消費者庁は、令和2年8月28日、「ウイルスシャットアウト」と称する首掛けタイプの空間除菌グッズに係る表示について、優良誤認表示に該当することを理由に、当該表示の差止めや、当該表示が優良誤認表示に該当し景品表示法に違反することを一般消費者に周知徹底すること、再発防止のために必要な措置を講じることなどを命じる措置命令を行いました。
本件は、本稿の解説と併せて読むことで不実証広告規制の重要部分に関する理解を得られる良い事例であるため、不実証広告規制の解説と併せてご紹介します。

ポイント

骨子

  • 首掛けタイプの空間除菌グッズに関する「あたかも、本件商品を身につければ、身の回りの空間におけるウイルスや菌を除去又は除菌する効果が得られるかのように示す表示」について、当該表示の差止め、景品表示法違反の事実の一般消費者への周知徹底などを命じる措置命令が行われました。
  • 違反行為者から上記表示の根拠とする資料が提出されましたが、合理的根拠とは認められず、上記表示は不実証広告規制により優良誤認表示とみなされました。
  • 報道によれば、違反行為者が提出した資料は1.6リットルや10リットルという狭い密閉空間での試験結果に関する資料だったとのことであり、少なくとも「身の回りの空間におけるウイルスや菌を除去又は除菌する効果」をサポートするものではなかったと考えられます。

措置命令の概要

対象商品 「ウイルスシャットアウト」と称する首掛けタイプの空間除菌グッズ
表示内容 自社ウェブサイトにおいて、

  • 「二酸化塩素配合の除去・除菌成分が周囲に浮遊するウイルスや菌を除去します。」
  • 「この時期・この季節に必携!ウイルスの気になる場所でご使用ください。」
  • 「首にかけるだけで空間のウイルスを除去!」
  • 「ウイルス対策 塩素成分で空間の除菌」
  • 「幅広く・様々な環境に最適! 学校 オフィス 病院 電車」

などと表示することにより、あたかも、本件商品を身につければ、身の回りの空間におけるウイルスや菌を除去又は除菌する効果が得られるかのように示す表示をしていた。

実際 違反行為者から資料の提出があったものの、当該資料は、上記表示内容の裏付けとなる合理的根拠とは認められないものであった。
打ち消し表示 「※使用環境によって効果が異なります。」と表示していたが、上記表示内容に係る消費者の認識を打ち消すものではない。

不実証広告規制

不実証広告規制とは

景品表示法は、自己の供給する商品又は役務の取引につき優良誤認表示に該当する表示をすることを禁止しているところ(5条1号)、ある表示が優良誤認表示に該当するか否かは、「表示の意味」と「実際の商品又はサービスの内容」との間に齟齬があるか否かによって判断されます。

このうち、「実際の商品又はサービスの内容」を認定するためには、専門機関を利用した調査・鑑定等が必要になる場合があります。このような調査・鑑定等を常に消費者庁が行わなければならないとすると、行政処分までに多大な時間を要することとなるため、その間、消費者被害が拡大するおそれがあります。
他方、販売する商品の性能や効能等につき優良性を謳う表示をする事業者は、当然、当該表示の内容を裏付ける合理的な根拠を有しているべきです。
そこで、景品表示法は、消費者庁は優良誤認表示が疑われる表示をした事業者に対して「合理的な根拠を示す資料」の提出を求めることができるとし、これに対して事業者が「合理的な根拠を示す資料」を提出しない場合には、当該表示は優良誤認表示とみなされる(措置命令との関係)又は推定される(課徴金納付命令との関係)としました(措置命令につき7条2項、課徴金納付命令につき8条3項)。

このような制度を、不実証広告規制といいます。

景品表示法7条2項(措置命令―不実証広告規制)

内閣総理大臣は、前項の規定による命令(※措置命令)に関し、事業者がした表示が第五条第一号(※優良誤認表示)に該当するか否かを判断するため必要があると認めるときは、当該表示をした事業者に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。この場合において、当該事業者が当該資料を提出しないときは、同項の規定の適用については、当該表示は同号に該当する表示とみなす。

景品表示法8条3項(課徴金納付命令―不実証広告規制)

内閣総理大臣は、第一項の規定による命令(以下「課徴金納付命令」という。)に関し、事業者がした表示が第五条第一号(※優良誤認表示)に該当するか否かを判断するため必要があると認めるときは、当該表示をした事業者に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。この場合において、当該事業者が当該資料を提出しないときは、同項の規定の適用については、当該表示は同号に該当する表示と推定する。

なお、措置命令及び課徴金納付命令の概要については、「新型コロナウイルス予防商品と優良誤認表示(1)~景表法による優良誤認表示規制の概要~」をご参照ください。

不実証広告ガイドライン

消費者庁からの求めに応じて事業者が提出すべき「合理的な根拠を示す資料」がどのようなものかは、不実証広告ガイドラインで説明されています。

同ガイドラインによれば、ある資料が「合理的な根拠」を示すものであると認められるためには、次の2つの要件を満たす必要があります。

① 提出資料が客観的に実証された内容のものであること
② 表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること

要件①:提出資料自体の客観性

要件①は、提出資料自体の客観性を求めるものです。
同ガイドラインでは、下表のいずれかに該当するものが要件①を満たすとされています。

試験・調査によって得られた結果 学術界産業界において一般的に認められた方法又は関連分野の専門家多数が認める方法があるか?

