令和6(2024)年3月、文化審議会 著作権分科会 法制度小委員会が作成した「AIと著作権に関する考え方について」(以下「考え方」といいます。)が公表されました。

「考え方」は、現時点の実務において、生成AIと著作権の関係についてガイドラインとしての役割を果たす資料となります。

「考え方」は、法的論点に関する整理を、大きく生成AIの開発・学習段階と生成・利用段階とに分けて説明しています。本稿では、開発・学習段階を紹介した前稿に続き、「考え方」における生成AIの生成・利用段階の著作権の関係及びAI生成物の著作物性についての整理をご紹介します。

「考え方」のポイント

  • 生成AIによる生成物も、その生成・利用段階において既存の著作物との類似性及び依拠性が認められれば、生成物の生成行為や利用行為が著作権侵害となる。
  • AI生成物と既存の著作物との類似性の判断は、AIを使わずに創作したものについて類似性が争われた過去の判例と同様、既存の著作物の表現上の本質的な特徴が感得できるかどうかということ等により判断される。
  • 依拠性については、まず、AI利用者が既存の著作物を認識していたと認められる場合には依拠性が認められる。
  • AI利用者が既存の著作物を認識していなかったがAI学習用データに当該著作物が含まれる場合、依拠性が推認される。ただし、学習に用いられた著作物の創作的表現が生成・利用段階で出力される状態となっていないと法的に評価できる場合は、依拠性が否定されることがあり得る。
  • AI利用者が既存の著作物を認識しておらず、かつAI学習用データに当該著作物が含まれない場合、依拠性は認められない。
  • 侵害に対する措置については、AI利用者が侵害の行為に係る著作物等を認識していなかったなどの事情により、著作権侵害についての故意又は過失が認められない場合においては、受け得る措置は差止請求に留まり、刑事罰や損害賠償請求の対象となることはない。もっとも、不当利得返還請求として、著作物の使用料相当額として合理的に認められる額等の不当利得の返還が認められることはあり得る。
  • AI生成物の生成・利用が著作権侵害となる場合の侵害の主体の判断においては、物理的な行為主体である当該AI利用者が著作権侵害行為の主体として責任を負うのが原則であるが、他方で、規範的行為主体論に基づいて、AI利用者のみならず、生成AIの開発や生成AIを用いたサービス提供を行う事業者が著作権侵害の行為主体として責任を負う場合がある。
  • 生成AIへの指示・入力時に他人の著作物を入力する場合は、著作物の複製が発生するが、著作権法30条の4(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)によって適法となり得る。ただし、生成AIに対する入力に用いた著作物と類似する生成物を生成させる目的で当該著作物を入力する行為には、法30条の4は適用されない。
  • AI生成物の著作物性は、個々のAI生成物について個別具体的な事例に応じて判断されるものであり、単なる労力にとどまらず、創作的寄与があるといえるものがどの程度積み重なっているか等を総合的に考慮して判断される。著作物性を判断するに当たっての要素としては、例えば①指示・入力(プロンプト等)の分量・内容、②生成の試行回数、③複数の生成物からの選択といったものがある。

解説

「考え方」の位置付け

前稿でも紹介したとおり、「考え方」は、法的拘束力を持つものではありませんが、著作権法を所管する文化庁が運営に携わり文化審議会の著作権分科会法制度小委員会によって取りまとめられたものであって、実務にとって生成AIと著作権の関係についてガイドラインとしての役割を果たす資料といえます。

生成・利用段階とは

生成AIと著作物の利用の場面を整理すると、大きく「開発・学習段階」「生成・利用段階」に分けられるとの理解が定着しています。

「考え方」では、利用者が入力・指示を与えることで生成AIにより生成物を出力し、その生成物を利用する段階を生成・利用段階と呼んでいます。

そして、「考え方」では「検討の前提」として、生成・利用段階では、生成物の生成行為(著作権法における複製等)と、生成物のインターネットを介した送信などの利用行為(著作権法における複製、公衆送信等)について、既存の著作物の著作権侵害となる可能性があることを指摘しています[1]

著作権侵害の有無の考え方について

判例[2]では、ある作品に、既存の著作物との類似性と依拠性の両方が認められる場合に著作権侵害が成立するとされており、これが著作権法において現在定着した解釈となっています。

