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イノベンティア・コラム - 学校と著作権法 (9)

学校と著作権法 (9) – 個人の行為と学校の責任

投稿日 : 2024年12月27日|最終更新日時 : 2024年12月27日| 村上 友紀

これまで見てきたとおり、学校での活動において、他者の著作権や著作者人格権について侵害行為を実際に行うのは、教員や、児童・生徒、保護者です。このように学校に関係する個人が著作権侵害といった民法上の不法行為を行う場合、学校は法的な責任を問われるのでしょうか。

概要

  • 教員が学校内や学校行事に関連して行う著作権侵害につき、学校は使用者責任を負う(民法715条)。
  • 園児や小学校の低学年の児童など責任能力のない者が学校行事に関連して著作権侵害を行えば、教員は代理監督者としての責任を負い、学校も使用者責任を負う。
  • 教員が生徒に指示して市販教材のコピーやスキャンをさせている場合には、教員や学校が、コピーやスキャン行為の主体として責任を負うことがある。

解説

私立学校と国公立学校

保育園から大学も含め、学校には、私立のものと国公立のものとがあります。

私立学校においては、教員による第三者に対する不法行為について、その使用者である学校の使用者責任が問題となります(民法715条)。

国公立学校においては、公務員である教員の行為が公権力の行使に該当する場合、国又は地方公共団体が負う損害賠償責任が問題となります(国家賠償法1条1項)。公権力の行使に該当しない場合、学校の使用者責任が問題となります(民法715条)。教員が授業を行う行為などは、公権力の行使に該当すると理解されています。

以下では、私立学校における学校の責任と、国公立学校において公権力の行使に当たらない場合の学校の責任、つまり、使用者責任(民法715条)について説明します。(国公立学校の教員の行為が公権力の行使に当たるために国家賠償法が問題になる場合は、教員の行為に由来する学校の責任の有無という視点では、使用者責任の話と同じように考えることができます。)

使用者責任(民法715条)

使用者責任とは、「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」(民法715条)というものです。

学校と教員は、使用者と被用者の関係にあり、教員が学校内や学校行事に関連して行う著作権侵害は、通常、教員が学校事業の執行について行われるものですので、学校は教員による著作権侵害につき、使用者責任を負うことになります。

民法上は、使用者が被用者の選任と監督について相当の注意をしたとき、または相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、使用者は責任を負わないとされていますが(民法715条1項但書)、実際のところ、学校がこの規定により免責を受けられることはほとんどないでしょう。

なお、この場合、学校から、実際に著作権侵害を行った教員に求償することができます。

問題の所在

例えば、幼稚園児・保育園児や小学校の低学年の児童が、園や学校の活動の中で第三者の著作権侵害行為を行った場合、直接の行為者である園児や児童には責任能力がないとされ、園児や児童は、著作権者に対し、損害賠償責任を負うことはありません。

また、高校や大学の生徒が、学校の指示により第三者が著作権を持つ市販教材をスキャンやコピーした場合、これを生徒の行為と捉えれば、生徒は、自分自身で使うための複製として、著作権法30条1項により適法な利用行為を行っただけで、責任を問われることがないということになります。

このように実際の著作権侵害行為を行った個人に責任追及ができない場合に、学校や教員が、著作権者から損害賠償責任といった責任追及を受けることになるのでしょうか。

責任能力がない者の行為と教員・学校の責任

園児や児童の責任能力

著作権侵害のような不法行為の責任を追及するためには、不法行為を行った者に責任能力があることが必要であり、責任能力のない者が不法行為を行っても、その者に責任追及することができません(民法712条)。

責任能力とは、「自己の行為の是非を判断できるだけの知能」を言います。この責任能力の有無は、個別の事案に則して判断されますが、一般的には11歳から12歳程度が目安だろうと考えられています。

これより低い年齢の児童や園児には、責任能力が認められないことがほとんどでしょう。

監督義務者・代理監督義務者の責任

このように、責任能力がない者が不法行為を行った場合には、権利者は、行為を直接行った者には責任追及できませんが、その場合、教員や学校が責任を問われるのでしょうか。

この点、民法では、不法行為者に責任能力がなく、行為者が責任を負わない場合、親権者や後見人など、その者を監督する法定の義務を負う「監督義務者」が責任を負うことになります(民法714条1項)。また、親など「監督義務者」に代わって責任能力のない者を監督する「代理監督者」も同様に責任を負います(同2項)。

