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イノベンティア・コラム - 学校と著作権法 (4)

学校と著作権法 (4) – 教科における著作物の利用

投稿日 : 2024年12月27日|最終更新日時 : 2024年12月27日| 町野 静

教育関係における著作物の利用が最も問題となる場合は、授業内における他人の著作物の利用です。
昨今の教育現場における授業の中では、コピーの配布のほか、スライドの上映、電子データの配信など様々な形で著作物が利用されることがあります。本稿では授業における著作物の利用がどのような要件を満たせば適法になり、現場でどのような点に気を付ける必要があるのかにつき、解説します。

概要

  • 授業の過程における著作物の利用は権利制限規定(著作権法35条1項)により、一定の要件を満たす場合には適法となる。したがって、具体的状況に応じて、同条項の定める要件の充足性を判断する必要がある。
  • 各要件の検討においては、著作物の教育利用に関する関係者フォーラムの「改正著作権法第35条運用指針」が参考になる。

解説

授業の過程における利用(著作権法35条1項)とは

授業の過程における利用として認められるための要件

創作性の認められる表現は著作物(著作権法2条1項1号)として、著作権法により保護されます。したがって、授業において許諾なく他人の著作物を複製などして利用する場合、原則として、 著作権侵害となります。

もっとも、「学校と著作権法 (2) – 著作権コンプライアンスの検討プロセスと著作権の制限」において述べたとおり、授業の過程における著作物の利用は権利制限規定(著作権法35条1項)により、一定の要件を満たす場合には適法となります。授業の過程における著作物の利用を適法に行うためには以下の①~⑥の要件を満たす必要があります。

① 学校その他の教育機関において教育を担任する者及び授業を受ける者による利用であること
② その授業の過程における利用に供することを目的とする場合であること
③ 必要と認められる限度であること
④ 対象は公表された著作物であること
⑤ 対象となる行為は著作物の複製、公衆送信、または公表された著作物であって公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達する行為であること
⑥ 当該著作物の種類及び用途並びに当該複製の部数及び当該複製、公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害するものではないこと

各要件の説明

次に、上記①~⑥の各要件の解釈を説明します。これについては、著作物の教育利用に関する関係者フォーラムの「改正著作権法第35条運用指針」(令和3年度版。以下「運用指針」といいます。)が参考になります。

まず、①の「学校その他の教育機関」とは 、学校教育法に規定されている学校や専修学校、各種学校等に加え、社会教育施設や教育センターなどの教育研修施設、職業訓練所のような職業訓練施設も含まれます。一方、「営利を目的として設置されているものを除く」とされていますので、営利目的の会社や個人経営の教育施設、専修学校または各種学校の認可を受けていない塾・予備校、会社に設置される研修施設などの機関は除かれます(運用指針参照)。

次に、②著作物の利用は、その「授業の過程」における利用に供することを目的とする場合である必要があります。「授業の過程」であればよいため、予習や復習の場合も含まれると解されますが、課外活動などの目的の場合には、この要件を満たすかどうかが問題となります。教員会議や保護者会等は「授業の過程」とは認められません。この点については、詳しくは「学校と著作権法 (6) – 教科・試験以外における著作物の利用」をご参照ください。

また、著作物の利用は、③授業の過程での利用のために「必要と認められる限度」でなければなりません。その判断にあたっては、授業担当者の主観だけでその必要性を判断するのではなく、授業の内容や進め方等との関係においてその著作物を複製することの必要性を客観的に説明できる必要があるとされています(運用指針6頁)。授業で使用しない部分の複製や授業参加者の数を超えた複製は認められないと解されます。

対象となる著作物は④「公表された著作物」ですので、未公表の著作物は対象とはなりません。

また、⑤の対象となる行為は、複製(電子データのコピーを含む著作物のコピーなど)、公衆送信(ウェブサイトに掲載する行為など)、受信装置を用いた公衆への伝達(ネット上のコンテンツをモニターで再生する行為など)の3つです。また、著作権法35条1項の規定により利用することができる場合には翻案(本質的部分を残して改変する行為)も可能です(著作権法47条の6第1項第1号)。なお、上演、上映(映像や資料をスクリーンに映写する行為など)は本条の対象ではありませんが、「学校と著作権法 (2) – 著作権コンプライアンスの検討プロセスと著作権の制限」で述べたように、授業内の上演、上映は、営利を目的としない上演等として、著作権法38条の規定により適法になる場合も多いと解されます。

さらに、著作物の利用は、⑥当該著作物の種類や用途、複製する部数や当該複製、公衆送信または伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害するものであってはなりません。これに該当するかどうかは個別具体的に判断されますが、例えば、市販されている本の大半をコピーして生徒全員に配布するような行為は、たとえそれが授業内で使用するものであったとしても、著作権者の利益を不当に害するものとして認められないでしょう。

なお、書籍やインターネットで公開される統計資料やグラフなどを授業内で用いる資料に掲載するような場合がよくありますが、こうした資料などは通常そもそも創作性が認められず、著作権法上の著作物には該当しないため、本条の適用を受けるまでもなく適法であるケースも多いと思われます。