「考え方」では、生成AIによる生成物についても、その生成・利用段階において既存の著作物との類似性及び依拠性が認められれば、生成物の生成行為や利用行為が既存の著作物の著作権侵害となるとの原則が示されています[3]

このうち類似性については、生成AIが関わらない場面での従来の判断基準と変わらないと考えられていましたが、「考え方」でも以下のとおり、従来の考え方と変わらず「既存の著作物の表現上の本質的な特徴が感得できるかどうか」等によって判断されることが確認されています[4]

AI生成物と既存の著作物との類似性の判断についても、人間がAIを使わずに創作したものについて類似性が争われた既存の判例と同様、既存の著作物の表現上の本質的な特徴が感得できるかどうかということ等により判断されるものと考えられる。なお、ここでいう「表現上の本質的な特徴」に具体的に当たるものについては、個別具体的な事例に即し、判断されることに留意する必要がある

依拠性の判断について

「考え方」には依拠性の定義はありませんが、令和5年5月に公表された「AIと著作権の関係等について」(別稿にて紹介しています。)においては、「既存の著作物をもとに創作したこと」と記載されています。

依拠性の有無の判断に関して「考え方」は、以下の3つの類型に分けて整理しています。
①AI利用者が既存の著作物を認識していたと認められる場合
②AI利用者が既存の著作物を認識していなかったが、AI学習用データに当該著作物が含まれる場合
③AI利用者が既存の著作物を認識しておらず、かつ、AI学習用データに当該著作物が含まれない場合

この3つの類型について「考え方」が示す依拠性の考え方を表にすると以下のとおりです。

AI利用者が既存著作物を認識していたか AI学習用データに当該著作物が含まれていたか 依拠性の考え方
依拠性が認められる。
× 依拠性が推認される。ただし、学習に用いられた著作物の創作的表現が生成・利用段階で出力される状態となっていないと法的に評価できる場合は、依拠性が否定されることがあり得る。
× × 依拠性は認められない。

以下、それぞれ説明します。

①の場合について

①(AI利用者が既存の著作物を認識していたと認められる)のケースについて、「考え方」では以下のとおり、依拠性が認められると記載しています[5]

生成AIを利用した場合であっても、AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識しており、生成AIを利用して当該著作物の創作的表現を有するものを生成させた場合は、依拠性が認められ、AI利用者による著作権侵害が成立すると考えられる。

さらに「考え方」では、①の具体例として、

  • Image to Image(画像を生成AIに指示として入力し、生成物として画像を得る行為)のように既存の著作物そのものを入力する場合
  • 既存の著作物の題号などの特定の固有名詞を入力する場合

を挙げており[6]、参考になります。これらは、AI利用者が既存の著作物を認識していることが認められやすい例を示したものでしょう。

②の場合について

②(AI利用者が既存の著作物を認識していなかったが、AI学習用データに当該著作物が含まれる)のケースは、従来、生成AI利用における依拠性の判断について議論があったケースです。

「考え方」は以下のとおり、生成AIがその著作物を学習していた場合は客観的に当該著作物へのアクセスがあったと認められることを理由に、通常、依拠性が推認されると整理しました[7]

AI利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識していなかったが、当該生成AIの開発・学習段階で当該著作物を学習していた場合については、客観的に当該著作物へのアクセスがあったと認められることから、当該生成AIを利用し、当該著作物に類似した生成物が生成された場合は、通常、依拠性があったと推認され、AI利用者による著作権侵害になりうると考えられる。

他方、「考え方」は以下のとおり、AI学習用データに当該著作物が含まれていても依拠性がないと判断される場合として、その著作物が生成されることがないよう技術的に担保されている場合を挙げています[8]

ただし、当該生成AIについて、開発・学習段階において学習に用いられた著作物の創作的表現が、生成・利用段階において生成されることはないといえるような状態が技術的に担保されているといえる場合45 もあり得る。このような状態が技術的に担保されていること等の事情から、当該生成AIにおいて、学習に用いられた著作物の創作的表現が、生成・利用段階において出力される状態となっていないと法的に評価できる場合には、AI利用者において当該評価を基礎づける事情を主張することにより、当該生成AIの開発・学習段階で既存の著作物を学習していた場合であっても、依拠性がないと判断される場合はあり得ると考えられる

