本年(2017年)5月に土壌汚染対策法の改正法が成立・公布されました。本稿では、この改正法のうち、リスクに応じた規制の合理化のほか、土地の形質変更の届出・調査手続の迅速化、施設設置者による土壌汚染状況調査への協力に係る規定につき解説します。
ポイント
骨子
本年(2017年)5月の土壌汚染対策法の改正法では、一定の規制強化が行われる一方、土地の有効利用という観点からの規制緩和も行われています。
具体的には、①臨海部の工業専用地域の特例の新設と②汚染土壌の有効活用を目的とする規制緩和がなされることにより、汚染土壌を含む土地の有効利用が促進されることが期待されます。
また、土地の形質変更に際しては、届出→調査という段階を経ずに、調査結果の報告に併せて形質変更の届出を行うことが認められるようになりました。
その他、有害物質使用特定施設の設置者に対する調査への協力の努力義務も新設されました。
解説
法改正の概要
土壌汚染対策法(1)において引用した環境省の報道発表資料で公表された法改正の概要を以下に再掲します。本稿では、(3)及び(4)につき、解説します。
(1)土壌汚染状況調査の実施対象となる土地の拡大
調査が猶予されている土地の形質変更を行う場合(軽易な行為等を除く。)には、あらかじめ届出をさせ、都道府県知事は調査を行わせるものとする。(2)汚染の除去等の措置内容に関する計画提出命令の創設等
都道府県知事は、要措置区域内における措置内容に関する計画の提出の命令、計画が技術的基準に適合しない場合の変更命令等を行うこととする。(3)リスクに応じた規制の合理化
①健康被害のおそれがない土地の形質変更は、その施行方法等の方針について予め都道府県知事の確認を受けた場合、工事毎の事前届出に代えて年一回程度の事後届出とする。②基準不適合が自然由来等による土壌は、都道府県知事へ届け出ることにより、同一の地層の自然由来等による基準不適合の土壌がある他の区域への移動も可能とする。
(4)その他
土地の形質変更の届出・調査手続の迅速化、施設設置者による土壌汚染状況調査への協力に係る規定の整備等を行う。
リスクに応じた規制の合理化
改正法におけるリスクに応じた規制の合理化としては、大きく分けると、①臨海部の工業専用地域の特例の新設と②汚染土壌の委託義務に関する例外規定の創設があります。
臨海部の工業専用地域の特例の新設
土壌汚染対策法(1)において述べたとおり、形質変更時要届出区域に指定された土地については、形質変更を行う場合には、原則として、事前に都道府県知事への届出が必要です(第12条1項)。しかしながら、土地の状況からみて健康被害のおそれが低い場合にまで形質変更の度に事前届出を求めることは、工事や開発阻害する可能性がありました。
改正法では、下記(a)及び(b)の要件を満たす形質変更時要届出区域については事前届出を不要とし、一定期間毎にまとめて事後報告を行うこととしました(第12条1項但し書き)。
- (a) 土地の土壌の特定有害物質による汚染が専ら自然又は専ら土地造成に係る水面埋め立てに用いられた土砂に由来するものとして環境省令で定める要件に該当する土地であること
- (b)人の健康に係る被害が生ずるおそれがないものとして環境省令で定める要件に該当する土地であること
また、事後届出を可能とするためには、上記要件を満たすことについて、環境省令で定めるところにより、都道府県知事の確認を受けることが必要となります。
汚染土壌の委託義務に関する例外規定の創設
法律上、要措置区域や形質変更時要届出区域内の汚染土壌を搬出・処分するに当たっては、原則として事前届出を行い(第16条1項)、搬出は許可を有する土壌汚染処理業者に委託しなければならないとされています(第18条)。これらの義務については、従来の法律では例外規定は設けられていませんでした。
しかしながら、届出や許可を持つ処理業者への委託が義務付けられることにより工事が長期化するという問題がありました。また、こうした汚染土壌を一律に汚染土壌処理施設で処理をするのではなく、一定の場合には有効利用することの必要性も指摘されていました。
こうした点を踏まえ、改正法では、土壌汚染処理業者への委託義務に関する2つの例外規定を設けました。まず、自然由来特例区域(施行規則58条4項9号)の形質変更に際しては、搬出土壌を汚染状況及び地質が同質であるとして環境省令で定める別の自然由来特例区域において使用する場合には、搬出を土壌汚染処理業者に委託する必要がなくなりました(第18条1項2号)。
また、1つの土壌汚染状況調査の結果に基づき指定された複数の要措置区域間での汚染土壌の移動についても、土壌汚染処理業者への委託が不要となります(18条1項3号)。この規定は、1つの事業所で飛び地的に区域指定がされているような場合に活用されることを念頭におくものです。
土地の形質変更の届出・調査手続の迅速化、施設設置者による土壌汚染状況調査への協力
最後に、2018年4月1日施行予定の改正部分のうち、主なものとして上記2点を紹介します。
改正前の法律では、形質変更時要届出区域において形質変更を行う場合には、まず届出を行った上で、都道府県知事が調査命令を課す仕組みとなっていました(改正前の4条1項、2項)。しかし、有害物質使用特定施設の敷地等、調査命令が課されると見込まれる土地については、こうした段階を踏むことで調査完了までに時間を要するという現状がありました。
そこで、今回の土壌汚染対策法の改正では、土地の形質変更を行う者が事前に指定調査機関により調査をさせた上で、当該調査の結果を土地の変更時の届出と併せて都道府県知事に報告ができることになりました。この手続を採るためには、土地所有者全員の同意が必要となります(第4条第2項)。これにより、形質変更時要届出区域における工事の期間短縮が見込めます。
また、改正法は、指定調査機関が土壌汚染状況調査を行う際に、有害物質使用特定施設を設置していた者に対して、製造、使用、又は処理していた特定有害物質の種類等の情報を提供する努力義務を課しています(第61条の2)。土壌汚染のある土地の場合、汚染の原因行為はかなり過去にまで遡ることが珍しくありませんが、この規定により、過去の汚染原因についても明らかにされることが期待されます。
コメント
今回の改正による規制緩和により、臨海部の工業専用地域における規制緩和や汚染土壌の搬出規制の緩和等により、かつて工場として使われていた土地の再開発が促進されることが期待されます。
本解説は法改正のうち主なものに絞っていますが、これ以外にも細かな改正はあり、また、詳細な条件は今後整備される政省令に委ねられている部分が多くあります。改正により影響を受け得る事業者としては法改正及び政省令の内容について正確に把握しておく必要があるといえるでしょう。
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(文責・町野)
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