近年、日本でも「フェムテック」が注目されはじめ、昨年(2021年)はユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされました。フェムテックは、女性の健康課題やあらゆる社会問題の解決に資する社会的意義の大きな事業であり、今後いっそうの市場拡大が見込まれています。

しかし、フェムテックは日本では未だ黎明期の産業であるために、法的な観点から見た課題としては、①法制度が実態に追い付いておらず、フェムテックの普及の足かせとなっている点、②法規制の認知が不十分であり、違法な製品・サービスが流通し、フェムテックに対する安全性・信頼性が損なわれるおそれがある点、③女性投資家が少ないことも一因し、女性特有の健康課題に関する需要が伝わりにくいため、資金調達のハードルが高い点などが挙げられます。

そこで、フェムテックが国内外に、より広く、良質な状態で普及することを願い、複数号にわたって、フェムテックに関する法規制や法的課題について紹介します。

連載記事一覧

Vol.1(前号) フェムテックの近年の動向/広告表現の留意点①(導入)
Vol.2(本号) 広告表現の留意点②(経血吸水ショーツ等に関する近年の動き)
Vol.3(予定) ヘルスケアサービスアプリの開発・運営におけるデータの取扱いの留意点
       (生理管理アプリ等)
Vol.4(予定) 健康経営としてのフェムテック導入の留意点
       (月経・妊活・更年期のサポート等)

ポイント

骨子

  • 女性特有の健康課題は社会・経済に大きな損失をもたらしており、「フェムテック」はそれを先進的な技術を用いて解決しようとする取り組みであり、今後、更なる市場拡大が見込まれています。
  • フェムテック製品・サービスの広告表現には、薬機法をはじめとする法律による広告規制が適用される場合が多くあります。
  • 薬機法の広告規制は、広告主のみならず、メディアやインフルエンサー等も対象となるため、注意が必要です。

解説

フェムテックの近年の動向

フェムテックとは何か?

「Femtech(フェムテック)」は、「Female(女性)」と「Technology(技術)」をかけあわせた造語です。確立された定義はありませんが、次のように定義されることがあります。

フェムテックが解決しようとする女性及びそのパートナー特有の健康課題として特に注目されているものに次のものがあり、これらがもたらす社会的・経済的損失は大きなものです。

①月経随伴症状

②不妊治療・妊活

③更年期の諸症状

④その他

  • 産後ケア(うつ症状など)、婦人科系疾患(乳がん、子宮頸がん、子宮内膜症など)、セクシャルウェルネス(セクシュアリティに関連する身体的、感情的、精神的、社会的幸福の状態)など。
なぜ今、フェムテックが注目されているのか?

女性の健康問題がこれまで大きく取り上げられてこなかった理由には、女性の健康問題はタブー視される傾向が強かったことや、米国では1993年まで主に男性の臨床データをもとに医学研究が行われてきたとの歴史的背景があります(米国では1977年から1993年まで、妊娠可能な女性を初期の医薬品試験に参加させないとのガイドラインが存在し、FDA(アメリカ食品医薬品局/Food and Drug Administration)が臨床試験に女性を参加させることを義務付けたのは1994年になってのことです。)。

昨今、徐々に女性特有の健康課題が浮き彫りになり、欧米では2010年頃よりフェムテック事業が活発になっていました。日本でも、女性活躍・男女共同参画社会への意識の高まりや、健康志向の高まりなどにより、フェムテックに注目が集まっています。

政府も、フェムテックの推進に取り組むことを宣言しています。2021年の「骨太の方針」をはじめとし、「女性活躍・男女共同参画の重点方針2021」(18頁)や「成長戦略フォローアップ」(令和3年6月18日閣議決定)(91頁)において、「フェムテックの推進」の文言が盛り込まれています。
また、経済産業省は、令和3年度と本年度は、「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」を各年度につき20事業に拠出することとされています。

