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イノベンティア・コラム - 学校と著作権法 (5)

学校と著作権法 (5) – 試験における著作物の利用

投稿日 : 2024年12月27日|最終更新日時 : 2024年12月27日| 村上 友紀

前稿では、学校の授業(教科)における著作物の利用について取り上げましたが、本稿では、定期試験や入学試験といった試験に関わる場面における著作物の利用の問題を取り上げます。学校における試験といっても、授業の到達度を計るための試験もあれば、入学者の選抜のための試験もあり、学校は、各試験の実施及びその後の利用において、他人の著作物を適法に取り扱う必要があります。

概要

  • 入学試験や定期試験、実力試験において利用する目的の場合、必要と認められる限度で他人の著作物を複製または公衆送信することができる(著作権法36条1項)。
  • 定期試験や実力試験といった学内利用の場合は、授業の一環としての試験に位置付けられるため、授業における利用としても許容される(著作権法35条1項)。
  • 自校の試験問題を後日、自校の過去問集として出版したり、ウェブサイト等で公表したりする場合には、試験問題に含まれる著作物の著作者・著作権者から許諾を得る必要がある。

解説

試験で用いられる他人の著作物

学校で行われる定期試験や入学試験、実力試験といった、学校の教員が作成する各種試験において、他人の書いた小説や論文、他人の作成した図表、他人の撮影した写真を題材に試験を出すといった形で、他人の著作物を転載するなどして利用したい場合があります。

試験で利用する著作物に着目すると、主に国語科や外国語科などで利用される他人の小説や論文は著作物として保護されると容易に考えられる一方、社会科や理科などで利用される他人が作成した図表や他人が撮影した写真は、著作物として保護されないものも多いかもしれません。つまり、社会科や理科の試験で利用されるような図表や写真は、知識の定着や学習の到達の程度を計るという試験の性質からして、誰が書いても同じようになる単純な図表や撮影者の個性が反映されない写真といった、厳密には創作性が認められずに著作物として保護されないものが多く含まれます。著作物として保護されなければ、誰でも自由に利用することができます。

とはいえ、創作性の有無の判断というのは常に微妙な判断を伴うため、他人が作成した物は著作物として保護されると考えておくことが安全でしょう。

以下では、試験において利用する他人の作成物は、それぞれ保護されるべき著作物であるとされることを前提として、その利用の際の留意点を説明します。

入学試験や定期試験での複製・公衆送信

他人の書いた小説や図表など、他人の著作物を用いて教員が試験問題を作成する際には、これらを複製することになるため、複製権の侵害が問題となります。試験問題を試験の際に生徒や受験生に配布することは譲渡権の侵害が問題になり、またWEB上で試験をするときには、公衆送信権侵害が問題になります。

この点、入学試験や定期試験、実力試験といった受験者の能力を計る試験はいずれも、事前に著作権者に許諾を取ることにより試験内容が漏れると試験の意味をなさないため、著作権法上、試験において利用する目的の場合、必要と認められる限度で他人の著作物を複製または公衆送信することができるとされています(著作権法36条1項)。

さらに、定期試験や実力試験の場合は、授業の一環としての試験に位置付けられるため、「学校と著作権法 (4) – 教科における著作物の利用」で説明した授業における利用(著作権法35条1項)としても複製や公衆送信が許容されます。

また、これらの規定により複製が許容された複製物は、対象生徒や受験者に配布することができます(著作権法47条の7)。

ただし、授業における利用や試験のための利用として他人の著作物の利用が許される場合でも、出所の明示の慣行があるときは、利用の態様に応じて出所を明示する必要があります(著作権法48条1項3号)。

試験問題における要約や虫食い問題

試験問題において、他人の著作物を単にそのまま複製や公衆送信をするのではなく、その他人の著作物を試験問題作成者において要約したり、虫食い問題にして出題したりする場合はどうでしょうか。

複製権や翻案権といった著作権侵害が問題になり得るほか、著作者の意に反してなされた改変は、著作者人格権である同一性保持権(著作権法20条1項、「学校と著作権法 (8) – 学校教育における著作者人格権の問題」参照)の侵害も問題となり得ます。

この点、授業における利用の場合は、著作権法で翻案(本質的な部分を維持しつつ、変更を加えること)まで認められています(著作権法35条1項、47条の6第1項1号)。それ以外の場面での翻案は認められないとする見解もあるものの、通常は、試験問題として適切な範囲内で要約したり、虫食い状態とするのであれば、元の著作物と多少の差異があっても、著作権法36条1項(試験問題としての複製等)や著作権法35条1項(授業における複製等)で許容される複製又は公衆送信であると評価することもでき、許容されるものと考えられるでしょう。

また、同一性保持権の観点からも、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変は認められることから(著作権法20条2項4号参照)、受験者が該当箇所を見て元の著作物から要約や改変、省略等されているとの事実を認識できるようになっていれば、やむを得ない改変として許容されるでしょう。

以上を踏まえると、試験問題の作成において他人の著作物に変更を加える場合には、どのようにでも増減や修正ができると思うことなく、可能な限り最小限の変更にとどめ、著作者・著作権者に配慮する姿勢で臨むことが大切です。

自校の試験問題の公表

自校の試験問題を後日、自校の過去問集として出版したり、ウェブサイト等で公表したりする場合にはどのような点に注意する必要があるでしょうか。

試験問題には、上記のように他人の著作物を含むことが多々あります。自校の試験問題に含まれる他人の著作物を、過去問集として出版する場合やウェブサイト等で公表するような利用については、試験において利用する目的であるとはいえず、また、授業における利用にもあたりません。多くの場合、「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内」であるとはいえないことから、適法な引用にもあたらないでしょう(引用についての詳細は、「学校と著作権法 (7) – 研究活動での利用」をご参照ください。)。したがって、この場合には、利用対象となる著作物の著作権者や管理団体から改めて許諾を得る必要があります。

同様に、自校の試験問題を学校の来訪者に配布するといったことも、試験において利用する目的ともいえず、授業における利用にもあたらないため、他人の著作物を含む試験問題を権利者の許諾なくこのように取り扱うことは、配布が有償であるか無償であるかを問わず、著作権者の権利を侵害することになります。

第三者による学校の試験問題の利用

これまで述べてきたところとは異なり、第三者から学校の試験問題を利用したいといった申し入れがあった際に(例えば、受験予備校の授業で使うなど)、学校としては以下の点に留意が必要です。

まず、学校が作成した試験問題に別の第三者の著作物が含まれている場合は、試験問題を利用したい者においては、学校から利用許諾を得るだけでは足りず、その試験問題に含まれる別の第三者の著作物について、その著作権者から別途許諾を得る必要があります。

もし、試験問題の利用を申し入れてきた者が、学校とは別の著作権者から別途の許諾を得ずに試験問題を利用してしまった場合に、学校が無用な紛争に巻き込まれないためには、学校としては、当該試験問題に第三者の著作物が含まれることを利用者に注意喚起しておくことが安全です。

例えば、学校として自校のウェブサイトなどに試験問題を掲載する場合には、試験問題に含まれる第三者の著作物について、学校は当該第三者から掲載につき許諾を得た上で掲載しますが、その際、試験問題を利用したいと考える者に対して、学校の許諾を得ることが必要であることの明示に加え、試験問題に含まれる他人の著作物の権利者にも別途許諾を得る必要があるということも明示しておくとよいでしょう。

また、学校としては、当該著作権者から与えられた利用許諾の範囲を超えて、別の者に利用を許諾することがないよう注意することが必要です。

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(文責・村上)

 


 

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