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イノベンティア・コラム - 職務発明規程整備の基礎知識 (11)

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職務発明規程整備の基礎知識 (11) – 正規社員・役員以外の発明者の取扱い

投稿日 : 2024年2月22日|最終更新日時 : 2024年2月22日| 秦野 真衣

会社が職務発明規程を定めた場合、会社と雇用関係にある従業員にその適用があることについて、実務上疑義が生じることはありません。

他方、例えば、派遣社員が派遣先で発明をするケースや、グループ企業への転籍を伴わない出向に際し、出向先で発明をするケースもあります。このように、会社と雇用関係にない出向者や派遣社員が発明をした場合について、その発明者が、発明が生じた会社との関係で、「従業者等」にあたり、会社が職務発明規程に従って権利を取得できると考えてよいのかが問題となり得ます。

本記事では、派遣社員や出向者について、職務発明規程を適用しうるかを検討するとともに、職務発明規程その他における適切な手当てについて、解説します。

特許法35条における「使用者等」と「従業者等」

第2回「特許法が定める企業内発明の取扱い」で説明したとおり、ある発明が特許法上の「職務発明」に該当するためには、「使用者等」と「従業者等」の関係において生じたものであることが必要です。会社の従業員が発明をした場合、当該従業員は、使用者である会社との関係で、「従業者等」に該当することとなり、当該発明は、職務発明の他の要件を満たせば「職務発明」となりますので、職務発明規程に適切な権利取得規定が置かれていれば、会社が権利者となることができます。

これに対し、出向者や派遣社員については、一般的に、会社との間に雇用関係はありません。そこで、出向中・派遣中に発明をした場合、職務発明規程に従って当該発明を出向先・派遣先の会社が取得することができるのか、すなわち、出向者や派遣社員が、会社との関係で、「従業者等」にあたると考えてよいのかが問題となります。

特許法の解釈としては、「使用者等」と「従業者等」の関係は、必ずしも労働法上の使用者―労働者の関係と一致する必要はなく、「発明の奨励によって産業の発展を図るという特許法的観点から判断すべきものである」[1]と考えられています。したがって、使用者との間に雇用契約がない場合であっても、「従業者等」にあたる可能性はあります。

より具体的にみると、「使用者等」と「従業者等」の関係の成否は、給与の支払いを大きなメルクマールのひとつとしつつ、給与以外の資金・資材等といった人的物的資源の提供、指揮命令関係等の観点を総合的に勘案し、「誰に通常実施権を認めるのが妥当か、誰に権利の承継を認めるのが妥当かという観点、裏から見れば、誰に発明への投資についてのインセンティヴを与えることが発明の奨励になるのかという観点」から決定されるべきものとされています。

また、裁判例(知財高判平成30年6月5日平成30(ネ)10004号等)も、直接の雇用関係、給与の支払い、指揮命令関係、人的物的資源(研究資材の提供など)の有無等を検討して「使用者等」や「従業者等」を認定しており、基本的に上記と同様の考え方に立っています。

派遣社員・出向者が職務発明をなした場合

では、上記の判断要素に従って、派遣社員や出向者が職務発明をなした場合について検討してみます。

派遣社員は、派遣先の会社との間に雇用契約がありません。しかし、派遣社員が発明等をするにあたっては、「実質的には被派遣会社から研究施設を提供され、被派遣会社の指揮命令の下にあり、被派遣会社の正規従業者と事実上類似の仕事を行っている場合も多く、また発明の失敗のリスクは被派遣会社が負っている場合が多」[2]いと考えられます。

したがって、特許法との関係では、派遣先の会社の「従業者等」に該当することとなることが多いと考えられます。

また、出向者の場合も、同様に出向先との関係で雇用契約はありませんが、発明者は出向先の会社が給与を負担しており、出向先の指揮命令に従って発明を完成しており、かつ発明のための設備等の提供の主体は出向先であることから、発明者についても、出向先の会社の「従業者等」にあたり得ると考えられます。

職務発明規程上の定め方

上記の通り、派遣社員・出向者については、派遣先企業・出向先において、「従業者等」に該当し、職務発明規程の対象となる可能性があるものと考えられます。したがって、職務発明規程上も、しばしば、派遣社員・出向者が対象となる旨明記されます。

そのうえで、「従業者等」に該当するか否かはあくまで個別の発明ごとに判断されますので、関係者間での疑義を排斥するため、対象者や、派遣元、出向元の会社との間で契約上の取り決めを行っておくことが重要となります。

具体的には、派遣社員については、派遣契約において当事者間で派遣社員による発明について合意しておくことが望ましいと考えられます。職務発明ガイドラインにおいては、下記のように、契約で取り決めることが望ましいとされています。

「派遣労働者については、職務発明の取扱いを明確化する観点から、派遣元企業、派遣先企業、派遣労働者といった関係当事者間で職務発明の取扱いについて契約等の取決めを定めておくことが望ましい。 」

実務上は、多くの場合、派遣元と派遣先の間の契約において具体的な取り扱いを取り決めたうえで、派遣社員から当該取り扱いについて同意を得ることが行われます。

また、出向者については、出向契約書においても、出向者による職務発明の帰属について、出向先の職務発明規程に従う旨を記載しておくことが望ましいでしょう。

脚注
————————————–
[1] 中山信弘「特許法(第4版)」(2019年、弘文堂)(61頁)
[2] 中山「特許法」(62頁)

本記事に関するお問い合わせはこちらから

(文責・秦野)

 


 

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