2017年8月11日、中華人民共和国上海市第一中級人民法院は、SIAC(シンガポール国際仲裁センター)規則2013に基づき下された簡易仲裁判断(Expedited Arbitration Award)の執行を拒絶しました。仲裁条項のドラフティングに関して重要な教訓のある判決です。

ポイント

骨子

  • 仲裁人を3名とする仲裁合意があり、かつ、一方当事者の異議があるにもかかわらず、SIAC(シンガポール国際仲裁センター)規則2013に基づき、単独仲裁人による簡易仲裁手続を進めた場合には、その仲裁判断は、仲裁合意に違反し、中国国内における執行を拒絶される。

判決概要

裁判所 中華人民共和国上海市第一中級人民法院
判決言渡日 2017年8月11日
事件番号 (2016)沪01协外认1号
裁判官 裁判長 黄英
裁判官 杨苏
裁判官 任明艳

解説

国際仲裁(International Arbitration)とは

仲裁とは、当事者が、紛争の解決を第三者たる仲裁人に委ね、かつ、仲裁人の判断に服する旨を合意する手続を意味します。

そして、国際仲裁とは「国際」性を有する仲裁手続を意味しますが、例えば、日本仲裁法のように国内・国外の仲裁手続を分けない場合もあれば、シンガポールのように両者を区分して異なる規律を設ける国もあり、万国共通の定義を設けることはなかなか難しい状況です。もっとも、実務上は、当事者が異なる国に所在する場合には国際仲裁と呼ぶことが多いといえます。

訴訟と比較した場合、国際仲裁には、全世界的な執行可能性、非公開性、手続の柔軟性、終局性、自由な仲裁地の選択可能性等のメリットがあるといわれています。

ニューヨーク条約による全世界的な執行可能性

上記の各特徴のうち、国際仲裁の最大の利点は、ニューヨーク条約による全世界的な執行可能性です。

ニューヨーク条約は、その正式名称を「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」(The Convention on the Recognition and Enforcement of Foreign Arbitral Awards)といい、1958年に国連で作成された外国仲裁判断の執行等に関する条約です。

ニューヨーク条約の加盟国を仲裁地とする仲裁判断に関しては、加盟国内での執行が自由に認められているところ、その現在の加盟国は、日本、中国、シンガポール、アメリカ、ヨーロッパ諸国を含む世界157カ国であり、国際仲裁判断の全世界的な執行可能性が認められているといわれている所以です。ただし、具体的な執行手続については、各国の仲裁法に拠るため、実務上は留意が必要です。

本件で問題となった中国では、伝統的に外国判決の国内執行が認められておらず、したがって、同国における執行を視野に入れる場合には、国際仲裁を紛争解決として選択することは実務上の工夫の一つとされています。

なお、中国は本年9月に「国際裁判管轄の合意に関するハーグ条約」(Hague Convention of 30 June 2005 on Choice of Court Agreements)に署名しており、同条約が同国で批准され、かつ今後世界的に普及するのであれば、国際訴訟における判決も全世界的に執行できるようになる可能性があるため、その動向も注目されています。

シンガポール国際仲裁センター(SIAC)

シンガポール国際仲裁センター(Singapore International Arbitration Centre。略称「SIAC」)は、1991年に開設されたシンガポールの仲裁機関です。

汚職の少なさ、地理的利便性、英国法体系の法制度、国を挙げての支援等の各要因が相俟って、シンガポールを仲裁地とするSIAC仲裁は、日系企業が東南アジア地域の企業と契約を締結するに際して多く採用されています。

簡易仲裁(Expedited Arbitration)

簡易仲裁手続とは

簡易仲裁(Expedited Arbitration, Fast-Track Arbitration)とは、国際仲裁の長期化等に対する懸念から設けられた、通常よりも簡易迅速に仲裁手続を進める制度で、ICC(国際商工会議所)やSIAC(シンガポール国際仲裁センター)、HKIAC(香港国際仲裁センター)、JCAA(日本商事仲裁協会)等の各仲裁機関で採用されています。

