学校と著作権法 (6) – 教科・試験以外における著作物の利用
投稿日 : 2024年12月27日|最終更新日時 : 2024年12月27日| 溝上 武尊
2023年11月、とある県の市立中学校が「ほけんだより」に他人のイラストを掲載し、それをウェブサイトにアップロードしたことが著作権侵害に当たるとして、市が作者に損害賠償金を支払うと報道されました。中学校の担当者がインターネットで見つけたイラストをフリー素材だと思い込んで利用してしまったということです。このように学校が教科・試験以外の場面で他人の著作物を無断で利用し、著作権者から損害賠償金を請求されるという事案が近年増加しています。
本稿では、教科・試験以外の場面、例えば文化祭や運動会、教職員会議、保護者会、ウェブサイトで、他人の著作物の利用が認められる範囲について考えてみましょう。
概要
- 学校や学生・生徒は、「授業の過程」で利用する目的であれば、一定の範囲で公表された他人の著作物を複製したり公衆送信(インターネット配信)したりすることができる(著作権法35条1項)。「授業の過程」とは、教室での授業のみを指すものではなく、もう少し広い意味だと理解されている。
- 初等中等教育における学校行事やクラブ活動・部活動は「授業」に該当する一方、大学教育における学園祭やサークル活動は学生の主体的な活動としての性格が強く、「授業」に該当しない。
- 教職員会議や保護者会で他人の著作物を利用するには引用の要件を満たすようにするなどの工夫が求められる。
- 著作権法35条1項により公衆送信を行う場合には、学校は相当な額の補償金を権利者に支払う必要がある(同条2項)。
- 著作権法35条1項では「必要と認められる限度」という条件があり、また、「著作権者の利益を不当に害する」こともできないため、行事で使用しない部分を複製する行為などは同項によって認められない可能性が高い。
解説
教育機関の例外規定(著作権法35条)はどこまで適用されるか
どのような「利用」が問題になるか
例えば読書会用に小説の文章をコピーする行為は「複製」に、音楽を含む文化祭の映像を保護者向けにオンラインで配信する行為は「公衆送信」にそれぞれ該当し、原則として、著作権者の同意が必要です。
教育機関の例外規定(著作権法35条)とは
学校や学生・生徒は、「授業の過程」で利用する目的であれば、一定の範囲で公表された他人の著作物を複製したり公衆送信(インターネット配信)したりすることができます(著作権法35条1項)。学校等の教育機関において他人の著作物を利用しやすくすることで、円滑な教育の実施を図るための例外規定です。詳しくは、「学校と著作権法 (4) – 教科における著作物の利用」をご参照ください。
著作権法35条の解釈にあたっては、著作物の教育利用に関する関係者フォーラム)の「改正著作権法第35条運用指針(令和3(2021)年度版)」(以下「令和3年度版運用指針」といいます)や「改正著作権法第35条運用指針(令和3(2021)年度)初等中等教育における特別活動に関する追補版」(以下「令和3年度版運用指針追補版」といいます)が参考になります。詳しくは、「学校と著作権法 (4) – 教科における著作物の利用」をご参照ください。
「授業の過程」の範囲
著作権法35条1項の「授業の過程」とは、教室での授業のみを指すものではなく、もう少し広い意味だと理解されています。運用指針によれば、「授業」とは「学校その他の教育機関の責任において、その管理下で教育を担任する者が学習者に対して実施する教育活動」を意味します(以下に挙げる具体例を含め、令和3年度版運用指針7頁)。
例えば高等学校段階までの初等中等教育における学校行事は、基本的に「授業」に含まれます。具体的には、入学式、卒業式、修学旅行、文化祭、運動会、遠足、学芸会、音楽会、展覧会、学習発表会などです。初等中等教育におけるクラブ活動・部活動、児童・生徒会活動なども「授業」に該当します。これに対し、大学教育においては、例えば自ら主催する公開講座は「授業」に該当しますが、サークル活動や学園祭は学生の主体的な活動としての性格が強いため、「授業」には該当しません。
また、学校に関連する活動であっても、学校説明会、オープンキャンパスでの模擬授業、教職員会議、保護者会なども「授業」には該当しません。
以下では、「授業」の該当性が特に問題となりやすい場面について、学校による利用と学生・生徒による利用に分けて、詳しく見ていきましょう。
学校による利用
教職員会議、教員勉強会等
教職員会議等においては、例えば教職員が教育問題を取り上げた新聞記事を他の教員に配布する場合があります。しかし、教職員会議等は授業やカリキュラムの内容を改善するための活動ではあるものの、「学習者に対して実施する教育活動」それ自体とはいい難いため、著作権法35条1項の「授業」には該当しないと考えられます(令和3年度版運用指針7頁)。そうすると、上記のような行為は、著作権法35条の対象外ということになります。
ところで、著作権法では、「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」における使用(私的使用)を目的とする複製についても、これを認める例外規定があります(著作権法31条1項)。しかし、企業その他の団体の内部利用は私的使用に当たらないと解釈されているため(東京地裁昭和52年7月22日判決・昭和48年(ワ)第2198号〔舞台装置設計図事件〕)、教職員会議等における複製を私的使用目的の複製に位置付けることも難しいと思われます。
