2017年8月7日、タイ政府はマドリッド協定議定書への加入書をWIPO(世界知的所有権機関)事務局長に寄託し、タイはマドリッド制度の99番目の締約国となりました。また、2017年10月2日、同じくインドネシア政府もマドリッド協定議定書への加入書をWIPO事務局長に寄託し、100番目の加盟国となりました。

タイについてのマドリッド協定議定書は2017年11月7日に発効され、インドネシアについては2018年1月2日に発効されますので、それぞれの国について、発効日からマドリッド制度を利用した出願の際に指定可能となります。ここ数年の間にカンボジア、ラオス、ブルネイが加盟し、今回タイとインドネシアが加盟することとなりましたので、東南アジアの多くの国をマドプロ出願で指定できるようになります。

本稿では、タイ及びインドネシアが加盟するマドリッド協定議定書について説明します。また、昨年、マドリッド制度加盟に向けてタイ商標法及びインドネシア商標法が改正されましたので、その改正点についても説明したいと思います。

ポイント

  • 2017年8月7日、タイ政府がマドリッド協定議定書への加入書をWIPO事務局長に寄託し、タイがマドリッド制度の99番目の締約国となりました。タイについてのマドリッド協定議定書は2017年11月7日に発効され、この日からマドリッド制度を利用した出願の際にタイを指定することができます。
  • 2017年10月2日、インドネシア政府がマドリッド協定議定書への加入書をWIPO事務局長に寄託し、インドネシアがマドリッド制度の100番目の締約国となりました。インドネシアについてのマドリッド協定議定書は2018年1月2日に発効され、この日からマドリッド制度を利用した出願の際にインドネシアを指定することができます。
  • 昨年、マドリッド制度加盟に向けてタイ商標法及びインドネシア商標法が大幅に改正されました。

解説

マドリッド協定議定書とは

マドリッド協定議定書(マドリッドプロトコル)は、マドプロの通称で親しまれており、本国における商標出願・登録を基礎として、本国官庁を経由して他の加盟国に商標出願し、保護を確保できることを内容とする条約です。

通常、外国に商標出願する場合、外国の代理人に出願手続きを依頼することになるため、外国代理人の手数料が発生しますが、マドプロ出願の場合には当該手数料が発生しませんので、大幅に費用節減することができます。また、複数の外国への出願を一つの国際登録にまとめることができますので、管理の面でも有利といえます。なお、国際登録出願後に指定国を追加することができる事後指定の制度もありますので、後から追加したい国が発生しても、一つの国際登録でまとめることができます。

一方で、注意点もあります。マドプロ出願を行うためには、本国で基礎となる商標出願又は商標登録の存在が必要となりますが、基礎出願が最終的に拒絶となったり、基礎登録が無効若しくは取り消しとなった場合、国際登録も取り消されることとなります(いわゆる「セントラルアタック」)。また、加盟国によっては登録証が発行されないことがあります。例えば、マドプロ出願で中国を指定し、登録になった場合、登録証は発行されませんので、必要であれば、改めて登録証の発行を請求しなければなりません。

タイ及びインドネシア加盟後のマドプロ出願において指定可能な東南アジアの国々は以下の通りです。なお、マレーシア、ミャンマーといった一部の国は未だ加盟しておりません。

  • フィリピン
  • ベトナム
  • ラオス
  • カンボジア
  • シンガポール
  • ブルネイ
  • タイ
  • インドネシア

マドプロ出願の手続フロー

まず、マドプロ出願をするにあたっては、本国において基礎となる商標出願又は商標登録があるか否かを確認する必要があります。基礎となる商標出願又は商標登録がなければマドプロ出願を行うことができませんので、その場合、本国官庁へ商標出願を行う必要があります。なお、商標出願を基礎とする場合、当該出願が拒絶となれば、国際登録も取り消しとなるため、商標調査を行い、登録可能であるか否かを確認しておくことが肝要です。

次に、基礎となる商標出願又は商標登録がある本国官庁を通じてWIPOに出願することになります。方式審査の後、国際登録商標の内容が国際登録簿に記録され、公報が発行されることになります。WIPOは出願人に対して国際商標登録証を送付し、指定国に国際登録の通報を行います。

