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イノベンティア・コラム - 職務発明規程整備の基礎知識 (12)

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職務発明規程整備の基礎知識 (12) – 関連会社の制度整備

投稿日 : 2024年2月22日|最終更新日時 : 2024年2月22日| 神田 雄

直接・間接に資本関係のあるグループ会社が存在する場合、それらの企業間における職務発明規程にかかる制度整備や制度の統一を検討することがあります。この場面では、例えば、グループ会社間で出向等により人事交流があった場合の職務発明報償制度の公平や、グループ会社間での知的財産管理の集約といったことが実務上の問題意識となります。

グループ内の複数の会社の制度を考える際の視点として、特許を受ける権利等の権利の帰属の問題と、会社に帰属した場合の相当の利益・報償の問題とがあります。権利の帰属の問題は特に検討対象が海外グループ会社にわたる場合には顕著に現れ、相当の利益・報償の問題は国内外を問わず検討の対象となります。

ここでは、こういった観点から、関連会社の制度整備における考え方について説明します。

グループ会社との制度の統一

前提として、グループ会社間で職務発明規程を統一することは、少なくとも法令上は必要ありません。異質な業種の複数の事業部を持つ会社では、報償金の算定基準の統一が容易でないといった理由から、事業部ごとに職務発明規程が異なることもあります。

その上で制度を統一することのメリットを考えてみると、まずグループ会社間での職務発明に関する管理が容易になることが挙げられます。グループ会社に知財部門がなく、親会社等が管理をしている実態がある場合は、親会社の制度でグループの制度を賄うことによる管理のしやすさは、大きなメリットになり得ます。また、グループ会社間で従業者が出向をする際に、職務発明制度に違いがなければ会社も従業者も対応しやすくなるでしょう。

もっとも、グループ会社間であっても業種、業態や技術分野の違いにより、必ずしも同じ制度を採用することが適切でない場合もあります。M&Aによってグループに加わった会社などについては、当初は企業文化の違いもあり得るでしょう。グループ会社の数が多数になる場合には、事実上統一は困難ともいえます。

さらに、制度の統一のために一部の会社で職務発明規程の改定を行う場合、既存の制度に比べて不利益な変更となることもあり得ます。不利益な内容への変更が常に不可となるわけではなく、報償金の支払いが不合理と判断されないよう、適正な手続を履践すれば不利益な内容への変更も可能ではありますが、従業者との協議等で紛糾する可能性も生じます。報償金制度は、発明へのインセンティブとなることが重要ですので、社内に大きな不満を生じるような変更は慎重に考えるべきでしょう。

グループ会社間で制度の統一を考える際には、こういった点を踏まえて、統一をするか、また、統一するとしてどの範囲で統一するかを検討することになります。

なお、上述のとおり、報償制度の内容は、ひとつの会社でも事業部によって異なる場合もあります。こういった例は、製薬とそれ以外など、性格の異なる事業を同じ会社で行っている場合に見られます。

このように報償制度は、必ずしも全社的に統一しなければならないというわけではなく、統一の必要性やその範囲については、グループ企業間だけでなく、社内的にも考慮すべき場合があります。

海外子会社との制度の統一

日本の親会社と海外の子会社との間で、職務発明規程の統一を志向することもあります。そのメリットも、上記のグループ会社間について述べたのと同様、管理のしやすさや公平などが考えられます。

しかし、このような海外子会社との制度の統一を行うことは、現実的にはかなり難しいことであるといえます。

注意点として、外国との法制度の違いが挙げられます。例えば、発明の帰属をとっても、米国やドイツのように発明者個人に帰属する国もあれば、英国や中国のように使用者帰属の国もあります。同じ発明者主義であっても、米国は、権利の帰属も対価の取扱いも、個別の契約に委ねる傾向が強く、優秀な技術者は高額の給与で雇用される代わりに、個別の発明について対価の支払いは生じない取扱いとするのが通例です。他方で、ドイツは、会社による権利移転請求や、相当の補償を求める従業者の権利が法定され、補償金の額も細かく定められています。

そのため、海外子会社との制度の統一を図った場合、ある国では支払う必要のない報償金を支払うことになったり、ある国では法制度上許容されない状態になったりすることがあります。米国などでは、発明ごとに報償することを前提に均一な年功序列の給与体系を採用すると、優秀な技術者が雇用できないという事態もあり得ます。こうしたことから、海外の子会社で職務発明規程を統一することはかなり困難で、実務的には、本社とそっくり同じ職務発明規程を目指すよりも、発明の管理等に目的を絞るか、あるいは、取扱いを共通にしたいポイントとなる部分について同じ結果を実現できるように目配りすることが現実的といえるでしょう。

海外親会社との関係

なお、外国に親会社があるいわゆる外資系企業の場合、親会社から、日本法人が親会社と同じ制度を採用するよう要求され、ときには報償金の支払いをしない制度とすることを求められることがありますが、親会社とのルールの統一は、不合理性を否定する根拠にはなりませんので、注意が必要です。

例えば、高額の給与で雇用することで報償金に代えることについては、不合理性を否定する根拠となる余地もありますが、そういった給与体系を導入するかどうかを検討するに際しては、将来紛争に至った場合の発明と給与の紐づけの立証や、日本法人の雇用文化との関係を考慮する必要があります。

グループ会社の知的財産権の帰属

グループ会社間で職務発明制度の調整が必要になる場合として、グループ会社の知的財産権を本社・親会社に集中させる例が見られます。ここでいう集中とは、子会社等で発生した発明等の権利を実際に譲渡し、その権利者を本社・親会社とすることです。大きなグループ企業で全てのグループ会社が一律に権利譲渡を行うのは現実的でないことが多いと思われますが、知的財産を管理できる部門のないグループ会社の権利を親会社などが管理する例はまま見られます。

子会社等の知的財産権を親会社に帰属させる場合、職務発明規程整備との関係における留意点は、親会社への譲渡にあたって報償金をどう定めるかということです。法律上の原則論としては、親会社へ譲渡した後も相当の対価を付与する義務を負っているのは、その発明を行った発明者の使用者にあたる子会社ですので、実際に支払を行うのは子会社であることが多いと思われますが、その発明から生じるグループ会社全体の収益等に基づいて親会社が子会社にロイヤルティなどの名目で報償金の支払原資を支払うことなども考えられます。

方法は様々ですが、子会社の職務発明規程において、親会社やグループ会社へ譲渡した場合の報償金の取扱いを予め規定し、協議・開示・意見聴取等の手続を履践して、不合理と判断されないよう制度設計をしておくべきでしょう。

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(文責・神田)

 


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