→Yes:そのような方法で実施する必要あり
→No:社会通念上及び経験則上妥当と認められる方法で実施する必要あり

専門家等の見解or学術文献 表示された効果・性能等について客観的に評価した見解or学術文献であって、専門分野において一般的にみとめられているもの

×特定の専門家等による特異な見解である場合
×新しい分野であって専門家等が存在しない場合

なお、同ガイドラインでは、具体的にどのような方法が上記「社会通念上及び経験則上妥当と認められる方法」に該当するか明らかにされていませんが、少なくとも、試験方法が商品の実際の使用環境に則したものであること、試験結果に再現性があること、調査方法につき統計的に客観性が確保されていることなどは必要条件といえるでしょう。

要件②:表示の意味との対応

要件②は、提出資料の内容と表示の意味との対応を求めるもの、つまり提出資料によって表示の意味がサポートされていることを求めるものです。
同ガイドライン8頁の<例1>では、下図のような事例が紹介されています。

事例解説

本件における「表示の意味」と「提出資料」

本件は、不実証広告規制が適用されて、違反行為者による表示が優良誤認表示とみなされた事案です。
そのため、本件を分析するためには、表示の意味と違反行為者の提出資料のそれぞれを比較して、なぜ提出資料が「合理的な根拠を示す資料」(法7条2項)と認められなかったのかを検討する必要があります。

まず、本件における表示の意味は、冒頭の表の「表示内容」記載のとおり、「本件商品を身につければ、身の回りの空間におけるウイルスや菌を除去又は除菌する効果が得られる」ことでした。
そのため、表示の意味に対する「合理的な根拠」を示すためには、提出書類が、①本件商品におよそ除菌効果があること、及び②本件商品の除菌効果が身の回りの空間における実用的なものであることの2点をサポートするものであること必要になります。

これに対して、提出資料について、Wellness Daily NewsyomiDr.などの報道によれば、表示の根拠として違反行為者から提出された資料は、1.6リットルや10リットルという狭い密閉空間での試験結果だったようです。

そのため、上記報道の内容を前提とすれば、①本件商品におよそ除菌効果があるか否かという点を措いても、②本件商品の除菌効果が身の回りの空間における実用的なものであることが提出資料によってサポートされていないといえ、その結果、上記要件②(表示の意味との対応)を欠くために、提出資料は「合理的な根拠を示す資料」ではないと判断されたものと考えられます。

違反行為者の主張

本件措置命令に対して、違反行為者は、自社ウェブサイトにおいて以下のとおり主張しています(下線部は筆者による)。

なお、令和2年8月21日に、消費者庁のご担当者様より弊社担当者に対し、本件再発防止命令に関する消費者庁の考えをご説明いただきましたが、消費者庁によると、弊社がウイルスシャットアウトの効果効能に関して提出した実験試料は、表示の根拠となる資料とはならないとのことでした。

弊社は、本件製品が二酸化塩素を実際に発生させる実験(①)のほか、本件製品の原材料として使用している二酸化塩素発生剤を使用した除菌・ウイルス除去試験(②)の結果を消費者庁に提出しました。しかし、消費者庁によると、①における二酸化塩素と②における二酸化塩素は化学上異なる物質なので、効果効能の根拠としては認めないとの回答でした

しかしながら、複数の実験を行い、いずれも二酸化塩素が発生している場合は、化学上同じ物質(ClO2)が発生していると考えるのが常識であると弊社は考えております。

コメント

上記違反行為者の主張の意味するところは、消費者庁は、そもそも①本件商品におよそ除菌効果があること自体が提出書類によってサポートされていないと判断したが、違反行為者としてはその点に疑義があるというものです。
もっとも、上記のとおり、仮に提出書類によって①本件商品におよそ除菌効果があることがサポートされていたとしても、上記報道の内容を前提とすれば、提出書類は、②本件商品の除菌効果が身の回りの空間における実用的なものであることをサポートするものとはいえないと思われます。
そのため、仮に上記違反行為者の主張が認められたとしても、結論に影響は生じないと考えられるでしょう。

空間除菌グッズに係る表示については、本事件以外にも、2014年3月27日に措置命令が行われたことがあります。当時の報道によれば、事業者から提出された資料は「二酸化塩素の殺菌効果を密閉空間で実験したデータなど」であり「人の出入りや空気の流れがある生活空間で使うには、十分な裏付けとは言えないと判断」されたとのことであり、本件措置命令における認定もこれと同様の構造のものと考えられます。
コロナ禍以降の需要の高まりを受けて、店頭では様々な空間除菌グッズその他除菌・ウイルス対策商品が販売されています。このような商品に係る表示に対する監視や法執行は今後も続いていくことが予想されますが、行政指導や措置命令は企業価値にも大きな影響を与える問題です。表示内容の決定に際しては、依拠する資料が「合理的な根拠」といえるか慎重に検討することが必要です。

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(文責・増田)