教科における著作物の利用と著作権の制限

では、通常の教科内の具体的場面での著作物の利用は著作権法上どこまで許容されるのでしょうか。

プリントやコピーの配布

授業内で、他の書籍やインターネット上に掲載されているイラストや文章などの他人の著作物のコピーを挿入して作成したプリントを配布する行為については、授業の過程における利用として、適法に行うことができます。

ただし、必要と認められる限度であり、かつ、著作権者の利益の利益を不当に害することにならないことが必要になりますので、授業に必要のない著作物のコピーを配布する、必要部数以上のプリントを配布する、本などの著作物の大半をそのままコピーしてプリントとして配布するといった行為については、必要と認められる限度を超えるものであり 許容されないと考えられます。

授業内で市販問題集などのコピーを配布する場合がありますが、こうした問題集は各生徒が購入をして使用することを前提として作成されているものですので、生徒に購入をさせずにコピーを配る行為は、著作権者の利益を不当に害するものとして著作権侵害となる可能性があると考えられます。

また、著作物の出所を明示する慣行があるときには、複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度で出所を明示することが必要です(著作権法48条1項3号)。

映像・デジタルデータの利用

次に、授業内で、予め録画した映像を投影・配信したり、電子データを配信したりする行為は著作権法上、どのように取り扱われるのでしょうか。

まず、授業内で、録画をしたテレビ番組を上映したり、他人の著作物の一部をスライドに組み込んで上映する行為については、営利を目的としない上映として適法となると解されます(著作権法38条1項。「学校と著作権法 (2) – 著作権コンプライアンスの検討プロセスと著作権の制限」参照)。また、著作物の出所を明示する慣行があるとき出所の明示が必要である点は、教科における利用の場合と同様です(著作権法48条1項3号)。

なお、インターネット上の動画など公衆送信される著作物を受信して映写する行為は上映には該当せず、公の伝達行為として公衆伝達権の対象となるため、「営利を目的としない上映」(著作権法38条1項)ではなく、前述の「授業の過程における利用」(著作権法35条1項)により適法性が判断されます。

また、近年、学校の授業もITC化が進んでおり、生徒が保有する端末で視聴するために授業のオンライン配信を行う中で、他人の著作物を配信する場合もあるかと思います。こうした行為についても同様に、授業の過程における著作物の公衆送信として適法となります。

授業で利用する教科書に関しては、2018年の著作権法改正により、電子媒体の教科書(いわゆるデジタル教科書)における著作物の利用が可能となりましたが、授業内でいわゆるデジタル教科書を使用する場合、その内容をオンライン授業内で投影し、配信する行為については、著作権法33条の2の規定により適法となります。

デジタル教科書のデータをUSBメモリ等に記録して譲渡したりネットワークを通じて送信したりすることや、デジタル教科書のデータを生徒が使用するタブレット端末にコピーして表示したり、当該データをクラウドサーバーに蔵置しておいてタブレット端末にストリーミング方式で受信して表示したりすることも、同様に適法です。

タブレットなどの端末で閲覧できるようプリントの電子データを公衆送信するような行為については、紙媒体のものと考え方は同様であり、授業の過程における利用の要件を満たせば適法です。この場合、「必要と認められる限度」といえるために、公開範囲は授業の対象者のみとする等の注意が必要でしょう。

補償金制度の概要

「学校と著作権法 (2) – 著作権コンプライアンスの検討プロセスと著作権の制限」において述べたとおり、学校等の教育機関が公衆送信を行う場合、教育機関の設置者は、著作権者に補償金を支払わなければなりません(著作権法35条2項)。 前述のとおり授業の過程における著作物の利用については権利制限の対象となり著作権者の許諾は不要ですが、公衆送信という利用形態については容易に多数のコピーが送信されるため、それにより著作権者が被る不利益を填補するために補償金制度が設けられたものです。この制度は、「授業目的公衆送信補償金」と呼ばれます。

授業目的公衆送信補償金制度は、2018年著作権法改正においてICTを活用した教育での著作物利用の円滑化を図るために導入されました。具体的には、教員が授業のために他人の著作物を用いて作成した教材を生徒の端末に送信したり、サーバにアップロードするような場合が補償金の支払いの対象となる行為として想定されています。

補償金の支払いは著作権者に対して行われるものですが、実務上は、一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS)が指定管理団体として、著作権者に代わって補償金の徴収を行っています。

支払うべき補償金の額は授業目的公衆送信の回数に関わらず在学人数に応じて算定されるのが原則です(授業目的公衆送信補償金規程3条)。補償金額の算出方法は文化庁長官が認可したものでなければなりません。支払われた補償金は著作権者及び著作者隣接権者(音楽を演奏する実演家など)に分配されます。

実務的には、教育施設の設置者が、制度を利用する年度の4月1日以降に、指定管理団体のウェブサイトから教育機関設置者と各教育機関(学校)の情報を登録の上、当該年度の5月1日以降に、教育機関ごとに補償金算定対象者数等を申請すると、補償金額が算出されます。当該教育施設の設置者は、算出された補償金を指定法人に支払うことになります。

教育機関において授業目的で公衆送信を行うことが必要な場合には、適切な契約が締結されているか確認しておく必要があるでしょう。

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(文責・町野)

 


 

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