ある団体が分裂した後長期間を経てから、分裂後の団体の1つ(ないしその代表者)が、もとの団体が使用していた周知の商標について商標登録した場合に、当該商標を継続して使用する他の団体に対する商標権の行使が権利の濫用にあたるとして制限されました。

判決の中では、商標の周知性・著名性獲得への被告側の寄与や、原告がもとの団体の後継者の地位にないことも考慮されています。

ポイント

本年(平成28年)6月30日、東京地方裁判所において、権利濫用を理由として商標権の行使を制限した判決がありました。対象となった商標は、「極真/KYOKUSIN」(商標第5207705号)、「極真空手/KYOKUSIN KARATE」(商標第5207706号)、「極真会館/KYOKUSINKAIKAN」(商標第5284760号)など(他に法人保有の商標3件)で、判決によれば、いずれも、その使用については争いがなかったようです。

「極真空手」は、大山倍達氏を始祖とし、フルコンタクトルール(直接打撃ルール)を採用する空手の流派ですが、同氏の死後、内紛により同氏が設立した「国際空手道連盟極真会館」(以下「極真会館」と呼びます。)が分裂しました。
本件訴訟は、大山倍達氏から上記の商標について権利を相続した相続人と、分裂後の極真会館の分派との間で生じた争いです。

  • 本件各商標に類似する被告各標章は,遅くともC(大山倍達氏)の死亡した平成6年4月26日時点から現在まで空手及び格闘技に関心を有する者の間において極真会館又はその活動を表すものとして広く知られているところ,上記(1)認定事実・・・によれば,このような被告各標章の周知性及び著名性の形成,維持及び拡大に対し,Cの生前においては,長年にわたり極真空手の教授や空手大会の開催等を行ってきたC及び同人から認可を受けたB(被告代表者)を含む支部長らの寄与があり,Cの死後においては,国内外において大規模に極真空手の教授や空手大会の開催等を行い,その普及に努めてきたB及び同人が代表取締役を務める被告の大きな寄与があったと認められる。
  • また,原告らは,極真関連標章である本件各商標に係る商標権を取得して極真空手の教授等を行っているが,Cは後継者を公式に指名することなく死亡しており・・・,極真会館において館長や総裁の地位の決定や承継に関する定めはなく・・・,世襲制が採用されていたこともうかがわれず,他に相続人である原告AをCの後継者であると認めるに足りる証拠はない。そうすると,原告らは,極真会館を称して極真空手の教授等を行う複数の団体の一つにすぎないというべきである。そして,極真会館の分裂後にBにより設立された被告も,上記のような団体の一つというべきである。
  • 以上の点に加えて,原告らは,Cの死亡後,B及び被告が国内外で被告各標章を使用して大規模に極真空手の教授等を行っていたことを認識していたにもかかわらず,合理的な理由もなく早期に本件各商標に係る商標登録出願を行っていないことも考慮すれば,原告らが被告に対し,本件各商標権に基づき,極真関連商標である本件各商標やこれと類似する商標の使用を禁止することは権利の濫用に当たると解すべきである。

 

判決概要

裁判所 東京地方裁判所民事47部
判決言渡日 平成28年6月30日
事件番号 平成27年(ワ)第20338号
裁判官 沖 中 康 人(裁判長)
廣 瀬 達 人
村 井 美喜子

 

解説

権利の濫用とは

民法は、第1条3項において、以下のように定めています。

権利の濫用は、これを許さない。

大変短い条文ですが、これが、権利濫用が禁止される条文上の根拠です。意味するところは、「たとえ正当な権利を有していたとしてもそれを濫用することは許されない」ということで、具体的には、権利濫用と認められる場合には、権利行使のために訴訟を提起しても敗訴することとなり、場合によっては、権利行使が不法行為に該当するとして、相手方から損害賠償請求を受けることもあります。

権利濫用の要件

では、どのような場合に「権利の濫用」と認められるのでしょうか。
伝統的な通説は、権利を行使する側の利益と権利行使を受ける側の不利益を比較考量して、バランスを欠く場合に権利濫用にあたると解しています。一般的には、事件ごとの事情を具体的に考慮して、権利行使が濫用にあたらないかが検討されることとなります。

知的財産法と権利の濫用

知的財産法の世界では、特許に明らかな無効理由がある場合に、その権利を行使するのは権利の濫用にあたるとした最高裁判決が有名です(最判平成12年4月11日「キルビー特許事件」)。この判決は、明らかな無効理由のある権利の行使をカテゴリカルに権利濫用としたもので、訴訟実務のみならず、立法政策にも非常に大きな影響を与えました。判決以降、特許無効の主張が侵害訴訟における定番の抗弁となったほか、平成16年には特許法104条の3が設けられ、特許無効の抗弁が明文で規定されるに至っています。

近年では、アップル対サムスン事件における知財高裁特別部の判決・決定(知財高判・高決平成26年5月16日)が、FRAND宣言をした特許権者が実施の差止を求め、またはライセンス相当額を超える損害賠償を求めるのは、原則として権利濫用にあたるとの判断を示し、やはりカテゴリカルな権利濫用法理の適用を認めました。

本件の背景

本件の原告は、極真空手の創始者である大山倍達の相続人であったのに対し、被告は、極真会館の中心的人物で、それぞれ、極真会館の分裂後に分派で法人を設立し、「極真」などの商標の使用を継続していました。その中で原告は、「極真」などの標章を商標登録し、被告に対し、その使用の差止等を求めました。