さらに、この引用部分に付された脚注45では、そのように技術的に担保されている具体例として、

  • 学習に用いられた著作物と創作的表現が共通した生成物が出力されないよう出力段階においてフィルタリングを行う措置が取られている場合
  • 当該生成AIの全体の仕組み等に基づき、学習に用いられた著作物の創作的表現が生成・利用段階において生成されないことが合理的に説明可能な場合

が挙げられています。

③の場合について

③(AI利用者が既存の著作物を認識しておらず、かつ、AI 学習用データに当該著作物が含まれない)のケースは、依拠性がないと考えることに異論はないと思われます。「考え方」でも、③のケースでは依拠性は認められないと説明しています[9]

AI 利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識しておらず、かつ、当該生成AIの開発・学習段階で、当該著作物を学習していなかった場合は、当該生成AIを利用し、当該著作物に類似した生成物が生成されたとしても、これは偶然の一致に過ぎないものとして、依拠性は認められず、著作権侵害は成立しないと考えられる。

依拠性の主張立証

訴訟において、依拠性の主張立証は著作権者が行うことになります。

「考え方」では、上記①(AI利用者が既存の著作物を認識していたと認められる)のケースにおける依拠性の立証について、生成AIの事案ではない過去の裁判例の判断を踏まえ、生成AIが利用された事案であっても、被疑侵害者における既存著作物へのアクセス可能性や、生成物と既存著作物との高度な類似性の存在等を立証することにより、依拠性があるとの推認を得ることができると考えられると述べています[10]

実務においても、著作権者としてはまず、こうしたアクセス可能性や高度な類似性等を根拠として、AI利用者が既存の著作物を認識していたことに基づく依拠性が推認されるとの主張立証を行うことになると思われます。

このAI利用者が既存の著作物を認識していたことの立証が困難な事案においては、②(AI利用者が既存の著作物を認識していなかったが、AI学習用データに当該著作物が含まれる)のケースのように、AI学習用データに当該著作物が含まれることによる依拠性の主張立証が問題となるでしょう。

ただ、著作権者として、AI学習用データに自己の著作物が含まれるかどうかは、AI開発事業者が公表していない限り通常は知り得ないのではないかと思われます。

著作権者にとっての立証方法としては、生成物と既存著作物との高度の類似性や、当該生成AIに対する簡単な入力・指示によって当該著作物に類似する生成物が頻発するといった事実に基づいて、学習データに当該著作物が含まれていたことが推認される旨の主張立証が考えられます。

もっとも、訴訟においてそれらの事実がどの程度認められれば学習データに当該著作物が含まれていたとの推認がされるのかは、従来の人間による依拠にはなかった生成AI特有の論点であり、現時点では明確ではありません。

手続法上の立証の手段

依拠性についてAI学習用データに当該著作物が含まれていたことの立証のための手段として、「考え方」では以下のとおり、訴訟の場面において著作権法上の書類提出命令、民事訴訟法上の文書提出命令や文書送付嘱託を利用し得ることを述べています[11]

このような主張のため、事業者に対し、法第114 条の3(書類の提出等)や、民事訴訟法上の文書提出命令(同法第223 条第1項)、文書送付嘱託(同法第226 条)等に基づき、当該生成AI の開発・学習段階で用いたデータの開示を求めることができる場合もある。

とはいえ、これらの訴訟上の措置が奏功するかは生成AIの開発・学習をした開発事業者等の対応にも依存しますので、証拠を得られるとは限りません。

依拠性に関する被疑侵害者の反証

他方、被疑侵害者にとっても、自ら開発・学習を行った場合でなければ、生成AIが開発・学習段階で特定の著作物を学習していたか否かを知り得ないことは同様です。「考え方」では、当該著作物が学習されていないとの主張を被疑侵害者が行う場合についても、訴訟の場面において著作権法上の書類提出命令、民事訴訟法上の文書提出命令や文書送付嘱託を利用し得ることも述べられています[12]

また「考え方」では上記のとおり、②のケースにおいて依拠性がないと判断され得る場合として、AI学習用データに当該著作物が含まれていてもその著作物が生成されることがないよう技術的に担保されている場合が言及されていましたが、この事実も、訴訟においては被疑侵害者が主張立証することになると思われます。

