの、レールの継ぎ目の利用を離れて、抽象的に間欠周期の変化を利用する発明が記載されているとは認められないから、これを公知発明b-1において戦車が接近する場合の振動に適用する動機付けがあるとはいえないとされました。

以上より、本件発明B-1には進歩性に欠けるところもないと判断されました。

損害論

上記のとおり、裁判所は、「零」シリーズの製造・販売が本件特許権Bを侵害するとして、損害賠償額についても判断しました。

裁判所は、「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書~知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率に関する実態把握~」本編2によれば、「家具,ゲーム」の技術分野において実施料率は、平均2.5パーセントとされているから、これが,本件の技術分野における平均的な実施料率であると認められるとした上で、本件発明B-1の作用効果が発揮される場面は、極めて限定的である(霊がキャラクタの背後で接近し又は遠ざかるのに対して、キャラクタが向きを維持し続けるという状況に限られるが、プレイヤーは画像上で霊の存在を認識できる位置にキャラクタを操作しようとすると考えられるため、そのような状況は限定される)ことや、作り込まれたストーリー、美しいグラフィックと本物にこだわったサウンドによる演出、キャラクタが「零」シリーズの大きな訴求力になっていることなどに照らし、本件での実施料率は0.5パーセントとするのが相当であるとしました。

対象となる「零」シリーズの売上が9億4000万円を下らないことに原告被告間で争いはなかったので、その0.5パーセントである470万円と、弁護士等費用として47万円の合計517万円の損害額が認定されました。

なお、本件発明B-8に関する損害賠償が仮に認められても、損害額は上記の額を超えないとして、本件発明B-8については判断の必要がないとされました。

コメント

ゲームソフトの特許権侵害について判断した判決は多くはないため、紹介させていただきました。

本件特許Bについては、実施料相当額の損害賠償の認定に関し、発明の作用効果が発揮される場面は極めて限定的であるとして、当該技術分野における平均的な実施料率の5分の1と認定した点が、特徴的であると思われます。

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(文責・藤田)