これらの政策の後押しもあり、日本でも更なるフェムテック関連事業が拡大されること見込まれます。

フェムテックの法規制

ひと口に「フェムテック」といっても、その製品やサービスはさまざまであるため、適用される法規制もまたさまざまです。
フェムテック事業に参入する場合にフェムテックの法規制を把握する手段としては、ヘルスケアに関する法律書籍が参考になるものと思われます。
もっとも、フェムテック製品・サービスには比較的新しいものが多いため、法規制の対象か否かが不明確なものが存在する点や、情報のアップデートが絶えず必要な点が特徴的と思われます。
そこで、本記事では、フェムテックに特徴的と思われる点に重きをおいて、法規制の一部を取り上げます。

広告表現の留意点

広告表現を規制する法律(薬機法、景品表示法、その他)

フェムテック製品・サービスに適用され得る広告規制の代表的なものに、次の法律があります。

1.薬機法
薬機法(正式名称:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)は、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品(以下、これらを総称して「医薬品等」といいます。)の品質・有効性・安全性の確保と、医薬品等の使用による保健衛生上の危害の発生・拡大の防止のために必要な規制等を行うことにより、保健衛生の向上を図ることを目的とする法律であり、医薬品等の広告が適正に行われるためのルールが定められています(薬機法66条〜68条)。薬機法に広告規制があるのは、医薬品等は、効能・効果が目に見えづらいとの性質から、これらを使用するかどうかの判断が製造販売業者から提供される情報に依拠して行われやすいとの特徴があり、提供される情報が不正確であると医薬品等の不適正使用により健康被害をもたらすおそれがあるためです。(どのようなものが薬機法の規制対象となるかについては、次項目で解説します。)

薬機法の広告規制に関する条項
第66条(虚偽・誇大広告の禁止)
1 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。
2 医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の効能、効果又は性能について、医師その他の者がこれを保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告し、記述し、又は流布することは、前項に該当するものとする。
3 (省略)

第67条(特殊疾病用の医薬品等の広告の制限)
(がん、肉腫及び白血病に使用されることが目的とされている場合の規定のため省略)

第68条(承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止)※意訳
何人も、……(※製造販売に承認又は認証を要する)医薬品若しくは医療機器又は再生医療等製品であって、まだ(※所定の)承認又は認証を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない。

医薬品等の広告にかかる実際の監視指導で活用されている基準

以上の規定・基準に関する重要なポイントは3点です。

1点目は、広告規制の名宛人が「何人も」とされている点です。
そのため、広告主である製造販売業者や販売業者等のみならず、例えば、広告媒体であるメディアやインフルエンサーも、広告規制の対象となり得ます。
また、薬機法上、医薬品等は、その有効性や安全性について審査を受け、承認または認証を受けたもののみが流通することが許容されているため、承認または認証を受けていない医薬品等の購買を誘引する広告を行うことは当然に禁止されています(68条)。薬機法上の承認や認証を受けていない医薬品等を取り扱う場合も、広告規制を逃れることはできません。
実際に、自らが薬機法上の広告規制を受けると気づかずにこれに違反している事例が多発しているため、注意が必要です。

2点目は、「虚偽」広告のみならず、「誇大」広告をも禁止している点です。
「虚偽」広告への該当性については、医薬品等の名称、製造方法、効能、効果または性能は、その内容が製造販売承認により明確になっているため、製造販売承認どおりに広告を行えば特に問題は生じないものと思われます。
他方で、「誇大」広告への該当性は特に注意が必要です。誇大な記事を広告するとは、実際のものより優良または有利であると誤認させる広告をすることをいいます。例えば、医薬品等の長所を大げさに示す標榜を行う場合、グラフのメモリ等を加工することにより医薬品等の効果をより優良に見せる場合、論文等から優位性を示せる一部のデータのみを掲載し、不利な情報について掲載しない場合などは、誇大な広告に該当します。