そして、このような技術的担保の存在も、利用者に過ぎない被疑侵害者とってはAI開発事業者等が公表していない限り通常知り得ないことですので、立証のために取りうる手段は、上記の著作権法上の書類提出命令、民事訴訟法上の文書提出命令や文書送付嘱託といった訴訟上の措置になるかと思われます。

侵害に対する措置について

著作権侵害が認められた場合、侵害者が受け得る措置としては、差止請求、損害賠償請求及び著作権侵害に基づく刑事罰があります。

差止請求が認められるためには侵害者の故意や過失は不要です。これに対し、損害賠償請求については侵害者に故意又は過失が認められることが必要です。また、刑事罰が科せられるためには、侵害者に故意が認められることが必要です。

これを踏まえて「考え方」では、AI 利用者が侵害の行為に係る著作物等を認識していなかった場合について、以下のとおり、受け得る措置は差止請求にとどまるとしつつ、不当利得返還請求(民法703条)は認められ得ると整理しています[13]

AI利用者が侵害の行為に係る著作物等を認識していなかったなどの事情により、著作権侵害についての故意又は過失が認められない場合においては、著作権侵害が認められたとしても、受け得る措置は、差止請求に留まり、刑事罰や損害賠償請求の対象となることはないと考えられる。

もっとも、AI 利用者が侵害の行為に係る著作物等を認識していなかった場合でも、AI利用者に対しては、不当利得返還請求として、著作物の使用料相当額として合理的に認められる額等の不当利得の返還が認められることがあり得ると考えられる。

依拠性の判断について②のケースとして前述したように、「考え方」は、AI利用者が認識していなかった著作物であってもAI学習用データにそれが含まれていた場合に、AI生成物が当該著作物に類似していれば、AI利用者に著作権侵害が成立し得ると整理しています。これは、学習用データに何が含まれるかを知り得ないAI利用者からすれば、予期せず侵害責任を問われる場合があることを意味します。

そうだとしても、AI利用者が受け得る措置は差止請求だけとなれば、AI利用者が受ける影響はある程度限定的とみることができる場合もあったかもしれませんが、「考え方」に記載のとおり、理論上は不当利得返還請求の可能性を排除できず、金銭請求を受けることがあり得るということです。

これはAI利用者のリスク管理上は重要な指摘であり、AI利用者はこのことを踏まえて社内等において生成AI利用のルールを構築していく必要があるでしょう。

侵害行為の責任主体について

著作権法では、著作権侵害の主体について、物理的に侵害行為を行った者以外の者が規範的な行為主体として著作権侵害の責任を負う場合があると解釈されています。これを規範的行為主体論などと呼びます。

これを踏まえ、「考え方」は以下のとおり、AI生成物の生成・利用が著作権侵害となる場合の侵害の主体になるのは当該AI利用者であるのが原則としつつ、いわゆる規範的行為主体論に基づき、当該生成AIの開発事業者やAIサービス提供事業者が侵害の主体として責任を負う場合があると述べています[14]

AI生成物の生成・利用が著作権侵害となる場合の侵害の主体の判断においては、物理的な行為主体49である当該AI利用者が著作権侵害行為の主体として、著作権侵害の責任を負うのが原則である。他方で、上記の規範的行為主体論に基づいて、AI利用者のみならず、生成AIの開発や、生成AIを用いたサービス提供を行う事業者が、著作権侵害の行為主体として責任を負う50場合があると考えられる。

著作権侵害となる生成物が生成・利用されている場合、通常はその利用者に対して生成物の使用の差止めや廃棄等の請求をすることになるでしょう。もっとも、あまりに同じ著作物の著作権侵害にあたる生成物が頻発する場合、利用者ではなくAI開発事業者等に対して何らかの請求を行うことができれば、より根本的な解決を図れる可能性があります。AI開発事業者等の責任を考える実益はここにあります。

もっとも、規範的行為主体論は、いかなる場合に直接の行為者でない者に侵害責任が認められるのか、その要件が事案ごとに問題となります。最近の判例である最判令和4年10月24日・民集76巻6号1348頁〔音楽教室事件〕や、最判平成23年1月20日・民集65巻1号399頁〔ロクラクⅡ事件〕では、利用行為に関わる諸要素を総合考慮して責任主体を判断する傾向になっており、その意味でも予見可能性は高くありません。