その具体的な内容は仲裁機関に拠るものの、一般的には、請求額の上限等の要件が課せられ、また、手続としては、単独仲裁人の選任、主張書面の数の制限、当事者の合意がある場合の書面審理の採用、短期間(基準日から6ヶ月以内等)の判断等の特徴があります。

例えば、SIACの最新規則であるSIAC Rules 2016(以下「SIAC規則2016」といいます。)第5.2条では以下のとおり定められており、原則として仲裁廷構成から6ヶ月以内に仲裁判断が下されます。筆者が同規則の下、代理人を務めた案件でも単独仲裁人の選任後6か月で仲裁判断が下されており、実務上も原則として、同規則に沿う運用がなされています。

  • 書記官は本規則に基づくいずれの期限も短縮することができる。
  • 裁判所長が別段の決定をしない限り、事案は単独仲裁人に付託される。
  • 仲裁廷は全当事者と協議の上で当該紛争が書証のみを根拠として判断されることになるか否か、又は、審問があらゆる口頭の議論だけでなくあらゆる証人及び専門家証人の尋問のために要求されるか否かを決定することができる。
  • 終局的仲裁判断は、例外的に書記官がかかる終局的仲裁判断を下すための期間を延長しない限り、仲裁廷構成の日から6ヶ月以内に決定される。…
  • 仲裁廷は、終局的仲裁判断に判断の理由が与えられない旨に全面的に合意している場合を除き、簡潔な形式を用いて終局的仲裁判断の判断の理由を述べることができる。

本件で問題とされた簡易仲裁手続は、最新のSIAC規則2016ではなく、SIAC Rules 2013(以下「SIAC規則2013」といいます。)に基づくものですが、本件の関係では、前者では、上限請求額がSGD6,000,000であるのに対して、後者ではSGD5,000,000とされていることや、仲裁合意との調整規定の有無等の違いがあります。

簡易仲裁手続と仲裁合意の緊張関係

仲裁規則において、簡易仲裁手続が自動的に適用される旨定められている場合、もしも、仲裁合意において、簡易仲裁手続に反する合意をしていたとき、どちらが優先されるのか、ということは、実務上問題となり得ます。

そして、本件では、仲裁合意が3名の仲裁人を明記しているのに対して、SIAC規則2013上は、単独仲裁人とされていることから、いずれが優先されるかが問題となりました。本判決では、後ほど説明するとおり、仲裁合意が優先されましたが、逆に、シンガポールではAQZ v ARA [2015] SGHC 49において、仲裁合意で3名の仲裁人の選任が定められている場合でも、SIAC Rules 2010の簡易仲裁に関する定めが優先し、その結果、仲裁人を1名とする旨の合意があった旨の判断が下されています。

なお、AQZ v ARA判決を受けて、SIAC規則2016は、第5.3条において、次のとおり仲裁規則が優先される旨明記しています。

5.3 本規則に基づく仲裁に合意することにより、全当事者は、仲裁手続が第5項に基づく簡易手続に従って行われる場合、第5.2項に規定された規則及び手続は、仲裁合意が反対の定めを含む場合でも適用されることに合意することとなる。

これに対して、HKIAC(香港国際仲裁センター)の2013HKIAC管理仲裁規則では、以下のとおり、仲裁合意の定めが優先することが明記されており、仲裁機関によってその取り扱いが異なっている状況です。

41.2 HKIACが当事者の意見を検討した後、41条1項によりなされた申請を許可した場合、仲裁手続は、以下のような必要な変更を加えたうえで、本規則の上記規定に基づく簡易手続に従って行われるものとする。

(a) 仲裁合意で三人の仲裁人が定められている場合を除き、事案は、単独仲裁人に付託されるものとする。

(b) 仲裁合意で三人の仲裁人が定められている場合であっても、HKIAC は、当事者に対して事案を単独仲裁人に付託するよう要請するものとする。当事者が合意に至らなかった場合、 事案は、三人の仲裁人に付託されるものとする。