3点目は、66条1項(虚偽・誇大広告の禁止)に違反した場合、行為者に2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金又はその両方の刑罰が、法人に200万円以下の罰金刑が科せられるほか(85条4号、90条2項)、2021年8月から、66条1項又は68条(承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止)違反には措置命令(72条の5)が、66条1項違反には課徴金納付命令制度(75条の5の2以下)が導入されたことです。薬機法違反を理由とする措置命令や課徴金納付命令の実績はまだありませんが、これらの制度の導入により、近時、広告規制への意識が高まっています。(なお、上記2点目で例示した広告媒体であるメディアやインフルエンサーが行う取引は、課徴金納付命令の対象外であり、措置命令の対象にとどまります(「課徴金納付命令に係る対価合計額の算定の方法に関するQ&Aについて」(令和3年7月6日付事務連絡 厚生労働省医薬・生活衛生局 監視指導・麻薬対策課)Q1参照)。

2.景品表示法
広告のうち、一般消費者に対して行われるものは景品表示法(正式名称:不当景品類及び不当表示防止法)の不当表示規制(景品表示法5条。優良誤認表示・有利誤認表示の禁止)の対象にもなります(これは、薬機法のように医薬品等に特有の法律ではありません。)。

3.その他
上記のほかにも、例えば、医療広告には医療法の広告規制が、食品を販売する場合は健康増進法、食品表示法、食品衛生法の広告規制が、通信販売・インターネット通信販売を行う場合は特定商取引法の広告規制などが存在します。

以下では、薬機法とフェムテックの関係に絞って解説します。

薬機法の規制対象である「医療機器」と「医薬部外品」の定義

薬機法の規制対象は、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品であり、フェムテック製品には、このうち「医療機器」(薬機法2条4項)や「医薬部外品」(薬機法2条2項)に該当するものが多くあります。

医療機器」とは、①人・動物の疾病の診断・治療・予防に使用され、又は、人・動物の身体の構造・機能に影響を及ぼすことを目的とされている、②機械器具等(再生医療等製品を除く。)であって、③政令(薬機法施行令1条・別表第1)で定めるものをいいます。厚生労働大臣は、この医療機器を、リスクに応じて「高度管理医療機器」「管理医療機器」「一般医療機器」に分けて指定することとされており(薬機法2条5~7項)、厚生労働大臣が指定している医療機器の一般的名称は、令和4年4月末日現在で4,422もの数に及びます。
フェムテック製品では、「生理用タンポン」が、従来から厚生労働大臣により一般医療機器に指定されているものの一つとして挙げられます。

また、「医薬部外品」には、①上記①の目的のために使用される物のうち、②厚生労働大臣が指定するものであって、③人体に対する作用が緩和なものがあります(薬機法2条2項3号)。
フェムテック製品では、例えば、「生理処理用品(経血を吸収処理することを目的として製造された綿類(紙綿類を含む。))」が厚生労働大臣により医薬部外品に指定されており(「都道府県知事の承認に係る医薬部外品」(最終改正平成29年3月2日厚生省告示第194号))、いわゆる「生理用ナプキン」はこれに該当します。
なお、「生理処理用」の効能又は効果をうたう医薬部外品の製造販売承認の審査は、以下の基準に基づいて行われます。

フェムテックが抱える薬機法上の課題

前記の医療機器や医薬部外品に関する説明のとおり、「医療機器」の範囲は厚生労働大臣の指定がなされて初めてその区分や一般的名称が明確になり、「医薬部外品」には、厚生労働大臣が指定して初めて医薬部外品となるものがあります。このように、「医療機器」や「医薬部外品」への該当性の判断では、厚生労働大臣の指定の有無やその定義の解釈が重要になります。
しかし、フェムテック製品には新しいものが多いため、「医療機器」や「医薬部外品」としての厚生労働大臣の指定が追い付いていないものや、既に指定されているものの定義の解釈が問題となる製品が多く存在し、薬機法上の規制対象か否かが不明確である、あるいは、承認等の申請を行いづらいなどの問題を抱えています。

コメント

近年、フェムテックが抱える薬機法上の課題を解決する動きが活発になっています。
次号では、近年、薬機法上の位置付けが明確になった製品等について、情報をアップデートする予定です。

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(文責・角川)

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Vol.4(予定) 健康経営としてのフェムテック導入の留意点
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