この点につき「考え方」は、上に引用した記述に続いて、「この点に関して、具体的には、以下のように考えられる。」と述べ、以下のように記載しています。

① ある特定の生成AIを用いた場合、侵害物が高頻度で生成される場合は、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まるものと考えられる。

② 事業者が、生成AIの開発・提供に当たり、当該生成AIが既存の著作物の類似物を生成する蓋然性の高さを認識しているにも関わらず、当該類似物の生成を抑止する措置を取っていない場合、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まるものと考えられる。

③ 事業者が、生成AIの開発・提供に当たり、当該生成AIが既存の著作物の類似物を生成することを防止する措置を取っている場合、事業者が侵害主体と評価される可能性は低くなるものと考えられる。

④ 当該生成AIが、事業者により上記の (略) ③の手段を施されたものであるなど侵害物が高頻度で生成されるようなものでない場合においては、たとえ、AI利用者が既存の著作物の類似物の生成を意図して生成AIにプロンプト入力するなどの指示を行い、侵害物が生成されたとしても、事業者が侵害主体と評価される可能性は低くなるものと考えられる。

これらの記載は一つの参考になるものですが、諸要素の総合判断の枠組みからすると、AI開発事業者等に生成・利用段階の侵害責任が認められるか否かは、これ以外の個別の具体的事情も考慮する必要があると思われます。

生成AIへの入力と著作権侵害の成否について

生成AIへ生成の指示を出す際は、プロンプトと呼ばれる単語や文章、あるいは画像等を入力することになります。このとき著作物を入力すれば、著作物の複製が生じ、それが他人の著作物であれば、入力自体が著作権侵害とならないかという問題があります。

この点について「考え方」は、以下のとおり、生成AIへの入力に伴う著作物の複製等については法30条の4(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)が適用され、適法となる旨を述べています[15]。法30条の4については前稿で説明していますので、ご参照ください。

この生成AIに対する入力は、生成物の生成のため、入力されたプロンプトを情報解析するものであるため、これに伴う著作物の複製等については、法第30条の4の適用が考えられる。

ただし、「考え方」では、享受目的が併存する場合は法30条の4は適用されないと整理されているところ、入力行為についても以下のとおり、生成AIに対する入力に用いた著作物と類似する生成物を生成させる目的で当該著作物を入力する行為は、享受目的が併存するため、法30条の4によって適法とはならない旨を述べています[16]

ただし、生成AIに対する入力に用いた既存の著作物と類似する生成物を生成させる目的で当該著作物を入力する行為は、生成AIによる情報解析に用いる目的の他、入力した著作物に表現された思想又は感情を享受する目的も併存すると考えられるため、法30条の4は適用されないと考えられる。

なお、実務的には、著作権者はAI生成物の利用行為を発見することで被疑侵害行為を知るのが通常であり、AI利用者が何を入力したのかを直接知ることは稀ではないかと思われます。そのため、実際の侵害紛争で入力行為が問題になるとすれば、生成・利用行為を端緒として、入力行為についても証拠又は推認可能な事実が得られたときに、入力行為の差止めも請求するといった流れが主に想定されます。

生成物の著作物性について

仮にAI生成物が著作物としての保護を受けられないとすると、AI利用者としては、例えば生成AIにより生成した画像を対外的に利用した場合において、その画像を第三者に模倣されたり無断で利用されたりしたとしても、著作権に基づく請求はできないということになります。これでは不都合があり得るため、AI成果物の著作物性について議論する実益があります。

この点についてまず「考え方」は、AIは法的な人格を有しないことから、法2条1項2号の「著作者」の定義「著作物を創作する者をいう。」のうち「創作する者」には該当し得ないとして、AI生成物が著作物に該当する場合もその著作者となるのはAI自身ではなく、当該AIを利用して「著作物を創作した」人であることを確認しています[17]

このことからすれば、人間が生成AIに対し簡単なプロンプトのみを与えてAIに生成させた場合など、AIが自律的に生成したといえるような場合は、生成物が著作物となるとは認められないでしょう。