大阪地裁判決の引用

本件訴訟の中で、被告は、大阪地方裁判所の判決(大阪地裁平成15年9月30日判決・判タ1145号255頁)を引用して、原告らの行為は権利濫用に該当すると主張しました。当該大阪地裁判決は、以下のように述べています。

商標は自らの役務と他人の役務を区別するために付けられる標章であるところ,複数の事業者から構成されるグループが特定の役務を表す主体として需要者の間で認識されている場合,その中の特定の者が当該表示の独占的な表示主体であるといえるためには,需要者に対する関係において,その表示の周知性・著名性の獲得がほとんどその特定の者に集中して帰属しており,グループ内の他の者は,その者から使用許諾を得て初めて当該表示を使用できるという関係にあることを要する。そして,そのような関係が認められない場合には,グループ内の者が商標権を取得したとしても, グループ内の他の者に対して当該表示の独占的な表示主体として商標権に基づく権利を行使することは権利濫用として許されない。

この判決は、商標権の行使が権利濫用に該当する場合を、ある程度カテゴリカルに示したものと言えるでしょう。

本判決

本判決は、複数の団体にまたがって使用される商標権の行使が権利濫用に該当するための要件を一般的に示すことは避け、以下のような具体的事実に基づいて権利濫用を認定しました。

本件各商標に類似する被告各標章は,遅くともC(大山倍達氏)の死亡した平成6年4月26日時点から現在まで空手及び格闘技に関心を有する者の間において極真会館又はその活動を表すものとして広く知られているところ,上記(1)認定事実・・・によれば,このような被告各標章の周知性及び著名性の形成,維持及び拡大に対し,Cの生前においては,長年にわたり極真空手の教授や空手大会の開催等を行ってきたC及び同人から認可を受けたB(被告代表者)を含む支部長らの寄与があり,Cの死後においては,国内外において大規模に極真空手の教授や空手大会の開催等を行い,その普及に努めてきたB及び同人が代表取締役を務める被告の大きな寄与があったと認められる。

ここでは、被告の代表者が、大山倍達氏の生前・没後を通じ、「極真」などの商標の周知性・著名性取得に貢献してきたことが指摘されています。

また,原告らは,極真関連標章である本件各商標に係る商標権を取得して極真空手の教授等を行っているが,Cは後継者を公式に指名することなく死亡しており・・・,極真会館において館長や総裁の地位の決定や承継に関する定めはなく・・・,世襲制が採用されていたこともうかがわれず,他に相続人である原告AをCの後継者であると認めるに足りる証拠はない。そうすると,原告らは,極真会館を称して極真空手の教授等を行う複数の団体の一つにすぎないというべきである。そして,極真会館の分裂後にBにより設立された被告も,上記のような団体の一つというべきである。

ここでは、原告らも、被告も、いずれも「極真会館」と称する分派の一つに過ぎず、いずれかが大山倍達氏の正統な後継者であるとは言えないことが指摘されています。

以上の点に加えて,原告らは,Cの死亡後,B及び被告が国内外で被告各標章を使用して大規模に極真空手の教授等を行っていたことを認識していたにもかかわらず,合理的な理由もなく早期に本件各商標に係る商標登録出願を行っていないことも考慮すれば,原告らが被告に対し,本件各商標権に基づき,極真関連商標である本件各商標やこれと類似する商標の使用を禁止することは権利の濫用に当たると解すべきである。

判決は、さらに、大山倍達氏の没後も被告らが「極真」などの商標を用いて大々的に極真空手の教授をしていたにもかかわらず、原告らが商標登録出願をしていなかったことを指摘し、結論において、原告らの商標権行使は権利の濫用であると結論付けています。

関連事件

極真空手の商標をめぐっては、かつて、東京地方裁判所が、以下のように述べて、分派間の権利行使が権利濫用に当たるとの判断を示したことがあります(東京地判平成15年9月29日)。本判決と同種の判断手法・内容であるといえるでしょう。

被告は,G(大山増倍達氏)が死亡した後,極真会館から分かれた一つの分派の代表にすぎないというべきであり,一方,原告らも,Gから支部長の認可を受け,認可を受けた地域において,極真空手の道場を設置して,極真空手の教授を行う等して極真空手の普及に努め,本件標章の信用性の向上に貢献してきており,現在も,従前どおり,自ら設置した道場で極真空手の教授等を継続し,極真会館のうちの一つの分派に属している。
以上の点を考慮すれば,極真会館の分派の代表にすぎない被告が本件商標権に基づき,原告らに対して,同じく極真会館の分派に属する者に対して,本件標章の使用を禁止することは権利の濫用に当たると解すべきである。そして,このことは,本件標章と類似する商標の使用についても同様に当てはまると解するのが相当である。

なお、この事件では、差止めを求められた側が商標権者に対して債務不存在の確認、つまり、商標の使用を停止する義務はないとの確認等を求めて訴訟を起こしたため、本件とは原告と被告とが逆転しています。

コメント

会社その他の団体が分裂し、その一部が商標権を有しているという状態は必ずしも珍しくはありません。本判決は、そのような状況における権利関係の調整原理として参考になるものと思われます。
また、カテゴリカルなアプローチによるとしても、個別具体的判断に基づくケース・バイ・ケースのアプローチによるとしても、商標権の行使を権利の濫用と認定する手法を具体的に示した事例として、参考になるものと考えられます。

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(文責・飯島)