教員など学校関係者は、園児や児童との関係で、この「代理監督者」にあたり得ます。

具体的には、教員は、学校の授業や学校関連行事の中では、親に代わって園児や児童を監督する義務を負うと考えられ、その中で園児や児童が著作権侵害行為を行った場合、「代理監督者」として、園児や児童の行った行為について責任を負うことになるでしょう。他方、授業や学校行事とは関係のないところで児童らが著作権侵害行為を行った場合は、通常は、教員が責任を負わないことになるでしょう。もっとも、例えば、休み時間中の行為であっても、学内で児童による著作権侵害行為が繰り返されるのを教員が知りながら放置しているような場面では、教員が「代理監督者」としての責任を問われる可能性を否定できません。

民法上、「監督義務者」や「代理監督者」が義務を怠らなかったとき又は義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、責任を免れるとされています(民法714条1項但書、714条2項)が、学校の授業や学校関連行事の中で園児や児童らが著作権侵害行為を行った場合に、教員が監督義務を怠らなかったとして責任免れることは容易ではないでしょう。

このようにして教員が代理監督者責任を負う場合には、学校は、それについて使用者責任を負うことになり、権利者に対し損害賠償をする必要が生じます(民法715条)。

園児や児童による著作権侵害と教員固有の責任

学校の活動において、責任能力のない園児や児童が著作権侵害を行った場合、教員が、園児や児童による著作権侵害を知りながら放置していたという事情や著作権侵害を誘発するような言動を行っていたというような事情があれば、教員は、「代理監督者」の責任だけでなく、別途、教員が固有に不法行為責任を負うこともあり得ます(民法709条)。

教員がこの責任を負う場合には、学校は、使用者責任を負うことになり、権利者に対し、損害賠償をする必要が生じます(民法715条)。

著作権制限規定が適用される行為と学校の責任

生徒による複製

市販教材のコピーやスキャンは他人の著作物の「複製」ですから、著作権者の許諾がなければ、著作権侵害に該当するのが原則です。

他方、著作権法は、個人的または家庭内での使用を目的とする場合、通常、他人の著作物を複製することを適法としています(著作権法30条1項)。

また、授業の過程で用いるために、必要な範囲で他人の著作物を複製することは著作権法で許容されており、この場合の複製行為の主体には、授業を受ける生徒も含まれます(著作権法35条1項)。

したがって、生徒が自らの学習を目的として、友人から市販教材を借りてスキャンしたりコピーしたりすることは、個人的または家庭内の使用を目的とするものといえ、また、授業で用いるための複製については著作権法35条1項の適用もありますので、著作権法上適法です。

さらに、中学・高校・大学で学ぶような生徒には責任能力が認められますので、園児や児童の行為の場合と異なり、教員が「代理監督者」としての責任を負うことはありません(そうすると学校がその使用者責任を負うこともありません)。

複製の主体は誰か

もっとも、教員が生徒に指示して市販教材のコピーやスキャンをさせている場合には、教員や学校が、コピーやスキャンという行為の主体といえるのではないか、ということが問題となり得ます。

この点、最高裁判所は、最高裁第一小法廷平成23年1月20日判決・平成21年(受)第788号〔ロクラクII事件〕において、誰が複製行為の主体かは、「複製の対象、方法、複製への関与の内容、程度等の諸要素」を考慮して決定する、という考え方を示しています。そうすると、授業の際に、生徒に市販教材をコピーやスキャンするよう指示する場合、教員や学校が複製の対象・方法を決定し、それを授業を受けるための条件としている点で、教員や学校が複製の主体だと認められる可能性があるものと考えられます。

この場合、「学校と著作権法 (4) – 教科における著作物の利用」 で説明した著作権法35条1項(授業における利用)の適用の有無が問題になり得ますが、市販教材の複製であり、著作権者の利益を不当に害することになると考えられ(同但書)、この規定により、教員や学校の行為が適法になることはないものと思われます。

また、教員の指示で継続的に大量の複製が行われていたとなると、単発の著作権侵害とは異なり、学校としては、風評上の問題も大きくなってしまうでしょう。

市販教材以外の著作物について

市販教材のように、本来授業を受けるために生徒が各自で購入することが想定された著作物を学校の指示で複製させるのは、著作権者の利益を不当に害することになるため、上記の問題が生じます(著作権法35条1項)。他方で、そういった著作物以外の著作物を授業で用いる場合には、別途の理由で著作権者の利益を不当に害するようなことがない限り、学校が複製して配布したとしても、それが授業に必要な範囲であれば、著作権侵害にあたらず、生徒にコピーやスキャンを求めることも許容されると考えられます。

もっとも、実際上、個々の教員が生徒に対して必要な範囲だけを複製するよう適切な指示をしているかなどは、学校として統一的な管理が難しいところです。また、教員自身も不適切な指示をした場合に著作権侵害の責任を問われます。したがって、学校としては、どのような著作物であっても、教員が生徒に複製を指示することはあまり好ましくなく、授業に必要な資料は、教員自ら準備して配布する、という方針を示すことが望ましいでしょう。

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(文責・村上)

 


 

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