仲裁判断に対する裁判所の審判

訴訟と異なり、仲裁は1回的な手続であり、したがって、控訴等の裁判所による事後的な審判が認めらないことが原則です。

もっとも、裁判所の事後的な審判を仰ぐ例外的な手続として、①仲裁地裁判所における仲裁判断の取消しと、②執行地裁判所における執行拒絶の2つがあります。

本件では②執行拒絶が問題とされていますが、主張可能な事由は、各国の仲裁法の定めに拠るものの、下記のニューヨーク条約第5条と同様の定めが設けられている国が多いといえます(本件では5条1項d項が問題となりました。なお、訳文は、JCAAウェブサイトに拠ります。)。

第5条
1. 判断の承認及び執行は、判断が不利益に援用される当事者の請求により、承認及び執行が求められた国の権限のある機関に対しその当事者が次の証拠を提出する場合に限り、拒否することができる。

(a) 第2条に掲げる合意の当事者が、その当事者に適用される法令により無能力者であったこと又は前記の合意が、当事者がその準拠法として指定した法令により若しくはその指定がなかったときは判断がされた国の法令により有効でないこと。

(b) 判断が不利益に援用される当事者が、仲裁人の選定若しくは仲裁手続について適当な通告を受けなかったこと又はその他の理由により防禦することが不可能であったこと。

(c) 判断が、仲裁付託の条項に定められていない紛争若しくはその条項の範囲内にない紛争に関するものであること又は仲裁付託の範囲をこえる事項に関する判定を含むこと。ただし、仲裁に付託された事項に関する判定が付託されなかった事項に関する判定から分離することができる場合には、仲裁に付託された事項に関する判定を含む判断の部分は、承認し、かつ、執行することができるものとする。

(d) 仲裁機関の構成又は仲裁手続が、当事者の合意に従っていなかったこと又は、そのような合意がなかったときは、仲裁が行なわれた国の法令に従っていなかったこと。

(e) 判断が、まだ当事者を拘束するものとなるに至っていないこと又は、その判断がされた国若しくはその判断の基礎となった法令の属する国の権限のある機関により、取り消されたか若しくは停止されたこと。

2 仲裁判断の承認及び執行は、承認及び執行が求められた国の権限のある機関が次のことを認める場合においても、拒否することができる。

(a) 紛争の対象である事項がその国の法令により仲裁による解決が不可能なものであること。

(b) 判断の承認及び執行がその国の公の秩序に反すること。

実際、中国民事訴訟法283条は以下のとおり、その執行拒絶事由を国際条約(ニューヨーク条約)による旨定めています(訳文はJETROウェブサイトに拠ります。)。

第283条 国外の仲裁機構の判断について、中華人民共和国の人民法院の承認及び執行を必要とするものは、当事者が直接に被執行人の住所地又はその財産所在地の中級人民法院に申し立てなければならない。人民法院は、中華人民共和国が締結し、若しくは参加している国際条約により、又は互恵の原則に従い処理しなければならない。

なお、中国における執行拒絶の特徴的な制度として、逐級報告制度があります。同制度は、1995年の最高人民法院通知により導入されたもので、中級人民法院が外国仲裁判断の執行を拒絶しようとする場合には、①高等人民法院に報告し、その判断を仰ぎ、もしも、高等人民法院もかかる判断に同意する場合には、②最高人民法院へこれを更に報告し、最高人民法院が同意する場合に初めて執行を拒絶することができます。
したがって、中国において執行拒絶判決が下される場合には、原則として中国最高人民法院のお墨付きがあることになり、その実務上の影響は必ずしも小さくありません。

本件の事案

本件は、シンガポール企業Noble Resources International Pte Ltd(以下「Noble社」といいます。)と、中国企業であるShanghai Good Credit International Trade Co., Ltd.(上海信泰国際貿易有限公司。以下「Good Credit社」といいます。)との間の紛争です。

