学校と著作権法 (3) – 学校で生まれる著作物の著作者
投稿日 : 2024年12月27日|最終更新日時 : 2024年12月27日| 秦野 真衣
著作権法では、「著作者」は、「著作物を創作する者」と定義されています。本稿では、学校において作成された著作物は、誰が著作権者になるのか、立場ごとに検討します。
概要
- 著作者には、「著作者人格権」と「著作権」という2種類の権利があり、著作者の許諾なく複製や公表等を行うことはできません。
- 学校に雇用されている教職員が著作物を創作した場合、作成した著作物は職務著作に該当し、学校が著作者となることがあります。一方、学生や児童・生徒については、創作した本人が著作者となります。
解説
著作者とは
「学校と著作権 (1) – 著作権制度の趣旨と基本概念」で述べたように、著作物を創作した者が当該著作物の「著作者」となります(著作権法2条1項2号)。この著作者には、具体的に手を動かした人がなる場合もあれば、具体的に手を動かした人の使用者(例えば雇用主など)がなる場合もあり、後者の場合を「職務著作」と言います。また、映像作品については、関係者が数多くかかわることから、「制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」が著作者になるとされています。
学校においては、学校に雇用されている教職員、学校で学び、若しくは研究を行う学生らが著作物を創作する可能性があります。これらのうち、教職員については、学校との間に雇用関係があるため、作成した著作物について、使用者である学校との関係で、職務著作に該当する可能性があります。
一方で、学生や児童・生徒については、学校との間に雇用関係がないため、職務著作が問題となる余地はなく、著作権は学生ら本人に帰属することになります。
職務著作
学校では、教育・研究活動の過程において、教職員が著作物を創作することが多々生じ、その種類も、大学教員が作成する研究論文から、保育園の先生が作成する製作物まで、多岐にわたります。これらの著作物は、学校の職務上作成したものですので、一定の要件を満たす場合は、職務著作に該当し、学校が著作者となることとなります(法15条1項)。
では、「職務著作」に該当し、学校が著作者となる要件とは、いったいどのようなものでしょうか。
前提として、学内規程などにおいて、学内で生じた著作物の著作者が定められていることもあり、その場合は、職務著作に関する著作権法の規定よりも、学内規程が優先します。
該当する規程が存在しない場合は、著作権法に従って判断することになります。職務著作の要件として、著作権法15条1項は、
① 法人その他使用者の発意に基づくこと、
② 法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物であること、
③ 法人等が自己の著作の名義の下に公表するものであること、
④ 作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがないこと
を要件として挙げています(ただし、プログラムの著作物であれば、③は不要です)。
この中で、特に重要なのが、①のいわゆる発意要件になります。使用者の発意による場合として、典型的には、使用者が企画を立案して、使用する従業員に実際の作成活動を行わせることが考えられます。
では、使用者である会社や学校からの立案や具体的な指示がなければ、発意に基づくものとは言えず、職務著作にはならないのかというと、必ずしもそうではありません。具体的な立案や指示がない場合であっても、法人等と業務に従事する者との間に雇用関係があり、法人等の業務計画に従って、業務に従事する者が所定の職務を遂行している場合には、業務に従事する者の職務の遂行上、当該著作物の作成が予定又は予期される限り、「法人等の発意」の要件を満たすと考えられています(知財高裁平成18年12月26日判決・平成18年(ネ)第10003号〔宇宙開発事業団プログラム事件〕)。
研究者が作成する著作物として、典型的には、研究論文が挙げられます。研究活動については、大学の職務として行ったものですので、②には該当すると考えられますが、大学における研究者には、学問の自由(憲法23条)、表現の自由(憲法21条)による独立性が保障されていることもあり、また、研究論文については教員個人の名義で公表されることが一般的であることや、大学側の発意によるものではないと考えられることなどから、基本的に、大学では、教員の論文等の著作物は、教員個人に帰属することを前提に取り扱われていることがほとんどです。
なおについては、基本的に、大学の発意の下に作成したものがほとんどであると考えられるため、職務著作として大学に著作権が帰属する場合が多いと考えられます。
学生の著作物の取扱い
学生は、学校との間に雇用関係はなく、職務著作が成立する余地はないため、学生が作成した論文は、基本的に学生本人に著作権が帰属することになります。
なお、大学では、学生は、教員の指導のもと論文を作成することが一般的です。この場合、指導教員による指導の内容が、論文の内容に影響を及ぼすことは当然であり、指導教員の論文完成に対する寄与は否定できません。しかし、研究指導を行った場合であっても、 指導教員が論文を無断で利用することはできません。自分が指導する学生の書いた文章であれば自由に使ってよいと考えてしまうことの無いよう、注意が必要です。
また、美術系の学校においては、学生が作成した制作も当然、著作物(美術の著作物)となりえ、その場合、制作者である学生が著作者となります。
園児・児童
著作物の定義からは、児童・生徒が授業で作品した作品(作文や絵画など)も、表現に創作者の創意工夫がある場合には、著作物性が認められると考えられます。従って、学校の教員が児童・生徒の作品を取り扱う場合であっても、著作権法に従って取り扱う必要があります。
著作者となった場合の権利
「学校と著作権 (1) – 著作権制度の趣旨と基本概念」で見た通り、著作権者には、「著作者人格権」と「著作権」という2種類の権利があります。
著作権としては、例えば、著作者は、「著作物を複製する権利」=複製権を専有しますので、著作者以外のものは、著作者(又は著作者から著作権を譲り受けた者)の許諾を得なければ、著作物を複製することはできません。
例えば、児童・生徒の作品をコピーする場合は、著作物の複製にあたりますので、著作者である本人の許諾が必要となります。また、例えば大学院生の修士論文については、当該大学院生に著作権が認められますので、指導教員は、いかに充実した論文指導を行っていたとしても、その論文の内容を自分の論文に無断で引用することは複製権の侵害となるため、できません(もちろん、引用等の要件を満たすことにより、適法に利用することは可能です。)。
また、「著作者人格権」において、未公表の著作物を公表するかどうかを決める権利である「公表権」(著作権法18条1項)が著作者に認められているため、例えば、児童・生徒の作品を文集などの形で公表したり、展示したりする場合についても、著作者である児童・生徒の許諾が必要となります(児童・生徒が18歳未満である場合には保護者等の法定代理人の同意又は代理が必要となります)。
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(文責・秦野)