そして、各指定国での実体審査が開始されます。指定国官庁は、一定の期間(12か月又は18か月)以内に登録の可否について判断し、この期間に拒絶の通報がなければ保護を確保することができます。なお、今回加盟したタイはマドリッド協定議定書第5条(2)(b)及び(c)の宣言をおこなっているため、保護の拒絶通知期限は18か月に延長され、18か月の期限を満了しても異議申立を通報することが可能となっております。また、インドネシアはマドリッド協定議定書第5条(2)(b)の宣言をおこなっており、保護の拒絶通知期限は18か月に延長されます。

タイ商標法の改正内容

マドプロ加盟に先立って施行されたタイの改正商標法における主な改正点は以下のとおりです。

  1. 連合商標制度の廃止
  2. 改正前は、同一人が所有する類似関係にある商標の登録を受けるために、連合商標にする必要がありましたが、当該制度は廃止されることとなりました。

  3. 一商標多区分制度への変更
  4. 一商標一区分出願制度でしたが、多区分出願が可能となりました。

  5. 商標の定義の拡大
  6. 音の商標が定義に追加され、登録可能となりました。

  7. 識別力を欠く標章に関する使用証拠の変更
  8. 使用により識別力を有するに至ったことを立証できる標章の制限がなくなり、識別力を欠くすべての標章について、使用により識別力を獲得した場合、登録が認められることとなりました。

  9. 応答期限等の変更
  10. 庁からの通知に対する応答期限や異議申立期間が90日から60日に短縮されました。

  11. 更新におけるグレースピリオド(猶予期間)の導入
  12. 存続期間満了日から6か月間は、追加費用の支払いにより、更新手続きを行うことができることとなりました。

  13. 政府手数料の変更
  14. 以前は商品・役務の個数によって費用が変動していましたが、5個までは個数に応じて政府手数料が課され、6個以上は一律金額となりました。

  15. マドプロに関する規定の追加
  16. セントラルアタックに関する規定など、マドプロ加盟に向けた規定が追加されました。

インドネシア商標法の改正内容

マドプロ加盟に先立って施行されたインドネシアの改正商標法における主な改正点は以下のとおりです。

  1. 商標の定義の拡大
  2. 立体商標、音の商標、ホログラム商標が定義に追加され、登録可能となりました。

  3. 商標譲渡に関する変更
  4. 改正前は登録商標のみ商標の譲渡が認められておりましたが、改正後は出願中の商標についても譲渡が認められることとなりました。

  5. 公告に関する変更
  6. 出願公告が出願日から15日以内に行われることとなりました。また、異議申立のための公告期間が3か月から2か月に短縮されました。

  7. 更新期間の変更とグレースピリオド(猶予期間)の導入
  8. 改正前の更新期間は存続期間満了前12か月以内でしたが、6か月以内に短縮されました。また、存続期間満了日から6か月間は、追加費用の支払いにより、更新手続きを行うことができることとなりました。

  9. マドプロに関する規定の追加
  10. マドプロ加盟に向けた規定が追加されました。

コメント

近年、日本からタイ、インドネシアへの商標出願は増加しているため、数年前にマドプロ加盟の話が出てから、時期について問い合わせをいただくことが多くありました。昨年の商標法改正から加盟にむけての準備が加速し、ようやくの加盟となります。

タイ及びインドネシアの加盟により、マドプロ出願の際に、ベトナムやシンガポール等の東南アジア諸国とともにタイやインドネシアを指定国に含める機会が増えてくると思われますが、上述したとおり、マドプロの利用にはデメリットもありますので、事案によってはそれらの国に直接出願したほうがよい場合もあります。例えば、タイは、他の国に比べ指定商品・役務の表示に関して厳格であるため、注意が必要です。拒絶通知を受けることになると、結局、外国代理人に依頼し、その手数料が発生することになってしまいます。

このように、マドプロ制度には注意しなければならない点がありますが、多くの国に対して外国出願を行う場合、費用面や管理面のメリットを考えると非常に魅力的な制度ですので、マドプロ出願と直接出願のいずれが適切か十分検討していただいたうえで、有効活用していただきたいと思います。

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(文責・前田)