したがって、教職員会議等で教職員が新聞記事等を紹介するためには、著者名・題号やURLの紹介にとどめるか、教員自身の言葉でその新聞記事等の内容を説明するか、あるいは引用(著作権法32条1項)の要件を満たすように引用箇所を明確に特定したうえで教員自身の意見を添えて利用する必要があります。
保護者会
保護者会においても、教職員が新聞記事等を保護者に配布する場合があります。しかし、保護者会も授業内容の改善に資する活動ではあるものの、「学習者に対して実施する教育活動」それ自体とはいい難いため、著作権法35条1項の「授業」には該当しないと考えられます(令和3年度版運用指針7頁)。したがって、教職員会議と同様、保護者会で教職員が上記のような行為をする際は、引用(著作権法32条1項)の要件を満たすようにするなどの工夫が求められます。
学校だより・ウェブサイト
学校だより(学級通信)や学校のウェブサイトにおいて、学生や保護者の関心を引くためにインターネットでダウンロードした画像を装飾的に掲載する場合があります。しかし、学校だよりやウェブサイトは著作権法35条1項の「授業」といえないため(文化庁著作権課「学校における教育活動と著作権(令和5年度改定版)」9頁)、上記行為に同条を適用することはできません。また、装飾として画像を掲載するだけであれば、引用(著作権法32条1項)の要件も満たさないと考えられます。したがって、上記行為は、原則どおり著作権者の同意が必要です。
この回避策として、ウェブサイトにおいては、インターネット上の他人の画像等にインラインリンク(ユーザがリンクをクリックすることなく自動的にリンク先のコンテンツがユーザ端末上に表示されるリンク)を設定することも考えられますが、インラインリンクによって当該画像等が一部変更されて表示されれば、別途、氏名表示権等の著作者人格権侵害の問題が生じる場合もあります(最高裁令和2年7月21日判決・平成30年(受)第1412号〔Twitterリツイート事件〕参照)。
他人の画像を装飾的に利用したい場合には、フリー素材サイトの画像を使用することが安全です。ただし、フリー素材には通常「利用規約」が定められており、当該利用規約の内容に従って画像を利用しないと著作権侵害となり得るため、規約内容をよく確認する必要あります。また、フリー素材のように見える画像でも、利用規約が見当たらない場合にはどの範囲で利用が許諾されているかが判然としないため、利用を控えたほうがよいと思われます。
学生・生徒による利用
部活動・サークル活動
例えば軽音楽部が練習のために音源を複製する場合があります。初等中等教育における部活動は著作権法35条1項の「授業」に該当すると考えられますので(令和3年度版運用指針7頁)、小中学校や高校の部活動において生徒が他人の著作物を複製する行為は、その他の要件を満たせば、同条によって認められます。
他方、大学のサークル活動は、学生による自主的な活動という性格が強いため、著作権法35条1項の「授業」に該当しないと考えられます(令和3年度版運用指針7頁)。したがって、上記行為が大学のサークル活動としてなされるものであれば、原則どおり著作権者の同意が必要となる可能性が高いといえます。ただし、家庭内に準ずるような個人練習であれば、私的使用複製(著作権法30条1項)として許容される余地もあります。
文化祭
軽音楽部が文化祭で他人の曲を演奏する場合はどうでしょうか。著作権法35条によって認められるのは複製と公衆送信であり、「演奏」はその対象外です。しかし、非営利・無料・無報酬の演奏であれば、著作権法38条1項によって他人の著作物の利用が認められます。演劇や朗読についても同様です。同項には「授業」のような要件もありませんので、大学のサークル活動や学園祭であっても、同項の要件を満たす限りは適用されます。
学生・生徒の行為と学校の責任
学生・生徒の行為について学校が責任を負うかどうかについては、「学校と著作権法 (9) – 個人の行為と学校の責任」をご参照ください。
公衆送信の場合における補償金
文化祭で生徒が他人の曲を演奏する様子を保護者向けにオンデマンド配信するような行為は、著作権法35条1項の「公衆送信」として認められる場合がありますが、その際、学校は相当な額の補償金を権利者に支払う必要があります(著作権法35条2項)。この支払は、権利者側の指定管理団体である一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)を通じて行われます。詳しくは、「学校と著作権法 (4) – 教科における著作物の利用」をご参照ください。
なお、文化祭等の様子をそこに参加することができない生徒向けにリアルタイム配信するような行為は、遠隔合同授業に該当し、補償金の支払が不要です(著作権法35条3項、令和3年度版運用指針追補版1頁)。
教育機関の例外規定(著作権法35条)の限界
著作権法35条1項では「必要と認められる限度」という条件があり、また、「著作権者の利益を不当に害する」こともできませんので、例えば行事で使用しない部分を複製する行為や朗読会用の小説を保護者分まで複製するような行為は同項によって認められない可能性が高いと思われます。
これらの場合には、著作権法35条以外の権利制限規定(例えば引用)に該当しない限り、学校が他人の著作物を利用するにあたっては、原則どおり著作権者の同意が必要です。
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(文責・溝上)