本件では、SIAC仲裁判断の執行拒絶が問題とされていますが、同仲裁手続に関する事実関係は以下のとおりです。

2014年10月29日 Noble社とGood Credit社は、Noble社を売主、Good Credit社を買主とする、鉄鉱売買契約(以下「本件契約」といいます。)を締結した。当該契約は、輸出入標準契約の定めを一体のものとしていたところ、当該標準契約の16.1条には、紛争解決手段として、契約締結時において有効なSIAC規則に基づくシンガポール国際仲裁が定められており、また、同16.1.1条には、仲裁人の数を3名とする定めがあった(以下「本件仲裁合意」といいます。)。
Good Credit社が、売買代金について信用状を交付できなかったことから、同契約は解除された。
2015年1月14日 Noble社は、Good Credit社を相手方として、SIAC仲裁を申し立て、また、簡易仲裁(Expedited Arbitration)に付すことを求めた(請求額はSGD5,000,000を下回っていた。)
2015年1月29日 Good Credit社は、SIACに対して、書面により、簡易仲裁手続に異議を唱え、3名の仲裁人による仲裁を求めた。
2015年2月6日 Good Credit社は、再び、SIACに対して、書面により、簡易仲裁手続に異議を唱え、3名の仲裁人による仲裁を求めた。
2015年2月17日 SIACは本件仲裁を簡易仲裁手続により進める旨の決定をした。
2015年2月27日 Good Credit社は、再度、SIACに対して、書面により、簡易仲裁手続により仲裁を進めることに異議を唱え、3名の仲裁人により仲裁廷を構成することを求めた。
2015年3月3日 SIACは当事者間に単独仲裁人の選任について合意が成立しなかったため、当事者に対して、SIAC規則2013第5.2条に従い、SIAC所長が単独仲裁人を選任する旨を通知した。Noble社はGood Credit社に対して、仲裁人3名の費用をGood Credit社が負担するのであれば、仲裁人3名による手続に合意する旨通知した。
2015年3月5日 Noble社は、SIACに対して、Good Credit社が期限内に回答しなかったことから、3月3日の申出は効力を失い、したがって、仲裁手続を進めることを求める旨通知した。SIACは、当事者に対して、SIAC規則2013第5.2条に従い、SIAC所長が単独仲裁人を選任する旨を通知した。
2015年4月20日 SIAC副所長は、単独仲裁人を選任した。その後、仲裁廷は期日を設けたものの、Good Credit社は出廷しなかった。
2015年8月26日 仲裁廷は仲裁判断を下し、Good Credit社に対して、USD1,603,100の支払いを命じた(以下「本件仲裁判断」といいます。)。

上記により得られた本件仲裁判断について、Noble社が、中国本土において、執行申立をしたところ、Good Credit社はニューヨーク条約5条1項d項及び中国民事訴訟法283条違反を理由としてその執行拒絶を求めました。Good Credit社が主張した理由の中で問題となったのは、単独仲裁人による簡易仲裁手続が仲裁人を3名とする仲裁合意の範囲内であったか否かです。

判示事項

人民法院は、以下の理由付けにより、Good Credit社の主張を認め、本件仲裁判断の執行を拒絶しました。

第1に、人民法院は、本件契約に、本件仲裁合意が有効に取り込まれていると述べた上で、本件仲裁合意が、3名の仲裁人について定めている以上、仲裁廷の構成はかかる仲裁合意に従う必要があったと認定しました。

第2に、人民法院は、本件を簡易仲裁手続に付することが当事者の合意に合致するかを問題とした上で、本件で適用されるSIAC規則2013第5.1条が以下のとおり定めていることを判示します。