次に「考え方」は、以下のとおり、AI生成物の著作物性は個別具体的な事例に応じて判断されるものであり、創作的寄与がどの程度積み重なっているか等を総合的に考慮して判断されるとし、その判断要素の例として、①指示・入力(プロンプト等)の分量・内容、②生成の試行回数、③複数の生成物からの選択について説明をしています[18]。これは、AI生成物が、AI利用者を著作者とする著作物たりうるかを検討する記述と理解されます。

AI生成物の著作物性は、個々のAI生成物について個別具体的な事例に応じて判断されるものであり、単なる労力にとどまらず、創作的寄与があるといえるものがどの程度積み重なっているか等を総合的に考慮して判断されるものと考えられる。例として、著作物性を判断するに当たっては、以下の①~③に示すような要素があると考えられる。

① 指示・入力(プロンプト等)の分量・内容

AI生成物を生成するに当たって、創作的表現といえるものを具体的に示す詳細な指示は、創作的寄与があると評価される可能性を高めると考えられる。他方で、長大な指示であったとしても、創作的表現に至らないアイデアを示すにとどまる指示は、創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。

② 生成の試行回数

試行回数が多いこと自体は、創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。他方で、①と組み合わせた試行、すなわち生成物を確認し指示・入力を修正しつつ試行を繰り返すといった場合には、著作物性が認められることも考えられる。

③ 複数の生成物からの選択

単なる選択行為自体は創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。他方で、通常創作性があると考えられる行為であっても、その要素として選択行為があるものもあることから、そうした行為との関係についても考慮する必要がある。

従来、人間が思想・感情を創作的に表現するための「道具」として生成AIを使用した場合であればAI成果物に著作物性が認められ、その要件は、人間の創作意図と創作的寄与であると考えられていました。「考え方」では上記のように、この創作的寄与について整理がされています。

「考え方」が、創作的寄与があるといえるものがどの程度「積み重なっているか」という表現を使っていることからは、例えば入力など一つの行為によって創作的寄与ありとして著作物性が認められる可能性は低く、様々な行為が合わさって総合的に判断された結果として著作物性が認められる場合があるとの理解を窺うことができます。その意味で、入力から生成までの行為によってAI生成物に著作物性が認められる可能性は、決して高くないように思われます。

これに対し、「考え方」は以下のとおり、人間がAI生成物に創作的表現といえる加筆修正を加えた場合は、AI生成物には著作物性が認められるとしています[19]

人間が、AI生成物に、創作的表現といえる加筆・修正を加えた部分については、通常、著作物性が認められると考えられる。もっとも、それ以外の部分についての著作物性には影響しないと考えられる。

以上からすると、著作物性を得るためには、そのまま利用せず、実質的な加筆・修正をすることが最も可能性が高いといえるでしょう。

コメント

本稿で取り上げた生成・利用段階と生成物の著作物性の整理は、生成AI利用者となる多くの企業にとっては重要です。

特に、生成・利用による著作権侵害の成否の問題は利用者にとっても関心が高いと思われるところ、従来議論があった依拠性の論点が整理されたことは、実務における一つの指針が得られたということができます。

もっとも、その整理の結果、生成物と類似する既存著作物が生成AIに学習されていれば、その既存著作物を利用者が何ら入力や認識していなくとも依拠性が推認され、著作権侵害が成立して差止請求と金銭請求を受け得るという点は、利用者にとっては注意が必要です。

このような侵害紛争の発生を可及的に回避するためには、利用する生成AIの学習用データについての情報を得られるような何らかの体制が構築されることが利用者にとっては望ましく、この点につき今後どのような展開があるか注目されます。また、利用者の間でも「考え方」を踏まえた利用が周知されることが、紛争回避の一助となるでしょう。

 

脚注
————————————–
[1] 「考え方」32頁
[2] 最判昭和53 年9月7日・民集32 巻6号1145 頁〔ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件〕等
[3] 「考え方」32頁
[4] 「考え方」33頁
[5] 「考え方」33頁
[6] 「考え方」33頁
[7] 「考え方」34頁
[8] 「考え方」34頁
[9] 「考え方」34-35頁
[10] 「考え方」33-34頁
[11] 「考え方」38頁
[12] 「考え方」38頁
[13] 「考え方」35頁
[14] 「考え方」36-37頁
[15] 「考え方」37頁
[16] 「考え方」37-38頁
[17] 「考え方」39頁
[18] 「考え方」39-40頁
[19] 「考え方」40頁

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(文責・神田雄)