5.1 以下の基準のいずれかが満たされた場合には、仲裁廷が完全に構成される前に、当事者は仲裁手続が本項に基づく簡易手続に従って行われるように書面で書記官に申請することができる。

a. 紛争中の金額が、請求額、反対請求額及び一切の相殺抗弁額を累計して5,000,000シンガポールドル相当を超えない場合。

b. 全当事者がその旨合意した場合。又は

c. 例外的に緊急な事案の場合。

その上で、本件の請求額がSGD5,000,000を下回っていることから、簡易仲裁手続を利用したこと自体は当事者の合意に反していないことを認めました。

第3に、人民法院は、仲裁廷の構成が当事者の合意に即するものであるかを問題とし、まず、SIAC規則2013第5.2条が以下のとおり定めていることを述べます。

5.2 当事者が第5.1項に基づいて書記官に申請した場合で、所長が全当事者の意見を検討した後、仲裁手続は簡易手続に従って行われるべきであると決定したときには、以下の手続が適用される。…

b. 所長が別段の決定をしない限り、事案は単独仲裁人に付託される。

その上で、人民法院は、SIAC規則2013は、①簡易仲裁手続に関して、1名以外の仲裁人により仲裁廷を構成することを否定しておらず、②3名の仲裁人の選任について当事者が合意している場合にまで、SIAC所長(President)が、同規則第5.2条(b)の1名の仲裁人を選任することができることも定めていないことを説明します。

そして、人民法院は、同規則第5.2条(b)が、「所長が別段の決定をしない限り、事案は単独仲裁人に付託される」と定めていることは、SIAC所長に、仲裁廷の構成に関して絶対的な決定権を付与するものではなく、当事者自治を保障するとの観点からは、当事者間の合意を尊重することが求められる旨判示します。

以上を前提とした上で、人民法院は、本件において、当事者が、3名の仲裁人により仲裁廷を構成する旨合意しており、かつ、簡易仲裁手続においてこれを排除していなかったことを確認し、簡易仲裁手続の適用は、3名の仲裁人による仲裁手続という、当事者の基本的な手続上の権利に何ら影響を与えるものではない旨説明します。

そして結論として、人民法院は、SIAC規則2013第5.2条に基づき、単独仲裁人を選任したことは、仲裁合意が3名の仲裁人の選任について定め、かつ、Good Credit社が単独仲裁人の選任に強い異議を唱えていたとの状況に照らせば、仲裁合意違反であると認定し、ニューヨーク条約5条1項d項に基づき、その執行は拒絶されるべきであると判断しました。

コメント

本件は中国において、SIAC簡易仲裁判断の執行が拒絶された初めての判決ですが、最高人民法院の審査を経ていることもあって、実務上大きな影響を持つと思われます。また、2015年にシンガポール高等法院が仲裁規則の優先適用を認めたのに対して、それと反対に仲裁合意の定めを優先させた点は理論上も興味深いものであるといえます。

本判決の判示に照らせば、仲裁人を3名とする仲裁合意については、一方当事者が簡易仲裁手続の適用を希望し、かつ、仲裁機関がこれを適切と判断した場合であっても、中国における仲裁判断の執行が認められない可能性があることになります。

もちろん、この場合であっても、本判決に従えば、仲裁人を3名とする簡易仲裁手続を採用することは可能であるものの(ただし、仲裁機関の同意が別途必要となると思われます。)、仲裁人を3名とする仲裁手続において、6ヶ月等の短期間で仲裁判断を下すことは現実的ではない場合が多いと思われ、実質的には、簡易仲裁手続を利用する趣旨が没却される事態も容易に想定されるところです。

この点、SIAC規則2016第5.3条は、当事者による反対の合意がある場合でも、同規則上の簡易仲裁手続が適用される旨を明示しています。本件の判示に照らせば、この場合、簡易仲裁手続については、SIAC仲裁規則が仲裁合意に優先する旨の合意があるものと認定されうるとは考えられるものの、不透明な点が残ると思われます。また、このような明示の定めのないSIAC規則2013やSIAC規則2010等では、やはり、本件同様の問題が生じる可能性は否定できません。

そのため、仮に、将来的に紛争に陥った場合に、簡易仲裁手続の利用可能性があり、かつ、中国での執行も想定されるようなケースでは、仲裁人を3名とする場合であっても、簡易仲裁手続については単独仲裁人を選任する旨を明記する等のドラフティング上の考慮が必要となると思われます。

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(文責・松下)